第231話 いけない魔術の使い方09


「いつもあんな感じなの?」


 傷を快癒させた蒼の美少女……ローズマリーに状況を聞く。


「えと……はい……」


 頷かれる。


「さっきの輩が言ってたけど……霧の国の出身なんでしょ?」


「はい……」


「なんでこっちで魔術を?」


「王立魔法学院を退学になったからです」


「あー……」


 一応そんな制度はある。


「で、皇立魔法学院に……って?」


「です……」


「いつから虐められてるの?」


「だいぶ初期からですけど……鉄血砦の一件から……風当たりが強くなりました……」


「あー……」


 二度目の困惑。


 一義にしてみれば他の反応は出来ないが。


 シャルロットはクスクスと笑っている。


 底意地の悪さは折り紙付きだ。


 一義と並ぶか右に出るほど。


「これでも……実家が王都にある……指折りの大貴族の……血筋です……」


「それが逆説的にイジメを促進させた……か」


「です……」


「親もよく許したね……」


「兄さんたちは優秀なので……わたしは奔放に……育てられました……」


 だからって敵国に来てまで魔術を習わんでも……。


 一義とシャルロットとナタリアは共通した意見を持った。


「銃力の魔術師様……」


 ローズマリーは一義を見やった。


「一義で良いよ」


「一義様……」


「何でしょう?」


「一義様は……霧の国の……魔術師ですよね……」


「うん。まぁ」


「であれば……魔術を教えてくれませんか……?」


「あー……」


 しばし一義は悩んだ。


 一言、


「却下」


 と言えればいいのだがハーモニーやキザイアに並び小動物的な印象の美少女……つまりローズマリーに見つめられると肩が重くなる。


「とりあえず」


 コホンと咳する一義。


「何で魔術を覚えたいの?」


「え?」


 ポカンとするローズマリー。


 蒼穹の瞳は困惑に揺れる。


「魔術を覚えて何をしたいの?」


「それは……」


 答えを持ち合わせていないらしい。


「気に入らない人間を殺すため? 戦争で大兵団を吹っ飛ばすため? その遺族に涙を流させるため?」


 言うことには容赦が無いが、魔術の本質でもある。


「あまり深くは……考えていません……」


「単純に神秘に憧れて?」


「かもしれません……」


「でも魔術を覚えると人格が崩壊するかもよ?」


「う……」


 反論の余地もない。


「それなら大貴族の力で魔術師を雇って代わりに行使して貰った方が安上がりだと思うけど……」


「その……」


 ローズマリーは言う。


「わたしは本が……好きなんです……」


「本?」


「はい……。特に英雄譚が……」


「なるほどね」


 正義の魔術師が悪者をやっつける。


 力の行使においてベクトルは同じではあるが、それをここで言ってもしょうがないだろう。


「だから……魔術を覚えれば……格好良く……成れるかなって……」


「普通ソレは男の子が持つ願望だけどね」


「一義様も……そうなんですか……?」


「僕は力という概念が嫌いだから」


「?」


「仮に君……ローズマリーが魔術を会得して二人の山賊に襲われている二人の被害者を助けるとしよう。その場合力によって駆逐されたのは山賊で被害者は助かる。仮にローズマリーが魔術も武器も持っていなかったとしよう。その場合駆逐されるのは被害者で山賊は助かる。ほら。結局犠牲の総量は変わらない」


「でもそうすると……山賊はつけあがり……ますよ……?」


「それは山賊も力を持っているからでしょ?」


「あ……」


「そうそ。誰もが無力になれば世界のいざこざは殲滅される。厄介事って奴は力を起点に作用する。だから僕はあまり力を振るいたくないし、まして自慢する気も無い」


「銃力という……規格外の力を……持っていて尚……ですか……?」


「僕を良く思わない人間が僕を狙わなければ平穏な亜人生を歩めたんだけどねぇ」


 遠い目をする一義。


「ま、一義の死生観はこの際考慮しないとして……良いんじゃないかな? ローズマリーに魔術を教えてあげても。当人が望んでいるんだから廃人になっても自己責任だろうさ」


「シャルロットは清々しいね」


「一義には負けるよ」


「自覚が無いのも困りものだ」


「お互いね」


「ふふふ……」


「ははは……」


 言葉で応酬する一義とシャルロット。


 が、ローズマリーはパァッと表情を明るくした。


「お願い……します……一義様……!」


 そういうことになった。

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