第105話 エレナという王女11

「で……こうなるわけね」


 一義は王城の訓練場で紺色の髪と瞳を持つ美少女と相対していた。


 その表情は、


「うんざりだ」


 と語っている。


 時間を少し巻き戻す。


 エレナがエルフに対して悪い感情や印象を持っていないということでディアナが女王として一義と花々とアイリーンにエレナの護衛を命じた。


 拝命する一義たち。


 ついでに姫々と音々もくっついた。


 そんなわけで一時的ながらエレナに仕えることになったのだが、エレナは権威に何の感情も持っていない少女であったから音々や花々と打ち解けるのはすぐだった。


 それから少し躊躇うように姫々とアイリーンもエレナを王女ではなく同列として扱うことになる。


 アイオンはもとより打ち解けている。


 そんな折、ディアナの私室に闖入者が現れた。


 ディアナの肯定を受けいれて入室してきたのは紺色の髪と瞳を持つ美少女だった。


 ただし……紺色の美少女が持つ雰囲気は清楚でも可憐でもなく裂帛と呼んでいいソレであった。


 戦士。


 そう呼ばれる人間であることを真っ先に一義と花々が察知する。


 帯剣し、ドラゴンの鱗の鎧を身に纏った戦士。


 その力量を一義は即座に見て取ったのである。


 それから少し遅れて、


「ジャスミン……」


 とディアナが紺色の美少女をジャスミンと呼ぶ。


 紺色の美少女……ジャスミンは、


「銃力!」


 と一義を二つ名で呼んだ。


 一義はというと、


「…………」


 無言で紅茶を飲むばかりだ。


 さて、


「誰なの?」


 音々がアイオンに問う。


「王属騎士にして《蛇炎》の二つ名を持つ魔術師……魔法剣士ジャスミンよ」


 大層なことをあっさりと口にする。


 王属騎士。


 別名ロイヤルナイト。


 それは騎士として最上級の誉れ高い敬称だ。


 さらに二つ名を持つ魔術師でもある。


 魔法剣士。


 それがジャスミンの正体だとアイオンは言う。


 純粋な好奇心故だろう。


「雷帝とどっちが強いの?」


 音々が火薬庫で火遊びするようなことを聞く。


 だがしかして、


「わたくしが強い」


「雷帝が強いぞ」


 その火気は不発に終わった。


 そもそもにして殺竜の魔術師にとって代わってシダラの防衛が出来るほどの戦力なのだ。


 無論、そうでなくとも雷帝は殺竜より強いのだが。


「ともあれ銃力!」


 話の筋を戻すジャスミン


「…………」


 一義は答えない。


 面倒事を好まない一義の精一杯の抵抗だったが、


「俺と戦え!」


 自身を「俺」と呼ぶ少女戦士によって無残に打ち壊された。


 受け皿にカチンとティーカップを置いて、


「何で?」


 根本的なことを問う。


「負けを享受したままいられるか! リベンジだ!」


 ジャスミンの説明に、


「……?」


 一義は、


「心当たりが無い」


 とばかりに首を傾げるのだった。


 とまれ、


「此度はあの時の様にはいかんぞ!」


 ジャスミンは紺の瞳をランと燃やしてそう言う。


「はあ」


 ポカンとする一義。


 それから紅茶を一口。


「で……」


 と一義は白い瞳でディアナを捉える。


「ディアナ」


「何でしょう?」


「僕とジャスミンに何か因縁なんてあるの?」


「何だと!」


 怒ったようにジャスミンが一義を睨みつける。


「あー、そう言えば紹介することもなくぶつけましたね」


 ディアナは苦笑し、そして言う。


「一義様がドラゴンバスター……ビアンカを倒した手法を、私が見たいと言って魔法剣士と戦わせたでしょう? その相手をした騎士がジャスミンです」


「あー、そんなこともあった…………かな?」


「うろ覚えな記憶にしてんじゃねーよ!」


 ジャスミンは地団太を踏む。


「ともあれ決闘だ銃力! 今度こそ俺が勝つ!」


「やれやれ」


 と一義は疲労の吐息をついた。


「だから力なんて歪みを生むんだ」


 他に言い様もなくそう言うのだった。


「いいよ。受けてたとうじゃないか」


「言っとくが奇襲なんてもう通用しないぞ?」


「そうじゃなくとも後れをとらなかったっけ?」


「あの時の俺と思うな」


「警戒はするよ」


 時間を戻す。

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