第204話 三人の姫は09
そんなわけで事情が伝播して、
「ルイズを下した東夷の実力を測るため」
と称して訓練場の兵士が一義に敵意を向けていた。
その上で飄々とする一義。
特に何を思うでもない。
自然体。
まだしも大雨の方が一義の心を曇らせるだろう。
雨の水滴に叩かれるより簡素なことなのだ。
一義にとって軍隊を相手にすると云うことは。
「殺っちゃっていいからね~」
見学に回っているルイズが完全にイカレた激励を届ける。
「鎧や盾が必要なら準備するが?」
訓練場にて一義を取り囲んでいる兵士の一人が提案する。
「別に要らないよ」
一義はいつも通り。
無精ではあるが彼我の戦力差はしっかりと把握している。
結論として、
「君ら相手なら特に必要ないかな?」
兵士たちの精神を炎上させる。
「舐めてんのか?」
「さぁてねぇ」
悉く一義は取り合わない。
和刀の背で肩を叩きながら、
「かかってこないの?」
挑発すらする。
「それともヨーイドンが無いと戦えない?」
「死ね!」
わっと興奮のるつぼと化して兵士たちが一義に襲いかかる。
武器は片手剣、両手剣、槍、斧、ハルバード、弓、ボウガンと様々だ。
まず真っ先に弓とボウガンの射手が矢を放つ。
計二十。
とはいえ連携は取れていない。
全て全く同時にとは行かない。
故に一義は体さばきで八割を躱して、躱しきれない残りの二割は和刀で弾いたり素手で掴んで止めた。
「嘘ぉ……」
ルイズが呆然としている。
それは決闘に参加している兵士たちの代弁でもあった。
全周囲からの矢を躱し、打ち払い、なおかつ正確に掴んで止めるなぞどういう動体視力が可能とするのか。
想像を絶するとはまさにこのことだろう。
一義にしてみれば、
「パワーレールガンにて行なわれる斥力場の連続展開の方がよほど難しいよ」
ということになるのだが。
矢が駄目だと分かると今度は近接の兵士たちが襲いかかってきた。
総勢で百人ほど。
が一義一人に対して全員が同一に攻撃できるはずもない。
精々八方からが限度だろう。
計八つの斬撃が一義を襲う。
一義は一歩一人に距離を詰めて、その剣閃を受け止める。
そしてワルツの要領で体位置を変えた。
「待――」
困惑の兵士の言葉は血で塗りつぶされる。
一義に向かって振られた剣刀槍戟の七つは一義と入れ替わった兵士を傷つける結果となった。
「っ!」
「絶句してる暇があるの?」
一義は容赦なく鎧の隙間を縫って関節を血で染める。
無力化するに当たって最も簡素な方法である。
「貴様!」
「てめぇ!」
「野郎!」
憤慨する兵士たちだったが、士気の高さに実力が追いついていない。
後は流れ作業だった。
弓矢を避けて踊るように兵士たちの軍勢の隙間を縫って通り際に和刀で切り裂く。
格別の痛覚が兵士を襲い、一人、また一人と脱落していく。
一義は血の一滴も流していない。
どころか息も上がっていない。
ある程度時間が経てば百人を超える訓練場の兵士たちは全滅の憂き目にあった。
南無三。
「こうなると鉄の国の将来が不安になるなぁ」
涼やかに一義は呟いた。
たった東夷一人に百人がかりで傷の一つも付けられないでは一義の憂慮も全く正しい。
縮地も魔術も使っていずにコレなのだから国民の安全と財産を守る使命をどう遂行するのか疑問にも思う。
「アイリーン。後よろしく」
「トドメをさせばいいんですね?」
「何でそうなる?」
「冗談です」
言ってアイリーンは激痛に苛む兵士たちを一人一人治癒してのけていった。
肉体の修復がイコールで死者の蘇生だ。
死んでもいない肉体の修復はアイリーンにとっては片手間だろう。
ボーッとそれを眺めていると、
「ブラボー!」
と歓喜の声が上がった。
そちらを見やる。
朱色の髪と瞳の美少女……第一王女マリアが機嫌良く拍手をしていた。
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