第98話 エレナという王女04

 ランナー車には七人の人間が乗っている。


 一人はランナーライダーと呼ばれる御者だ。


 ロードランナーを自在に操り車両を魔術によって浮遊させることのできる魔術師でもある。


 ランナーライダーは華やかさこそないもののランナー車を御するという点において重要な魔術師といえる。


 一人は護衛である。


 ランナー車に不逞を働く者たちからランナー車を守るために居座っている霧の国の王直属の魔法剣士。


 その者が魔術障壁を相対座標で張っており、いかな奇襲も襲撃も価値を失う羽目になるのだった。


 一人は一義。


 これは霧の国のミスト女王に命令されて車上の人となっているに過ぎない。


 そもそもランナーライダーを除けば能力的に最弱なのが一義であるからだ。


 一義はソレを自覚しているし、面倒事があっても気にしないタイプなので、


「どうでもいいよ」


 と万象に言える人間だった。


 正確には人間ではなく耳の長いエルフではあるのだが。


 一人は姫々。


 銀髪銀眼のメイドだ。


 重火の魔術師の名の通り銃火器や重火器を取り扱い、ハンマースペースから無限に取り出せる稀有な魔術を使う。


 例え山賊に襲われようと姫々がいれば何とかなる。


 そんな能力を持ったメイドさんだった。


 一人は音々。


 黒髪黒眼の魔術に長けた幼女だ。


 魔法剣士の魔術障壁とは別に、ランナー車に斥力結界を相対座標で張っている魔術師である。


 矛盾の魔術師と比べれば数段劣るが、ほぼ万物の害性情報をシャットダウンする斥力結界はランナー車とそれに乗る七人を保護し奉るに十分な精度と威力とを共存かつ有益に発揮している。


 つまりランナー車は王直属の魔法剣士の魔術と音々の魔術によって二重の魔術障壁を纏っていることになる。


 これを突破するのは容易ではない。


 それ故にランナー車は堅固たり得るのだから。


 一人は花々。


 肉体強化の金剛の魔術を持つ鬼っ子だ。


 赤髪赤眼の額に角を生やした美少女である。


 単純な身体能力の数値で言えば最強の少女である。


 その爪は何物をも切り裂き、その牙は何物をも食みちぎる。


 そして花々を目にしてそれを否定できる人間はいないだろう。


 それほど殺気と圧気と瘴気に満ちた雰囲気を漂わせる花々だったのだから。


 一人はアイリーン。


 金髪金眼の美少女。


 だがアイリーンの本質はその美しさではない。


 反魂の魔術師の名の通り……アイリーンは死んでいる者に復活の奇跡を……つまり死者を蘇生する魔術を持っているのである。


 故に反魂。


 故にアイリーン。


 そのためファンダメンタリストに狙われてはいるが、それは一義のハーレムという抑止力によって未遂に終わっている。


 今後のことについてはわからないが、少なくとも当人は気にしていないようだった。


 とまれ、ランナーライダーと魔法剣士を除く一義と姫々と音々と花々とアイリーンは客分としてランナー車に乗っている。


 ただ乗っているだけでは暇なのでカードゲームに興じている真っ最中だった。


「なんだかなぁ……女王陛下の呼び出しってだけで嫌な予感がするんだけど……」


 一義はテーブルにワイズマンのカードを出す。


「まぁ何かしらわたくしたちが必要になったから呼び出したのでしょうけど……」


 姫々はステップのカードを出す。


「気にしないことだよ! 少なくとも音々は気にしてないし!」


 音々は順番を飛ばされる。


「まぁ……あたしと旦那様とアイリーンを一緒くたに呼び出そうって言うんだ。何かしらはあるだろうね」


 花々が愚者のカードを出す。


「それが私には不安なんですけど……」


 アイリーンはそう言って吐き出されたカードを下から四枚回収する。


「シダラに置いてきたハーモニーが心配だよ」


 一義はマジシャンのカードを出す。


「ビアンカがいますから餓死は無いかと」


 ビアンカは貴族の出だ。


 金銭ならハーモニーの食費を補って余りあるほど持っている。


「まぁそりゃそうだけどさ」


 一義は言葉を濁す。


「時間が狂いましたね」


 王直属の魔法剣士がポツリと呟いた。


「どゆこと?」


 一義が問う。


「本当なら日が暮れる前にもう一つ先の都市に着く予定だったのですが」


 ちなみに日はもう西の空に沈んでいる。


 夜。


 そう呼ばれる時間だ。


 一義はランナー車の車両の窓から辿り着いた村の様子を見る。


 死んだような村だった。


 人の気配を感じない。


「今日はここに泊まるの?」


 そんな一義の疑問に、


「そういうことになるでしょうな」


 魔法剣士は頷く。


「でもそれにしたって……」


 一義は呻く。


「人の気配を感じないんだけど」


 事実だった。


 一義が感じているのは闇の気配だ。


 そしてそれは超直感を持つ花々にも言えた。


「旦那様……これは……」


「うん。わかってる」


 そんな花々と一義のやりとり。


 そして元凶が姿を現す。

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