第200話 三人の姫は05


 食事が終わると入浴の前にルイズの稽古に付き合う一義だった。


 当然かしまし娘とアイリーンも付き合っている。


 城の中庭でルイズが木刀を振っている。


 隣では一義も。


「ほら、型が崩れてきてるよ?」


「わかったよ」


 そんなこんなで素振りをする二人。


「師匠はアレで良かったんですか?」


「というと?」


「マリア殿下の騎士の件」


「先にも言ったけど立身出世には興味ないからなぁ」


「まぁ武闘会の褒美で王属騎士を蹴って女王陛下のキスを受けたくらいだからね」


「そゆこと」


 木刀を振る。


「勿体ないなぁ」


「そう思われるから力を持ちたくないんだよ」


「じゃあどうしてさ?」


「守りたい者を抱えちゃったから」


「僕?」


「ルイズも範疇ではあるね」


「えへへ」


「私を助けるために鉄血砦を地上から消し去ったくらいですし」


 アイリーンが皮肉を言う。


「あれ?」


 と。


「もしかして迷惑だった?」


 そんな不穏。


「まさか」


 少なくとも単なる皮肉だ。


「一義には感謝してますよ。返せないほどの恩を感じています」


「僕としては僕を好きでいてくれるだけで光栄なんだけど」


「一義はヘタレです」


「耳が痛い」


 云うほど痛がってもいないが。


「ご主人様は慎ましやかですから……」


「股間事情はワイルドだけどね!」


「童貞を奪うのはあたしだよ」


 かしまし娘が、


「嫌がらせなんだろうか?」


 と一義を訝しめるような言葉を綴った後、


「…………」


「…………」


「…………」


 三者三様の沈黙。


「フニャーッ!」


「フシャーッ!」


「キシャーッ!」


 互いに威嚇した。


「モテモテですね」


 アイリーンはクスクス笑う。


「まったく。僕には勿体ないよ」


 一義は苦笑いの他に選択肢を持たなかった。


 素振りを終えると次は組み手だ。


「力の循環」


「勁の練り方」


「筋肉の最速可動」


「脳による肉体の完全支配」


 講義をしながら襲ってくるルイズを軽くあしらう。


 柔らの要領で力を受け流し、利用し、倍にして返す。


 一本背負いが決まった。


 無論手加減はしたが。


「師匠強すぎ」


「花々に比べれば可愛いものだよ」


「あたしは旦那様と相性が良いだけだよ」


 その通りではあるのだが。


「花々と組み手やってみる?」


「是非」


 そう云うことになった。


 少しインターバルを挟んで、それから二人は対峙する。


「っ!」


 仕掛けたのはルイズ。


 崩拳だ。


 が、あっさりとはたき落とされる。


 勁はともあれ筋力と速度は十分に練られた一撃だ。


 それもルイズ基準で。


 が、まるで羽虫でも追い払うようにさっぱりはたき落とされた。


 一回転。


 回し踵蹴りをルイズが放つ。


 花々は手を添えるだけでソレを受け止める。


 ルイズは更に回転して花々の頭部側面に蹴りを放つが、衝撃と手応えとは裏腹に花々は微動だにしなかった。


 ルイズの両足を握って、


「さてどうしたものか?」


 花々は困ってしまった。


 既に生殺与奪の権利は花々にある。


 それは明白だ。


 握っている足首を単純な握力で握りつぶしても良いし、子どもが駄々でオモチャをそうするように力一杯地面に叩きつけてもいい。


 とはいえここでルイズを傷つけても特はしない。


 なので素直に離す花々だった。


「なんだか絶望的な気分になるね」


 ルイズにしてみればミュータントの自分を軽々あしらう一義と花々の存在は困惑の種ではあろう。


 というか一義はともあれ花々に素手で勝つのは人体の構造上不可能に近いのだが。


 ことオールラウンダーに勝率の高い花々である。


「どうしても」


 というのなら別のファクターが必要となる。


 例えば――。

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