第104話 エレナという王女10

「大丈夫よエレナ様」


 アイオンが胸を張って言った。


「一義とかしまし娘の実力は折り紙つきだからね」


「……それは雷帝アイオン様よりですか?」


「さて、それはどうかな? どう思うの一義?」


「力比べにさほどの魅力は感じないね」


 紅茶を飲んで一義は述べる。


「わたくしの雷速に一義が反応できるかがキモだね」


「無理」


 いっそ清々しい一義だった。


 そして話を戻す。


「狙ってくる相手に心当たりは?」


「まだ何とも」


 ディアナは首を横に振る。


「まぁ順当なところで波の国との諍いを期待している勢力……あるいは暗殺を得意とする暗殺者ギルドやファンダメンタリスト……他には波の国の王位継承権を持つ人間の陰謀……後は個人の怨恨……そんなところかな?」


 指折りに数えながらアイオンは軽く言ってのけた。


「結局わからないと」


「そういうことね」


 一義の皮肉にニヤリと笑うアイオンだった。


「しかして夜とて城内は兵士によって警戒態勢をとっているんですよね?」


 アイリーンが問うと、


「今では厳戒態勢ですが」


 補足するディアナ。


「では暗殺者は城内にいるの?」


 音々が聞くと、


「いや、城を囲む城壁を突破することは魔術を使えば簡単だよ。空間転移……空中浮遊……あるいは僕みたいな跳躍補助。そもそも魔術を使わなくても僕くらいになれば城壁の凹凸に指を引っ掛けて昇ることもできるし」


 一義が否定してみせた。


「そこからエレナの寝室まで誰にも見つからないままってのはさすがに不気味だね!」


「光学迷彩を持つ相手と見ても不思議はないかな?」


 そんな音々と一義に、


「では何ゆえ二回の襲撃ともジャスミンに気付かれたのでしょう?」


 ディアナが聞く。


「マジックキャパシティの限界だったとか?」


 自分でも、


「胡散臭い」


 と思いながら一義が口にすると、


「それは無いと思うよ」


 アイオンの否定が待っていた。


「そこまで計算できない暗殺者ではあるまい。少なくとも王族を確実に殺そうというのだからね」


「だね」


 一義も同意する。


「さて……そうなると……暗殺者のバックはともかくとして暗殺者自身の狙いがわからないな」


 紅茶を飲む一義。


「どういう意味です?」


 首を傾げてアイリーン。


「そもそもにして城内に難なく忍び込めるか……あるいは城内に潜伏しているか……その議論は後回しにして……」


 はふ、と吐息をつく。


「暗殺者の失敗によって城は厳戒態勢だ。こうなると暗殺者も下手には動けまい。その辺り暗殺者はどう考えているのかなと」


 そして紅茶を一口。


 肩をすくめてみせる一義だった。


「ふむ」


 とアイオン。


「暗殺者は厳戒態勢を望んでいる?」


 とディアナ。


「まだそうと決まったわけでもないんですけどね」


 一義は補足する。


 アイオンが紅茶を飲んで、それから、


「しかして暗殺が第一なら魔術を使ってエレナ様を寝室ごと爆殺すれば済む話だろう」


 反論した。


「だから、ですよ」


 と一義。


「ジャスミン……でしたっけ? その騎士に気付かれて戦闘という状況に陥った。その理由がわからない」


 そこまで言い終えて、紅茶を一口飲むと、


「まぁここで議論して出る答えでもありませんし、とりあえず花々とアイリーンを常にエレナの護衛にさせますよ」


 苦笑する。


「牽制にもなりますしね」


「……一義は守ってくださらないので?」


 そんなエレナの言に、


「エルフが近くにいると落ち着かないでしょ?」


 一義は自嘲めいた。


「……そんなことありません……!」


 エレナは一義の言葉を力強く否定する。


「……一義は東夷……エルフですけど私にとっては格好いい男の人です」


「まぁエルフは総じて美形だしね」


 いけしゃあしゃあと一義。


「ありがと」


 と照れて笑みをエレナに向けると、


「……お礼を言われるようなことを言っていません」


 顔を赤らめながらエレナは紅茶を飲んで誤魔化す。


「ご主人様……」


「お兄ちゃん!」


「旦那様?」


「一義?」


「一義様……」


「一義……」


 ハーレムたちが責めるように一義を見やる。


 しかして一義は飄々としていた。


「別にそんなつもりじゃないんだけど」


 紅茶をゴクリ。


 エレナが一義に惹かれている。


 それは厳然たる事実であった。


 一義も否定はしない。


 そもそもエルフは美形故にエルフだ。


 しかして一義にとってはしがらみでもある。


 それでもエレナが一義に惚れることがあればそれに責任を持つつもりはないと一義は言ったのだ。

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