第102話 エレナという王女08

「ええと、一義様、それから姫々、音々、花々、アイリーン様……」


「何でしょう?」


 集団を代表してアイリーンが問う。


「こちら」


 とディアナは桜色の美少女を示して、


「波の国の第二王女……エレナですわ」


 そう言った。


「エレナ様……」


 一義が呟く。


「……エレナで構いません。……一義様」


 王女エレナは一義に若干怯えながらそう言った。


「とって食べたりしないんだけどな」


 とはさすがに口に出来ない。


 代わりに、


「僕のことも一義でいいよ?」


 妥協案をはかる。


「……霧の国政略的戦力……《銃力》の一義様にそんな恐れ多い」


「なら王女様に対して呼び捨ても恐れ多いよ?」


「……あう」


 言葉をなくすエレナ。


 桜色の瞳が揺れる。


「はいリピートアフタミー。一義。い・ち・ぎ」


「……い……一義」


 たどたどしく一義の名を呼ぶエレナに、


「良く出来ました」


 苦笑する一義だった。


 それから一義はディアナに視線をやる。


「そもそも波の国ってどこ? 聞いたことないんだけど……」


「そう言えばシャルロット様が……」


 これは姫々。


「波の国に行くって言ってたね!」


 これは音々。


「そういえば」


 これは花々。


「ええとですね」


 これはアイリーン。


 一義とかしまし娘はアイリーンに視線をやる。


「霧の国がこの大陸の最も西にある国なんですが……」


 それは知っている。


 各々頷く一義とかしまし娘。


「その霧の国のさらに西に島国が複数存在するんです。波の国はその中でも島国群の最東端……つまり大陸最西方の霧の国に最も近い島国なんです」


「ふむ」


 と花々。


「で?」


 と音々。


「それで……」


 と姫々。


「なんでそこの王女様が霧の国の王城にいるのさ?」


 締めくくる様に一義。


「いわゆる人質ですね」


「人質?」


「霧の国と波の国は同盟和議を結んでいまして、その人質としてエレナが霧の国に保護される身となったのです」


 そうディアナが言う。


「なるほどね」


 一義は頬杖をつくと、


「災難だねエレナ」


 温情なのか皮肉なのかわからないことを言った。


「……あう」


 困ってしまってそれしか言えないエレナだった。


「王族には違いないわけだ」


 と心の中で呟く一義。


 そこで、コンコンと扉がノックされる。


 しかして言葉は無い。


「入りなさいキザイア」


 ディアナはあっさりと扉の向こうの人間を看破した。


「…………」


 失語症故に言葉を発しない褐色のメイドたるキザイアは黙々と茶の用意をして、よどみなく姫々、音々、花々、アイリーン、ディアナ、アイオン、エレナに香り高い紅茶をふるまって、


「…………」


 やはり無言のまま一義にも紅茶をふるまった。


「ありがと」


 そう言ってニコリと笑うと一義はキザイアの頭を撫でた。


 絶世の美貌を持つエルフ……その血を持つ一義が笑えばそれはとても艶やかだ。


「…………!」


 キザイアは顔を真っ赤にして慇懃に一礼して……逃げるように退室した。


 そんな初心なキザイアの反応を可愛らしく思い、


「可愛い子だね」


 一義はソレと知らず爆弾を落とした。


「…………っ!」


 エレナ以外の美少女たちが敏感に反応した。


「まさかキザイアまでハーレムに入れるおつもりですの?」


 全員を代表してディアナが問う。


「うーん、つばをつけたくないかと問われれば答えに困窮するくらいには」


 率直な一義。


「まぁ結局はキザイア次第なんだけどさ」


 結論づけて紅茶を飲む。


 そして、


「ほう」


 と一義が呟いた。


 それは姫々と音々と花々とアイリーンも同様だった。


 香り高く、しかして自己主張しない口当たりの良い紅茶だったからだ。


 その技術は姫々やアイリーンをも上回る。


 さすがは女王ディアナの侍女だと感心せざるを得ない。

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