第162話 嗚呼、青春の日々03


「うーあー」


 王立魔法学院。


 その特別棟。


 一義はうなだれていた。


 男子からは嫉妬の視線。


 女子からは軽蔑の視線。


 慣れてはいる。


 反感することも無い。


 が、やはり客観的に、


「どうしてこうなった?」


 は一義の根幹だ。


 アイリーンの淹れた紅茶を飲みながらダラダラ。


 元より一義とそのハーレムたちは四過生だったり特別顧問であったりする。


 一人ジンジャーが三過生だが、それでも大した物なのである。


 姉のアイオンに至っては宮廷魔術師で霧の国の絶対戦力でありながら一義のハーレムというわけのわからない状況だが。


「研究室を持たなくて良いのですか?」


 学院長が何度目かの質問をしてくる。


「めんどいです」


 一義の答えは何時もコレだ。


「だからって特別棟に陣取られても……」


「仕事に支障がある」


 そう学院長が言うのである。


「見逃してください」


 口調こそ丁寧だが不貞不貞しい提案でもある。


「元より実力で排除する気も無いのですけど」


「御堪忍……感謝します」


 一義は紅茶を飲んだ。


「宮廷魔術師や王属騎士の提案もすげなく断りましたよね?」


「嫌いですんで」


「王家がですか?」


「いえ」


 紅茶を飲む。


「権力という物が」


「女王陛下にも求婚を受けているのでしょう?」


「ディアナは頭のネジが外れてるから」


 さも平然と霧の国の王をディスる一義だった。


「一義。自重してください」


「災いの元……か」


「然りです」


「いっそ王族滅ぼしてご主人様の国を造ってはどうでしょう……?」


「いいね!」


「手伝うよ」


 かしまし娘が物騒な提案をする。


 西方ハーレムも特に反論は無いらしい。


「じょ、冗談ですよね?」


 学院長は頬を引きつらせる。


 無論のこと、


「一義たちならソレが出来る」


 が故に、だ。


「もちろん冗談ですよ?」


 一義は平然と言った。


 元々がしがらみを嫌う一義だ。


 一国を差配するなぞ面倒の極みである。


 かと言って放置できる戦力でも無いのだが。


 銃力。


 重火。


 絶防。


 金剛。


 一義とかしまし娘は存在するだけで軍事バランスを崩壊させる魔術師である。


 ついでに他の面々も、


「開いた口が塞がらない」


 類の戦力ではある。


「どうしても国際的に問題になる」


 それが一義のハーレムであった。


「どうしたもんかね……本当に……」


 一義はクテッとテーブルに身を寄せる。


「特にご主人様が気にすることでは無いかと……」


「お兄ちゃん大好きよ!」


「旦那様は日々平穏に過ごせば良いのさ」


 かしまし娘はいつも通りの回答だった。


「うへへぇ。フェイちゃーん……」


「お姉ちゃん……止め……」


 アイリーンとフェイは別次元にすっ飛んでいた。


 元々シスコンのアイリーンでフェイが一緒に暮らし始めてからこの有様である。


 一義に、


「姉妹丼などどうでしょう?」


 と問うくらい道を見失っている。


 ビアンカとジンジャーは淡々と紅茶を飲む。


「…………」


 ハーモニーはあまりの燃費の悪さに茶菓子を貪り食べていた。


 その全てが学院……引いては鉄の国との国境に接している魔術都市シダラの戦力と云われてもピンとこない人間は多い。


 一人の違いもなく美少女なのである。


 男子が一義を嫉妬するのも女子が一義を軽蔑するのも……ある種自然ではある。


 元よりエルフは東夷と呼ばれ、


「悪しき者」


「魂を汚す者」


 との認識が西部では通念だ。


 一義が美少女を絡め取っているのは星の廻りであって当人の意思とは無関係なのだが、


「それでも」


 と疑る連中は多い。


 実際に一義のハーレムの女子たちは慕情を寄せられる事が多い。


「一義が居ますので」


 そうやって女子たちは断っている。


「憎まれっ子世にはばかる」


 とは云うが、一義はその中でも特上だろう。


 こと意識の皮肉面において右に出るものはいない。


「本意じゃないけどね」


 ぬけぬけと一義はそう言うのだった。

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