第167話 嗚呼、青春の日々08


 次の日。


「むー」


 一義は眠気と覚醒を並列させながらホテルで食事を取っていた。


 今日のメニューは玉子かけ御飯と海苔……それから冷奴とワカメの味噌汁。


 当然姫々作。


 東方料理のテクニックはホテル専属のシェフも瞠目していた。


 そして実際に姫々の料理は美味しい。


 二つ名である《重火》も魅力の一つではあるが、食堂を開くだけで食べていけそうなほど繊細かつ完成された料理をする姫々である。


 正直なところ一義が居なければ誰にでも愛される料理人となれただろう。


 結果論ですら無いが。


「むにゃむにゃ」


 と食事を終えてご馳走様でした。


 パンと一拍すると一義は姫々の淹れてくれた番茶を飲んでいた。


 玉露、煎茶の劣化とは云われるが姫々が淹れれば至高の嗜好品に成り上がる。


「はふ」


 と吐息。


 すっかり眼も覚めた。


 洗い物をホテルマンに頼んで一義と女子たちは学院に向かうため制服を着る。


 音々が一義の髪を整えて、花々が着替えを手伝う。


 そして二人は一義の腕に抱きついた。


「えへへ」


「むふふ」


 だらしない顔の音々と花々だったが、


「ま、いつものことだ」


 とこれをスルー。


 ゾロゾロと女の子を連れて興味と軽蔑の視線を受けながら一義は学院に向かう。


 そして、


「…………」


 学院正門に車が止まっているのを見た。


 馬車では無い。


 コンセプトは同じだが。


 蒸気もエンジンも無いため汽車や自動車でもない。


 先述したが馬車とコンセプトは同じだ。


 動物に車部屋を引っ張って貰う造り。


 そしてその動物はトカゲを大きくして二立歩行に進化させたロードランナーと呼ばれるソレだった。


 馬の三倍の速度で走り、それ故馬車より三倍速い移動手段となるランナー車と呼ばれる一品である。


 当然馬の三倍で走る以上、御者のフォローが必要となる王侯貴族御用達。


 一般人には縁の無い車でもある。


 それが学院正門に止められていると云うことは……、


「そういうことだよね」


 疲労の吐息。


 こんな真似をする人間に一義は大いに心当たりがあった。


 物々しく鎧を着た警護の兵士がランナー車を守っている。


「ご丁寧なことだね」


 まぁ万が一もあるため当然の処置ではあろうが。


 そして正門では一人の女の子がお茶をしていた。


 即席のテーブルと椅子。


 控えるは執事。


 そして取り巻く警護の兵。


 紫色の髪と瞳。


 服も紫のドレス。


 さて誰かと問われれば、


「ディアナ……」


 以外にいるはずもない。


 霧の国の女王。


 つまり一義たちにとって税金を納める相手で天上人とも言える。


「問題は……」


 ディアナの俗である。


 白と紫の視線がぶつかる。


 女王……ディアナの顔がパッと華やいだ。


「一義様ーっ!」


 ティータイムを中断して立ち上がる。


 こちらに猛ダッシュ。


 ジャンピングハグを敢行。


 一義はスイと横に避けた。


「ふぎゃ!」


「ぷぎゃ!」


 一義の腕に抱きついていた音々にジャンピングハグを敢行して二人はもつれ合う。


「だから何で音々が犠牲になるの!」


 もはやそういう星の廻りだ。


 無論一義は口にしたりしないが。


「で? 何の用?」


 不敬罪を高く積み上げる一義。


 兵士たちが殺気立つが、


「一義様へお目にかかりたくて!」


 ディアナは感情全開で華やいだ。


 とはいえ一国の王であるため鈍感では国を回せないだろう。


 あえて兵士の殺気を無視してのけたのは、ディアナによる兵士たちに対しての無言の牽制と言えた。


「むぐぐ……」


 とりあえずディアナと音々は立ち上がって土埃を払う。


「エレナは元気?」


「ええ。今のところ波の国も安定を取り戻していますし」


「ならよかったよ」


「アイオンとジャスミンとキザイアは?」


「特別棟」


「ディアナは一人で正門でお茶?」


「はやく一義様に会いたくて」


「ホテルに顔を出せば良いのに……」


「は!」


「アホの子だなぁ」


 不敬罪まっしぐらな苦笑をする一義だった。


「貴様……っ!」


 兵士が剣を抜き放つ。


「待ったなしだよ?」


 一義の白い瞳も燗と燃え上がった。

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