第150話 いけない魔術の使い方19

「待った待った待った」


 一義はこめかみを押さえてうんうん唸る。


「エリスって……波の国の王女エリス?」


「そう言ってるじゃないですか」


 何を今更と夜々。


「なんでエリス……妹が姉を殺そうとするのさ?」


「王位継承権が今現在エレナ王女にあるからですよ」


 あっさりと言う夜々。


「は?」


 再度ポカンとする。


 一義は脳をフル回転させて状況を整理する。


 首にかけたタオルでガシガシと髪を拭く。


「順当に行けば王位継承権は第一王女エリサのものじゃないのか?」


「まぁウェイブ王の伝言が握りつぶされているから、しょうがないと言えばしょうがないでしょうね」


 わけのわからないことを夜々は言うのだった。


「今第一王女エリサは病床に臥せっているんですよ」


「体が弱いの?」


「いえ。単純に毒を盛られているだけなんですけどね」


 あっさりと言われる。


「毒?」


「遅延性の……ですが。第三王女エリスが第一王女エリサに少しずつ毒を盛って長期的に体を弱らせているんですよ」


「エレナはエリスを虫も殺せない性格だって言ってたんだけど……」


「そういう風に見えるよう振る舞っているだけですよ。正直夜々でも引くぐらいエリスは強かです」


「最初から説明してくれる?」


「構いませんが」


 そして夜々は滔々と語る。


 波の国のウェイブ王は後継者をエリサに定めた。


 それは王座を狙うエリスにとっては不愉快極まるものだった。


 故にエリサに少しずつ毒を盛って体を弱らせた。


 そうなればウェイブ王は考えを改める他なかった。


 白羽の矢が立ったのは第三王女エリスではなく第二王女エレナだった。


 当然と言えば当然の配役だ。


 これではエリスは王座に座れない。


 またエリスは自身で毒を盛っておきながらソレを、


「気がかりだ」


 とエリサに囁いていた。


 エリサは自身の劣化の原因がエリスだと知らずに……エリスに優しくされて、これを王にしようと画策するのだった。


 その結果がファンダメンタリストだった。


 つまりエリサはエリスの陰謀を知らず……エリスの味方をしたのだ。


 エレナの暗殺という形で。


 エリスにしてみれば都合のいい状況だったろう。


 自身をエリスが毒を盛って害しているとも知らないエリサが手の平で道化を演じているのだから。


 しかして結果は芳しくなかった。


 ファンダメンタリストでもエレナの暗殺はならなかったのだ。


 それはキザイアの事情であるからエリスには知るべくもないことである。


「だから」


 と夜々は締めくくる。


「波の国の第三王女……エリスは夜々に暗殺の依頼を頼んだってわけだよ」


「…………」


 沈思黙考。


 一義は状況についていけなかった。


「第三王女エリスが王座に就くために第一王女エリサに毒を盛って第二王女エレナを暗殺しようとした……と?」


「うん」


 首肯される。


「しかも第一王女エリサは自身が妹に毒を盛られていることにも気づかず第三王女エリスを後押ししている……と?」


「うん」


 首肯される。


 あまりにあっさりとした肯定だった。


「で?」


「というと?」


「夜々は何で肩を貸してるのさ?」


「エリスみたいな人間が好きだから……では理由になりませんか?」


「なるけどさ」


 夜々を正確に把握すれば納得ではあった。


「ついでに言えば夜々の使い魔にしたフェイを使ってけしかけて、アイリーンがどんな反応をするか見たかったしね」


「底意地が悪いにもほどがあるよ……」


 それが率直な一義の言だった。


「それで? どうするんですか兄さん? 夜々もフェイも金人ですから止めることはできませんよ?」


「とりあえずエレナと話さないとね」


 他に言い様もない。


「それから夜々」


「何でしょう?」


「エレナを狙うのは止めてくれるよね?」


「兄さんがそう仰るなら」


 白い瞳に納得の感情を乗せて夜々。


「波の国の第一王女エリサがファンダメンタリストにエレナの暗殺を依頼して、第三王女エリスが夜々にエレナの暗殺を依頼した……か」


 一義はうんざりと事実確認を行なった。


「夜々自身は何とも思っていませんよ? 夜々は他者の望まれた現象を起こしているってだけですから」


「それはわかってる」


 一義とて夜々の方向性は熟知しているのだ。


 当然と言えた。


「だからってエレナを殺していいって事にはならないよ」


 一義は夜々にデコピンをする。


「あう」


 と痛がってみせる夜々。


「状況はわかったよ。後は……エレナ次第かな」


 一義は苦笑いする他なかった。


「さて……」


 一義はムニッと夜々の両頬を掴んで引っ張る。


「なひほふうんでふ」


「それはこっちのセリフだよ」


 限界まで夜々のほっぺを伸ばした後、パッと離す一義。


 頬は収縮し元の形を取り戻す。


「兄さん、虐待ですよ」


「やかましい」


 今度は夜々の頭部にチョップをかます。

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