第266話 一年後05


 花々はイヴォンヌと手合わせをしていた。


 トランスセットと並行だ。


 トランス状態の獲得は必須事項だが、


「金剛力は体験が一番」


 とのことで手合わせも講義に組み込んでいた。


「っ」


 イヴォンヌが手をヒラヒラ振っていた。


 赤くなっている。


 花々を殴った証拠だ。


「殴った手の方が痛い」


 とは良く言われるが、花々の金剛は字面通りだ。


「硬いぜ」


「そういう魔術であるからな」


 花々は苦笑する。


「その硬さを手に入れるための手合わせだよ君」


 殆ど不条理にも近いオールラウンダー。


「あとは膂力も……か」


 太い丸太を抱きしめてへし折る。


 鯖折りどころの話ではない。


 一言で、


「怪物」


 と評せる。


「うわお」


 とイヴォンヌ。


「君が目指すところだ」


 皮肉っぽく笑う。


「では続きと行くか」


 手合わせだ。


「常に最強の自分をイメージするんだ」


「っ」


 手刀が襲う。


 花々は軌道を逸らす。


「最速」


「っ」


 逆手の裏拳。


 ガードのために腕を上げる。


「最硬」


「っ」


 さらに回転。


 回し蹴り。


 まともに頭部に受けたが花々は平然とした物だ。


「そして最強」


 トンとイヴォンヌの腹部に拳を当てる。


「気合いを入れるんだ」


「っ」


「金剛の体をイメージしろ」


「っ」


「でなければ死ぬからね」


 寸勁。


 衝撃が炸裂した。


 吹っ飛ばされるイヴォンヌ。


 地面を三転して血を吐く。


「ぐ……」


「とまぁこれが金剛だよ。まだ序の序だけどね」


 本気を出せばイヴォンヌの体は挽肉になる。


「がはっ」


「ほいほいゼルダ教師」


「はい」


 スパルタ教育の花々にはゼルダはとても有用だ。


「ヒーリング」


 魔術で怪我を治す。


 しばし時を置くと、


「人外だな先生は」


「そういう職業だからね」


「俺もなれるか?」


「そりゃ可能性は誰にでもある」


 ホケッと。


 花々の場合は自然現象だ。


 そもそもオーガの前提条件。


 花々は純粋なオーガではないが、それでも構造上は同一だ。


 金剛に不足無し。


「というわけで」


 ツイと外から屋内を指す。


「さっきの攻防をイメージしながらトランスセット」


「は~い」


 いい加減反抗心も折れたらしい。


 素直なイヴォンヌなのでした。

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