第234話 いけない魔術の使い方12
「これだからご主人様は……」
「お兄ちゃんの阿呆!」
「いっそのこと地下牢に閉じ込めておかないといけないのかもしれないね」
「目を離した隙に……」
「あはははは!」
「わたくしというものがありながら……」
「はわわ!」
シャルロットとナタリア、そこに新たにローズマリーを加えて学院の特別棟に帰還した一義に非難囂々のハーレムの女の子たちだった。
一日だけ目を離した隙にまた新しいハーレム要員が追加されれば、それはまぁ一義を慕う人間には面白いはずもない。
「あう……」
とローズマリーが一義の背中に隠れる。
「大丈夫大丈夫」
一義は優しくローズマリーの頭を撫でた。
無論ソレは他のハーレム要員には面白くない。
ただしシャルロットはニヤニヤ笑っているし、ルイズはカラカラ笑っているため、全員が全員というわけでもないが。
「とりあえず今日の御飯は?」
「オムライスです」
これはアイリーン。
「……っ!」
パッとローズマリーが顔を輝かせる。
好物らしい。
「そういう表情も出来るんだね」
からかう様に一義が言うと、
「……あう」
照れるローズマリーだった。
こういう小動物に一義は弱いらしい。
穏やかな瞳でローズマリーを見ていた。
で、事情を説明しながら夕餉。
「虐められていた亀を助けた……と?」
「そゆことだね」
「優しいんですのね」
「美少女限定でね」
「いっそお兄ちゃんを飼い殺さないと、その内大陸中の美少女がハーレム要員になっちゃうよ」
「そうかなぁ」
一義はオムライスを食べながらぼんやりと。
かしまし娘はともあれ他のメンツは一義が東夷と知ってなお忌避感を覚えないからこそ成り立つのである。
そうもっともらしく一義が語ると、
「現状と乖離している理論だね」
爽やかな笑顔でシャルロットが皮肉った。
実際にその通りなのだ。
エルフは不気味さこそあるものの慣れてしまえば人では追いつけない美貌が表れる。
客観的に見ても一義は美少年である。
仕方ないと言えばその通りでもあった。
シャルロットの嫌味に一義は何も返せない。
精一杯の抵抗はオムライスを食べながら無視することだった。
「まったく一義の手の早さには呆れますわ」
「はわわ! 一義様すごい!」
「殿下に言えた義理はないけどね……」
そもそも一義のハーレム要員になっている人間に新しいハーレム要員や、その根幹である一義を非難するのは自分に唾をかけるようなものである。
「気に入らなければ何時でも抜けて良いから」
一義のスタンスは変わらない。
そもそも論になるが一義はハーレムの女の子たちに強要を押し付ける気は無かった。
恋が冷める。
使い道がなくなる。
他に好きな人が出来る。
そういう状況になればいくらでも好きにして貰って構わないと考えている。
別段女の子たちに興味がないわけではない。
求められれば(常識の範囲内で)応えるし、好きだと言われれば嬉しくもなる。
一義の心を支配する暗雲を少しの明かりで照らすが如し。
それこそ一義が女の子たちに求めるものだった。
かつて約束した月子とのやりとり。
黄金の園を一義に見せる女の子。
「きっといる」
月子は言った。
「それが誰か?」
一義には分からなかったが。
というか現時点でも分かっていない。
「なんだかなぁ」
ぼんやりと状況確認。
「いい加減愛想が尽きてくる女の子も居るかな?」
楽観論とも言えた。
そも純情にしろ打算にしろ一義を慕う心にヒロインたちは一点の曇りも持っていない。
マリアでさえ戦力としての一義に期待はしていても、そこに信頼がなければ関係は成立しないだろう。
「で、この集団をどう扱えば良いの?」
それもまた難しいテーゼだった。
「全員を組み伏せて犯せば良いんじゃない?」
こんなことを言うのはシャルロットだ。
「僕はたった一人を愛したいんだけど」
「だから体の相性が良い女の子を選べば良い」
「……下品」
「知ってるよ」
今更だ。
だからこそ一義はシャルロットを気に入っているのだが。
シャルロットも一義に好意を持っている。
その、
「好き」
の深度がどれほど深いのか……あるいは浅いのか……。
それを知る術はないし、一義の何処が好きで何処が嫌いかという問題もある。
「一義を好き」
は、
「一義の何もかもを好き」
には繋がらない。
一義の好きな部分もあれば嫌いな部分もある。
特に何も思わない部分もあるだろう。
好感度が一本の指標で現わされるのなら一義も苦労せずに済んだかもしれないが。
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