第235話 いけない魔術の使い方13


「傑作だったね。ヒロインたちの態度は」


 シャルロットはカラカラと笑っていた。


「皆、師匠が好きなんだねぇ」


 ルイズも笑っている。


「あう……ふえ……」


 ローズマリーは真っ赤だ。


「勘弁してよ」


 一義はうんざりと言う。


 ちなみに全員水着姿。


 一義たちは風呂に入っていた。


 何故このメンツなのかと言えば一番心労を溜めないが故の選抜だ。


 シャルロットは爽やかで皮肉屋。


 ルイズはさばさばしていて剣術の師匠と一義を敬っている。


 そしてハーレム入隊記念にローズマリーを指名したのが一義だった。


 この四人で風呂に入り、


「乱入したらパワーレールガン」


 そう他のメンツには脅しをかけている。


「あう……ふえ……一義様……」


「手は出さないから大丈夫。僕はヘタレだから」


 自分で認めれば世話はない。


「おや、ローズマリーを気に入ったのかい?」


「うん。まぁ。可愛いよね」


「はぅあ……!」


 ボンと赤くなるローズマリー。


「可愛くなんて……ありません……」


「まぁ人それぞれと言うことで」


 一義は優しく蒼色の髪を撫でた。


「あうぅ……」


 一義の前では一人の乙女だった。


「結局霧の国に帰ったらどうするんだい?」


「刺されて死ぬかもね」


 単なる観光旅行のつもりが鉄の国の政略的事情にまで食い込んでしまったのだから、一義とて途方にも暮れようというものである。


 この際、自業自得とは言えないだろう。


 一次の原因は一義に有っても二次の原因は乙女たちの決断なのだから。


 邪険に出来る一義でもない。


 人を好きになることがどれほど幸せなのか?


 一義はソレを知っている。


 だからハーレムの女の子たちの気持ちを否定したりもしない。


 仮にソレが打算や勘違い……あるいは吊り橋効果であっても。


 人には愛がある。


 愛故に人である。


 こと睦言を紡げるのが人間の一種のアドバンテージであるのだから。


「師匠はどうして傍若無人に振る舞わないのかな?」


 やれば出来る。


 それは違いない。


 ただ、


「面倒」


 答えは二文字で足りた。


「面倒って……」


 苦笑するルイズ。


 身も蓋もない一義の言だったが、ルイズは過不足なく理解してのける。


「優しいね師匠は」


「どうやったらそんな結論になるの?」


「乙女の中からヒロインを選ぶに当たって後顧の憂いを残さないよう……でしょ?」


「違うよ」


 一応一義の言は本心だ。


 当人は残酷なことをしていると思っている。


 要するに一義の優しさは無自覚なのだ。


「可愛い女の子に優しくする」


 下心を持たずにそれを実行してしまえるのは貴重とも言うべきだった。


 仮にいやらしく女性に迫る少年であるのなら乙女たちとて一義を忌避しただろうが。


「不器用だねぇ」


 それがシャルロットの結論だ。


「…………」


 一義の心は灰かぶり。


 色彩の無い色。


 時折黒く塗りつぶされる。


 現状それを理解できるのはかしまし娘だけだが、一義は『自分以外に理解して貰おう』とはさっぱり考えていなかった。


 あの恐怖。


 あの絶望。


 あの暗黒。


 今でも夢に見る自身の罪科。


 何度繰り返したろう?


 数えるのも馬鹿らしい。


 深刻な自罰感情が一義をして縛り付けている。


 シャルロットの言うとおりだ。


 一義は不器用なのである。


 凄まじい脳機能を持っていながら、そこから発生する感情と呼ばれる概念に折り合いを付けられない。


 正気と狂気を並列させているため月子に狂って真摯に認める。


「ああ……」


 呟く。


「もっとしっかりしなくちゃね……」


「逆だよ一義」


 シャルロットが一義を諭す。


「君は何もかもを自分で背負いすぎる。こんなにいっぱいの女の子に慕われているんだ。そのどす黒い感情を誰とも共有しないなんて肩がこるだろう?」


「それが僕に唯一残された月子への想いだから」


「君ならそう言うだろうけどね」


「駄目?」


 この時の一義の白い瞳はローズマリー以上にか弱い小動物のソレに類似する。


「そんな目で見ないでおくれ。ついレイプしそうになる」


 シャルロットは両手を挙げて降参していた。


「師匠が重荷を背負っているのなら僕も肩代わりしてあげたいけどね」


「わたしも……」


 ルイズとローズマリーも中々のものだ。


「その内ね」


 その優しさに応えることが……どうしても出来ない一義だった。

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