第250話 傷心者と小心者04
特に理由は無いが、禍福はあざなえる縄の如し。
昼間はひたすら一日中団子茶屋のテラス席でボーッとかしまし娘の仕事ぶりを見て、夜への恐怖にじわじわ侵食されていく。
「アイツは何だ?」
が客の通念だが、
「さてね」
一義もあまり理解していない。
店主としても迷惑の種ではあるが、かしまし娘の根幹を知っているため、無下にも出来ない状況だ。
実際にかしまし娘は誰一人違わず美少女であるため、客が鼻の下を伸ばして暖簾を潜るのだから。
一人のニートがぼんやりしているのは、
「必要経費」
に分類される。
予算の都合はつかないとしても。
夕暮れ時。
和の国では逢魔時と呼ばれる。
人の理である昼。
妖の理である夜。
その中間の時間は陰陽入り混じり、人を妖に招くとされる。
特に、
「神隠しに遭う」
とは和の国で子どもに門限を守らせるための脅し文句の一つだ。
一部、
「鬼が出る」
とも言われるがここで先述に繋がる。
禍福の禍。
鬼が出た。
花々も範疇ではある。
一般的に和の国ではオーガのことを鬼と呼ぶ。
金剛の肉体と膂力。
偏に人外で威力的。
大陸西方ではあまり見ない種族だ。
であるため鬼自体は珍しくない。
ただ根幹が違う。
「夕餉は何にしましょう?」
と悩んでいる姫々。
「お兄ちゃん!」
懐いている音々。
「…………」
花々は一義同様に鬼を見て取った。
所謂大鬼。
マジカルカウンターと呼ばれる現象だ。
正常と異常の境目が破壊され、トランスがリアリティを犯す事象。
特に麻薬中毒者に多く、被害妄想を魔術で再演する。
恐怖のイメージが具現するため、多くは亜人やモンスターの類が現われるが、和の国に於いては鬼が普遍的だ。
一律……とまではいかない物のだいたい和の国に住んでいて畏怖せしめるのは、
「鬼に襲われるイメージ」
に相違ない。
「……っ!」
一義は口元を押さえた。
当たり前だろう。
吐き気を催して当然だ。
マジカルカウンターで発生した大鬼。
月子の自殺願望の再現と言って過分でない。
次の瞬間には全てが終わっていた。
姫々。
音々。
花々。
かしまし娘が一律消えて、一義がキャパを取り戻す。
出力するのは矛盾。
最強の矛にして最強の盾。
斥力による加速は超音速すら凌駕する。
空気の破裂する音。
大鬼への斥力による大気摩擦の燃焼。
刹那の出来事だ。
それで全てが終わった。
「…………げ……ぇ……!」
茶屋で飲んだ玉露を胃液ごと吐き戻す。
月子を失って間もない一義にしてみれば、
「悪夢の再演」
ではあろう。
「大丈夫ですか!?」
一人の女性が駆け寄ってくる。
藤色の髪と瞳。
肌は白く、御尊貌明るい。
ただし亜人だった。
耳が長い。
エルフ。
和の国では
一義のように褐色の肌ではないが、別に一律エルフの肌が褐色なわけでもない。
「……っ……っ」
げえげえと胃液を吐き尽くして、それから通りに寝転ぶ。
内臓があまりに重く感じて立ち上がることさえ出来ない境地だ。
「医者を……!」
「大丈夫」
何が、と心配してくれるエルフを止めて、かしまし娘を再度具現。
「っ!?」
意味不明ではあろう。
とりあえずは金剛力を持つ花々に担がれて一義はねぐらに戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます