第267話 一年後06


 チャプン。


 湯面が跳ねる。


「ふい」


 温泉に入る一義だった。


 かしまし娘同伴。


「いい加減慣れた頃合いだね~」


「ですね」


「だよ!」


「だねぇ」


 かしまし娘にも異論は無いらしい。


 ライティングが使えたり使えなかったり。


 そんなところだ。


 これから少しずつ覚えていけばいい。


「そも一年で魔術が使えれば世話は無い」


 そんな修羅の道だ。


「お兄ちゃん?」


「何でっしゃろ?」


「生徒大丈夫?」


「さてね」


 事実。


 一年間薬漬けなのだ。


 その兆候はまだ現われていないが、


「時間の問題」


 それも事項。


「どうするか」


 との懸念はあるが杞憂でもある。


 少なくとも一義は関知しない。


「マジカルカウンター」


 その恐ろしさは知っているが、


「月子限定で」


 と注釈がつくのだ。


 他はあまりどうでもいい。


「ふい」


 肩まで湯に浸かる。


「ご主人様」


「お兄ちゃん」


「旦那様」


「何かしらん?」


 だいたい分かる。


「抱いてください」


「抱いて!」


「使ってくれて構わないよ?」


「面倒」


 ザクッと切って捨てる。


「ご主人様~」


「お兄ちゃ~ん」


「旦那様~」


 抱きついてくるかしまし娘だった。


 もっともその基軸は三人とも知っている。


 灰かぶりの灰色姫。


 月子。


 一義はまだ振り払えていないのだ。


 むしろそうでないならかしまし娘の具現なぞしていないだろう。


 その全ては、


「自慰行為」


 で済むのだから。


 それでも三人のレゾンデートルは一義だけだ。


 そうなるように一義が造ったのだから致し方ない。


「造り直す必要があるかな?」


「駄目です」


「駄目だよ」


「駄目だね」


「だぁよね~」


 一義も本気で言ったわけでは無い。


 悪夢を見たときの慰み。


 そこには真摯な愛が必要だった。


 だからこそかしまし娘は一義にベタ惚れなのだから。


「ただ方向性がなぁ」


 心中思う。


「ま、後数年か」


 一義にしてみれば霞のような時間。


 少しの不安は、


「このままでいいのか?」


 自分にしろ他人にしろ。


「ご主人様はそのままで」


「十分魅力的」


「その通りだとも」


「これを本気で言うからな~」


 誰のせいって一義のせいだが。


「おっぱい揉んで良いんだよ?」


「音々は無いでしょ」


「あたしならどうだい?」


 豊かな乳房が湯に浮かんでいる。


「気が向いたら」


「わたくしは全てを捧げる所存です!」


「さいでっか」


 特に斟酌にも値しなかった。

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