第220話 三人の姫は25


「良い湯ですね……」


「だね」


「全くだ」


 かしまし娘は仲良く風呂に入っていた。


「ふぅ」


「訓練後の入浴はさながらだね」


 アイリーンとルイズも居た。


「ねぇ一義……わたくしに服従しませんこと? 代わりにわたくしはわたくしを差し出しますわよ?」


「一義ぃ。どうやったら念じるだけで魔術を使えるようになるんですか?」


 マリアとナタリアも居た。


「どっちも知らん」


 そしてその花園に一人男の子である一義が混浴していた。


「ハーレムに愛を注ぐのも主人の務めでしょう?」


「そうなの。じゃ、あたしもハーレムに入る。契約条項は?」


「いい加減にしてね君ら……?」


 なんでこうも。


 そう思わざるを得ない。


 ディアナ、エレナに引き続きマリアとナタリアとオリヴィア。


 王族がまたハーレムに加わった。


 場合によっては一義のくしゃみが一国を滅ぼすだろう。


 ファンダメンタリストのペネロペもまた指折り数えられる。


「いったい何の集団だ?」


 一義自身ソレをハーレムとは思えなくなっていっている。


 一人の男性に複数の女性が愛を示すことが『ハーレム』ならその通りなのだろうが、ここまでくるともはや別の何かに例えた方が良いのではないか?


 とはいえ他の表現とくればとっさに思いつかないのも事実で。


 一応のところ……女の子の気持ちはスルーで暫定的に『ハーレム』と呼称することにする。


「やれやれ」


 マリアとナタリア(両者水着姿である。念のため)に挟まれて求愛を受ける一義の苦悩にもう一人分加わった。


 パァンと勢いよく浴場の扉が開けられる。


 風呂場と脱衣所が繋がる。


 その境界を踏みしめているのは、


「あら。オリヴィア」


「おや。オリヴィア」


 マリアとナタリアが言ったとおりのオリヴィアであった。


 紅色の髪と瞳。


「いいいいい一義様!」


 頬まで紅色に染めて一義を見やり、


「……っ!」


 一義以外の多数の水着女子を見て絶句。


「はやや!」


 と慌てて扉を閉めた。


「…………」


 奇妙な沈黙が一義たちを支配する。


「何だったんだ一体……」


 率直な一義の言ではあるが心当たりも当然ある。


 マリアやナタリアとは別の意味でオリヴィアは一義を気にかけている。


 打算を不純とするのなら、オリヴィアの想いは姉二人より純粋ではある。


 一義は毎度ながら、


「趣味が悪い」


 というのだが。


 また扉が開いた。


 現れたのは当然オリヴィア。


 全裸。


 生まれたままと表現するには些か成長しているが。


「お姉ちゃんたち!」


 オリヴィアが言った。


「一義様から離れて!」


「断りますわ」


「却下よね」


 頭の頭痛が痛い一義だった。


 すさまじく意味が混迷しているが、つまりそれだけ狼狽えている証拠だ。


「わ、私だって一義様とお風呂に入る……!」


 そう言って裸で突貫してきた。


「ナタリア。よく見ててね」


「?」


「これが無詠唱否儀式の魔術の例だから」


 そう云うと一義は斥力場を発生させた。


 それはオリヴィアの足下で発生して空中にオリヴィアを放る。


 その後真横に斥力場を発生させて水平に弾く。


 結果としてオリヴィアは脱衣所へと放られた。


「これが念じるだけで使える魔術の例」


「素晴らしいです先生!」


 いつの間にやら先生扱いされる一義だった。


 とりあえず講師ではあるので間違った敬称でもないが。


「音々」


「はいはい」


 阿吽の呼吸。


 音々は斥力の結界を浴場に張った。


 脱衣所のオリヴィアが全裸で浴場に突貫しようとして見えない力に阻まれる。


「音々も……」


 感心するナタリアだった。


「とりあえず」


 と一義が言う。


「僕と入浴したいなら水着を着ること。全裸は受け付けません」


 王族相手に堂々と言える一義の精神は根太かった。


「…………」


 そんなこんなでこんなそんな。


「えへへ……」


 水着姿のオリヴィアが一義に寄り添っていた。


「可愛い可愛い」


 一義は紅色の髪を撫でる。


「はわわ」


 紅色になるオリヴィア。


 ハーモニーとは別の意味で小動物のような少女である。


 違いがあるとすれば躍動か制動かのソレだろう。


「一義様とお風呂。また一緒しても?」


「水着を着るならね」


 そこは譲れなかった。

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