その手に栄光を その4
路地は泡立っていた。際限なく湧き出す褐色の泥が、市街を覆い尽くしている。
東外郭二条と隣接する区画である。
星馳せアルスが上空を通過してからは、僅かの時しか経っていない。
泥の海に飲まれた住宅が、基礎を失って傾く。大地の
広告用の細い鉄塔の頂上に、その魔具は打ち捨てられていた。
小鳥がその上を横切ろうとして、閃いた泥の刃に切断された。両断された死体が海に飲み込まれていく間に、さらに四度の刃が連続して飛んだ。
周囲のあらゆる地形を泥に飲み込み、本体に近づく者を泥の刃で迎撃する。
腐土太陽と呼ばれた魔具の、本来の性質であった。
星馳せアルスの制御を離れ、無造作に投棄された今のそれは、かつて泥の迷宮を作り出していた時と変わらぬ、文明を滅ぼす自動的な災厄である。
「うっ……むうっ、この、貴様、機械の分際で……動かんかッ! 何をしている!」
市民の姿はないが、一台の蒸気自動車が泥に足を取られて停止している。
乗員は一人。自ら災厄の渦へと飛び込んできた、無謀な男であった。
「早く、行かなければ……!
「なァにやってんだ」
「ひっ!?」
初老の男は窓を凝視した。外には蛙に似た相貌の奇怪な男が座り込んでいる。
病衣めいた衣を羽織っているが、肩に剣呑な輝きを放つ一本の刀を担いでいる。
「この辺、余裕で足がつくだろ。歩け」
「き、貴様……貴様は、柳の剣の……」
「星馳せアルスはどっちだ」
柳の剣のソウジロウは、目を細めて遠くの火の手を眺めた。
「あっちか?」
通りは泥の海に阻まれ、馬車の到達を阻んでいた。それでも、隣の区画だ。歩いて進めば十分に到達できるように思えた。
とはいえ――剣士は、鉄塔の頂点より湧き出し続ける泥塊を見上げる。
「つーか、こっちをやる奴はいねェのか」
「私……私は、行くぞ。ここは、任せるぞ」
「ウィ。なら車はいらねェわな」
這うように通りを駆け去った男を見やることもなく、ソウジロウは腰を起こした。
両の脚で立ってはいるが、右の足元は長い病衣の裾に隠れて見えぬ。
立ち上がる動作の間に背負う刀を振り抜き、その時には燃焼室が切断されている。
高熱の石炭が地面に溢れ、それは車輪を捕える泥を沸騰させた。
車輪を捉えるぬかるみが乾いていく。この付近はまだ、足のつく浅さだ。
すぐさま運転席へと転がり込み、絞り弁を全開にして残る蒸気を送り込む。乾いた泥の表面を噛んで、自動車は爆発的に発進した。
「行けるもんだなァ。いい感じだ――」
屋根に指を掛け、開け放たれた扉から身を翻す。
向かい風を受けながら、奇剣士は暴走する車上に屈んで待った。
進路は直線だ。泥の海の根源。その鉄塔へと。
……全速力で進む車輪は泥に阻まれ、当然に転倒する。
足元より伝わるその兆しを逃すことなく、ソウジロウは跳んだ。横転。破損。火花が跳ねる。こぼれた石炭が夥しく散っていく。
そして着地。
それは起こるべき現象を先読みする、剣士の到達の果ての直感であるのか。
ソウジロウは狙い違わず、横倒しになった車上に再び落着している。
自動車は鋼鉄のそりと化して、慣性のまま泥の海を滑った。
「ウィ」
その速度の後押しを受けて、再び跳躍した。
湧き出す泥の質量に傾いだ塔の、荷重が最も集中する柱を狙っている。
空中で体を捻った。飛来物を迎撃する泥の刃が三連続に飛んだ。かつて見たオゾネズマの刃とは比べるべくもない。一回転の間に、全てを刀身で逸らして弾く。
自動車に与えられた加速に全体重が加わる、完全な一瞬に刃筋が合った。
切断。
直後残る柱の一つを左手で捉え、剣士は泥海への落下を止めた。
上空からの泥の刃を塵でも払うが如く防ぎながら、ソウジロウは成果を確認する。
支えとなっていた一本が裂断し、鉄塔の傾きはさらに深くなってゆく。
そして、頂上の腐土太陽が滑り落ち――地面に落ちる前に、弾けて溶けた。
奇剣士は訝った。
「……あァ?」
無限に街を覆い尽くしていた泥は、急速にその厚みを薄れさせ、乾いていく。
必斬の剣が閃く寸前に、何かが起こったのだ。
魔具が引き起こしたありとあらゆる事象が、一瞬で否定されたかのような。
ソウジロウはそちらへと顔を向けた。
何かが立っている。
路地の遠くから……灰色の
「…………」
「オメェ……グッ、グッ。なんだ。また変なのがいやがる」
地面に降り立ち、衣服の裾を泥に浸しつつも、ソウジロウは首を鳴らした。
その候補者の名は知っている。それ以外は何も知らない。
……彼も警報の鐘の音を聞き、義務を果たしに来たのだろう。
討ち果たした敵を喰らう義務よりも先に――
勇者であるべき者が、当然そうするように。
「からっぽの野郎だ……」
ソウジロウは思う。
その存在を斬らんとする欲求を、抑えきれるかどうか。
――――――――――――――――――――――――――――――
炎が空気を吹き上げる。見渡す限りが崩れて溶ける。
悲鳴と絶叫に揺れる下層区に、一際通る怒号がある。
「いいか貴様らァーッ! 全ての民が貴様らの行いを見ているぞ! 人生を打ち捨て、
壮絶な烈気が兵の咆哮を煽る。
鉄面で顔を覆った大男の名を、
かつて魔王自称者モリオと刃を交えた猛将は、長く久しい療養からの前線復帰にも関わらず、最も過酷な戦場を所望した。
空には、一羽の
しかし、これまで相手取った如何なる大軍勢にも勝る悪夢。
市街は雷撃に割れ、火炎が走り、滅びの波が今まさに打ち寄せつつあった。
南の区画は、翼の到来と同時に焼き滅ぼされた。
市民の避難が最も遅れた北端。
血と熱傷に塗れながら、サブフォムの部隊は最後の一人までを逃し、時間を稼ぐべく粘っている。そうした死力も、星馳せアルスが僅かな気紛れを向けるだけで、無為に帰す泡沫に過ぎないのだろう。
「ああ! 勝ち目はないか!? 俺の言葉を疑うか!? ――音斬りシャルクを見てもそう思うか! 奴は一人でいる! 貴様らッ! たった一人であの魔王自称者と戦っているぞ! ならば我々の一人一人が、奴と同じ勇気を奮えばどうだ! 無力の民を逃がす如きが、どれだけ容易い義務であるか――」
「サブフォム様ッ! 農園方面にて
「よくやった! 貴様、名前はなんだ!? ああ!? 千地のプオル! 誇るがいい! 貴様が救った者は、記憶にその名を刻んだぞ!」
「第三班、再編成を完了!
「貴様、
戦い続ける軍勢を眼下に見下ろし、シャルクは戦い続けている。
集った兵の装備から矢の束を拝借しているが、弓は携えていない。
先程に見た、魔法のツーの戦い方だ――屋根から屋根へと飛び渡り、ヒツェド・イリスの
紙一重の回避。火災の延焼と市民の避難状況を判断し続ける思考負担。
随分長く、そうして一人で戦い続けていた。
「……」
「……我ながら、無表情には多少の自信があったが」
その魔具から射出された矢は、一つ一つが尋常の火砲を遥かに凌駕する初速の、致命の一撃となる。
それでもこの程度の射撃が、星馳せアルスの牽制に意味を持つだろうか。全てが無意味なのではないか。シャルクは自信を持てずにいる。
「どうやら、あんたには勝ちを譲ってよさそうだ」
魔弾の銃口が向いた。雷光。走り抜ける勢いを加速して躱す。
先程の戦闘中に四発。アルスが移動を始めてから撃った雷轟の魔弾は二発……いや三発だったか。
(方針変更だ。この雷を撃ち尽くさせる。残り何発かは知ったことじゃないが……)
致命の魔弾は、まだ複数の種類を残しているのだろう。
しかしこの稲妻さえ尽きたならば、
走行と跳躍を繰り返し、一つの尖塔の上に立つ。
逃げ、隠れることで引き止めていた先ほどとは違う。自らを明瞭な標的として、狙わせ続ける。
「来い。――俺はここだ」
眼下には、払暁の如く炎上する市街。
焼けゆく雲を逆光に、堕ちた英雄は影の翼を広げる。
轟雷の兆しを見た。シャルクは尖塔を蹴り……
(……しまった)
彼の立つ土台。尖塔が既に傾いていることに気付く。
遙か下方で、地走りの炎が支柱を溶かしていたのか。
動かない炎に紛れて、既に接近していた。
明るく燃える光の洪水にあって、その性質の差異を判別することは極めて至難だ。
跳躍の機は僅かに外れ、初動が僅かに遅れる……それだけならばいい。
敵は地平咆メレではない。シャルクだけが持つ時間の中で、ただ撃ち込まれる電光の軌道を回避する程度ならば、それは難しい作業ではない。
問題は、地走りの炎が走り抜けていった先にある――僅かに遅れたその分、炎の先にいる避難民を、逃しに走ることができない。
次の手。次の次の手。アルスの射撃に対応しているその間に、手遅れになる。
「クッ!」
炎は、今まさに逃げようとする二つの家族に迫り……
「防御陣形!」
「ガアアアアーッ!」
「オオオオッ!」
割って入った三名の
瞬時の連携で揃えた鉄盾は、それを構える兵ごと溶解し、地走りの炎は盾の傾斜で僅かに逸れて、川へと沈んでいく。
そして流れる水を川底まで蒸発させながら、対岸にまで走り抜けた。
「くそ……っ、三人やられた! まとめてだ!」
「逃がせるか!? 盾は足りるか!?」
「戻ってくるぞ! ああ、炎が戻ってくる!」
一心不乱に逃げる人々の波。その流れに逆らいながら、叫び続ける声があった。
「アルス! アルス!」
迷い出たこの初老の男が、議会よりの持ち場の指示からも外れて、ただ一人この戦場へと現れた二十九官であると、気付く者はあっただろうか。
中央地区の誘導に当たるべき男は、今は何よりも危険な地帯にいた。
「うう……う、ああ……! 私……私だ、アルス! なあ、分かるだろう!? わた、私だ……ハルゲントだッ!」
誰よりも多くの
すぐ背後を炎が走った。熱がハルゲントの背中を焼いた。
精神の奥底まで冷え切ったあの光景とは真逆の、肉体を焦がす熱だった。
彼は咳き込み、そして届かぬ声を再び叫んだ。
「アルス!」
――――――――――――――――――――――――――――――
一人の避難民が炎に巻かれた。眼前で、声を発する間もなく。
僅かに逃げる順番が早ければ、イスカら母娘も同じ運命を辿っていただろうか。
母は声を立てる力すら失っていたが、イスカを抱きしめる力は変わらなかった。
(私のせいで)
今日、もしも母が死ぬのだとすれば、それはイスカのせいだ。
彼女の病のせいで、逃げる足が遅かったから。
走る炎の輝きは火災に紛れて、またどの方向から現れるかも分からなかった。
頼るべき兵士も、三人が煙になって消えてしまった。
動けば、またあれが来るかもしれない。恐怖と痛みが、熱が足を止める。
頭上には恐ろしいものがいる。イスカを見下ろして、逃してはくれない。
それは尖塔の瓦礫に消えた誰かに銃口を向けて、発砲の音が続く。二発。三発。
「……ああ。あああ……」
「イスカ。あなた、あなただけでも逃げなさい。あなたが支えなのだから……」
誰にとっての支えであるか、口に出しはしない。それはイスカも同じだ。
だが、強くない体でイスカを支え、手を引き続け、耐え続けた母は、もう進めなくなっているに違いなかった。
進むことも引くこともできぬ絶望の淵の只中、彼女は縋るように曇天を見上げた。
十六の少女にすぎない彼女の目では、空の魔王自称者と戦い続ける
「――星」
その輝きは、白昼の空にもはっきりと見えた。
白い軌跡を引く流星が、今、星馳せアルスを翻弄しているのだった。
何かが飛来している。途方もなく速いあの
巨人街の方角から。地平線に隠れて見えない、あんなにも遠くから。
「ああ……どうして……?」
同じ炎が、同じ力が、ここまで違う輝きに見える。
空の
彼女が何よりも信じる一人の
(どうしてなの――ロスクレイ)
空を見上げて止まった足は、少しだけ歩くことができそうな気がした。
戦い続けている者がいる。測り知れない勇気を振り絞っている者たちがいる。
力なき人々に、まだ生きていてもいいのだと言っている。
今度は自分が支えてもいい。自分が手を引いてもいい。
……先に向かう力があるのならば、母と共に。
イスカは振り返り、そして見た。
「……母さん!」
「イス……」
母の姿は、真っ黒な影に見えた。
彼女の背後から、地走りの炎が迫っていて……別れを告げる間もなく。
瞬きの内に。
「【消えて】」
――その通りのことが起こった。
自ら動き、都市を滅ぼす“地走り”は、それで消えた。
区画を覆い尽くしていた炎も、何もかもが一瞬で消えて失せた。
悪夢が唐突に覚めたかのように、ただ一言で現実が変わった。
新たに現れたその存在を、イスカは見た。
「あなたは」
「……別に。大丈夫?」
緑色のフードに顔を隠した少女のように見えた。
首元の隙間からは一筋、美しい白金色の髪が流れていた。
「あな、あなたこそ……足、怪我してるの?」
イスカの目には、少女は片足を引きずっているように見えた。
まるで
碧色の瞳が、空を見上げた。
「――」
そして思う。もしも、彼女の戦うべき敵がそれだったなら。
ただの暴力の化身として災禍を齎す、ただの敵であったのならば。
彼女は、最初からそのようにできていただろうか。
今から起こす物事は、全能の
彼女は、今鳴り響いている警報の意味すら教えられてはいない。
それでも……そうすることで、多くの命を救えるのなら。
「【焼けて】」
――――――――――――――――――――――――――――――
巨大な異変に反して、それはごく些細な変化に見えた。
炎に照らされていた雲が、まるで円を描くように消え去った。
視覚では、その異変の大きさを理解することはできない。
鉄をも気化させる大熱量が、上空一帯に発生していたことを。
どんな爆炎をも凌駕する不可視の閃熱が一瞬の内に走ったことを。
雲の氷の粒まで蒸気と化して、そうして消えた。
……星馳せアルスはその爆心にいた。
形を失わず。
「……」
その名は、とうに忘れている。使い方だけを覚えていた。
自身のみならず、その武装までをも防御する切札。
死者の巨盾という、絶対防御の――
そして。
「ああ。さすがだよ。地平咆メレ」
そして、墜ちた。
「撃墜ーッ! アルス撃墜を確認!」
「どうした!? メレがやったのか!?」
「いいや、炎が消えたぞッ! あれは――」
「まだ確認していない! 誰かが行け!」
周囲を取り囲む兵は、失墜する災厄を頭上にして、口々に興奮を叫んだ。
直下に立つ黒衣の男は、正反対の冷めた心持ちで墜落の様を見届けている。
「どこにいようと見える位置にまで、追い込むなんてさ。とんでもない、弓手だ」
通り
ずっと温存していた自由意志による即死の力を、彼は躊躇いなく用いた。
「……全然。ふへへ……安いもんだ……このくらい」
アルスは、一つの住宅の屋上へと落ちていく。
佇むクゼの横を駆け抜けて、その場所へと向かう者がいた。
「アルス! アルス! 待ってくれ……!」
「……無駄だよ」
クゼは、ただ小さく呟いて、すれ違うままに任せた。
死の牙が触れたものは、そうして例外なく。
「もう、死ぬ」
――――――――――――――――――――――――――――――
彼の
獲物が巣にある間は決して討たず、群れが飛び立った後、空中にある間に追い込む手である。
射撃で逃げ道を塞ぎ、そして本命の狙撃点に追い込む。
地平咆メレの選んだ戦いは、彼がずっと行ってきた、最適の戦術であった。
ただ愚直に、一つのことだけを。
「アルス……私は、ハァ、私……アルス……まだ、決着を……」
走り続けた老体は息も切れて、階段を登るごとに心臓が破れるほどの心地がした。
折れてはならない。止まってはならない。
きっと、この程度ではなかったから。
最強の冒険者が駆け抜けた旅路は、この程度の困難ではなかった。
「ハ……ッ、ハッ、【
彼も、長い旅をしてきた。彼に追いつくための旅を。
第六次
「【
駆け上りながら階段の鉄を捻じ曲げて、それを作り出していく。
戦うための武器を。他でもなく、彼はそのために来たのだから。
「【――
二つ名は静寂なるハルゲント。彼の誇る
「……」
「アルス。貴様……貴様を、なあ。今度こそ、倒しに、来たぞ……アルス……」
一羽の
全ての伝説を踏破した。想像し得るあらゆる栄光をその手に掴んだ。
凄いやつだ、とハルゲントは言いたかった。
かつて、海の見える町で出会ったときの彼は、三本目の腕を動かすことすらできていなかった。
その驚くべき研鑽と、それを為し得た意志の力を認めたかった。
「……ハルゲント」
――今の彼には、何もない。
手にした魔具も、栄光の記憶も、生命すらも、何もなかった。
「う、うう……アルス……お前は……凄いやつだ! 本当だ! 俺はずっとそう思っていた! お前みたいな
「……そっか」
もう力も残っていない。武器すら携えていなかった。
けれどハルゲントには、彼が何をしたいのかが分かった。
銃を、構えようとしている。
矮小で、栄光を掴むことのなかった愚かな
「おれは……ずっと……奪ってばかりだったけど……」
――将軍になったら、英雄にも。
「…………やっと……返すことができるよ……」
「うううう……ぐ、ああああああァァーッ!」
絶叫とともに放たれた弩砲は、英雄の頭蓋を串刺しに貫いた。
“羽毟り”はそうして、ただ一羽の
「あ……ああ……」
力が抜けていくが、倒れる訳にはいかなかった。踏み止まった。
何をすればいいのかを分かっている。
彼はよろめきながら、星馳せアルスの遺骸へと歩んだ。
そして、屋上の縁から眼下を見渡した。
焼け果てた市街。魔王自称者に脅かされた、
未だ逃げ遅れた多くの市民が。熱意に燃える兵士が。彼の言葉を待っていた。
「アル……アルスを。――星馳せアルスをッ! 今討ち果たした!」
ざわめきが広がった。今は誰もがハルゲントを見ていた。
保身に身を窶し、市民を顧みることもない、時代遅れの、彼は無能な武官だった。
真の栄光を掴んだことなど、一度もなかった。
「我々の勝利だ! もはや邪竜に脅かされることはない! 耐え忍んだ民と、彼らを支えた兵に敬意を! 見よ!
その場の誰もに見えるように――苦闘の終結が伝わるように。
新たな英雄は、友の無残な死体を高く掲げた。
「や……やった!」
「終わったぞーッ! ハルゲント将がやった!」
「見届けたぞハルゲント!」
「ハルゲント様!」
「これで、やっと帰れる!」
「ハルゲント!」
「ハルゲント!」
「ハルゲント将!」
「第六将ハルゲント!」
偉大なる功績を称える民の歓声の只中で、彼は蹲った。
「う、ううう……うう……!」
迅速な対応の結果として――魔王自称者アルスによる
死者、行方不明者十九名。負傷者四十名。
東外郭二条及び四条から五条、壊滅。
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