第263話 一年後02


「ライティング」


 ポツリとステファニーが呟いた。


 光がポッと灯る。


 明かりの魔術。


「魔術の基礎」


 とも呼ばれる。


 イメージしやすくパラメータも単純。


 現象としても原始的。


 トランス状態のスイッチを学ぶために座学庵でも奨励されている。


「後は」


 一義はステファニーを見やる。


「そのライティングを無詠唱で出来ればな」


「難しいです」


「知ってるよ」


 苦笑い。


 実際に一義も苦労した。


 矛盾に目覚めたのは突発的だったが、そういう転換期もあったりはする。


「けどま」


 クシャッと碧色の髪を撫でる。


「教えて一年で魔術を使えるようになったのは大した物だよ」


「ですか……」


 チラリと杏色の少女を見やる。


 ザンティピーだ。


「…………」


 元から寡黙だが、それは魔術にも言える。


 ひたすらあらゆる属性の魔術を乱発している。


 無詠唱で。


「アレは参考にならないから気にしない方が良い」


 元の素質の問題だ。


 失語症か単なる寡黙か。


 どちらにせよ言葉を扱わない時点で無詠唱魔術に偏るのも必然だ。


 一義が、


「斥力とは――」


 と講義すると次の日には再現して見せた逸材。


 簡単な斥力は最初から使えたが、今では矛盾にも立ち回りが出来る。


 一義本来のキャパには及ばないが、少なくと中の上以下の魔術師では歯が立たないだろう。


 ザンティピーの魔術の冴えはそれほどだ。


「一応ザンティピーにも師事してるんでしょ?」


「えと。はい」


「あの子を追っかけてみると良いよ。それは決して損にはならないから」


 頭を撫で撫で。


「はい。そうします」


 首肯。


「先生はどうして斥力を?」


「万能だからね」


 清々しく言ってのける。


 嘘が九割だ。


 答えはもっと単純で、


「最強の力を手に入れたい」


 それだけ。


 復讐のための力だ。


 淀み歪み捻くれる。


 が、そんな負の想念は一欠片も表情に出さない。


 誰かと共有することもしない。


 ただ一義とかしまし娘が知っていれば良いだけだ。


 畳に座って斥力場を展開する。


 ポンポンとあらゆる物が跳ねる。


 キャパはなくともこの程度なら範疇だ。


「その内……」


「その内?」


「空を駆けられるようになるよ」


「空を……」


「足下に斥力場を発生させて跳ぶんだ。それを空中でも連続行使が出来れば空中を駆けられる」


「先生は出来るんですか?」


「まぁ」


 その程度ならわけもない。


「是非見せてください!」


「ライティングの無詠唱が出来るようになったらね」


「にゃー……」


 がっかりらしい。


「あまり期待するほど大層な魔術でも無いんだけど」


 一義としてはそんな感じ。

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