第251話 傷心者と小心者05


「どうぞゼルダ様」


 姫々がお茶漬けを差し出す。


 暗に、


「帰れ」


 と言っているわけではない。


 食欲の失せた一義が食べやすいようにメニューを配慮した結果だ。


「うまー!」


 と音々。


「さすが」


 と花々。


「本当に美味しいですね」


 いつの間にやらついてきたエルフ一人。


 姫々の茶漬けはダシも絶品で、わさびの香りも海苔の味も損なうことなく、白米がサラサラと嚥下できる。


 一言で、


「絶品」


 と表せる。


 とりあえずマジカルカウンターを発動させた異常者は拘束され、治療院に連れて行かれて場は収まった。


 代わり……ではないがエルフがついてくる。


 名をゼルダと自称した。


 ハーフエルフとのこと。


 ジクリと一義の胃を痛めるが、嘔吐にまでは至らない。


 エルフと会う度に吐いていれば、そもそも食事もおぼつかないのだ。


 で、食後の茶の時間。


 ハーフエルフ……ゼルダが話題を切り出した。


「あなたがお隠れになった月子殿下の……」


「そ、間接的加害者」


「「「また此奴は」」」


 そんなかしまし娘。


「責任感は結構だが重荷を背負いすぎる」


 との評価。


 間違ってはいないが、


「人の縁に方程式はないから」


 との理屈。


 どちらが正しいかはここでは割愛。


「で、提案なんですけど」


 ゼルダは本題を切り出した。


「講師になってくれませんか?」


 ポカン。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


「は?」


 まぁそういう反応にもなる。


「講師?」


「ええ」


 ゼルダの藤色の視線は真剣だった。


「大鬼を一手で滅ぼす魔術の使い手」


「…………」


 心が出血する。


「なお人間を三人も投影して維持するキャパシティ」


「…………」


 かしまし娘は茶を飲みながら思案していた。


「是非とも魔術の講師に」


「何処の?」


「座学庵の異国部ですね」


 一義は茶を飲んで胃を落ち着ける。


 座学庵。


 要するに学校だ。


 和の国での呼び方。


 西方の国では学院と呼ばれるが、それはまた別の話。


 その座学庵の異国部と為れば当然外国人の教室なのだろう。


 ゼルダという異国の名を持つエルフが居るのだから必然だ。


「あなた方の魔術の知識が必要なのです」


 とはゼルダの主張。


 かしまし娘は三色の瞳を一義に向けた。


「…………」


 思案するような一義。


 しばし茶をすする音が支配する。


「お給料はいかほどで?」


 聞いて答えられると、団子茶屋の数倍は約束された。


「とはいえ魔術講師かぁ……」


 ほとんどトラウマだ。


 一度ソレで失敗して、トラウマを刻みつけられた一義であるから。


「僕はあまり上手く魔術を使えないよ」


「でしょう」


 その辺の絡繰りはゼルダも理解している。


「けれどもお三方は雄弁ですよね?」


「だねぇ」


「引き受けるのかい?」


 花々の揶揄するような声。


 こういう不貞不貞しさは一義の欲するところだ。


 姫々や音々ならこうはいかない。


「ま、給料が出るなら良いんじゃない?」


 そんなわけでこんなわけ。


 座学庵異国部の魔術講師と相成る一義ならびにかしまし娘だった。

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