第99話 エレナという王女05
それはヴァンパイアだった。
「ヴァンパイア……!」
アイリーンが驚愕する。
ランナーライダーと魔法剣士も同様だった。
犬歯を光らせニヤリと笑うマント姿の奇人。
それがヴァンパイアと呼ばれる存在だ。
そしてその通りの姿をしているヴァンパイア。
「ヴァンパイアって何?」
一義が、
「わからない」
と問う。
カードゲームは自然に終了した。
そして、
「「「「「……つっ!」」」」」
「「「「「……うぅ!」」」」」
「「「「「……げぁ!」」」」」
おそらく村人だったのだろう。
化け物と化した村人を視線に収める一義。
「で? 繰り返すけどヴァンパイアって何?」
「吸血鬼のことです」
アイリーンは答える。
「亜人?」
重ねて問う一義に、
「まぁ」
とアイリーン。
「なら仲良くなれるかな?」
亜人たるエルフの一義がそう言う。
「無理でしょう」
さっぱりとアイリーン。
「そもそもにしてヴァンパイアというのは現象です。朝日とともに露と消えるのが定めの存在ですよ」
「?」
「ヴァンパイアは日光に晒されると灰になるんです。更に言えばヴァンパイアに襲われた者はヴァンパイアになります。つまりヴァンパイアに襲われた村は……村人たちは一夜の夢と消えます」
「なるほどね」
全てを理解して一義は頷いた。
「でも夜が続く限りは活動するんでしょ?」
「はい」
遠慮なくアイリーンは頷く。
と、ヴァンパイアに血を吸われてヴァンパイアとなった村人たちがランナー車に襲い掛かる。
それらは音々の張った斥力結界に弾かれて、何度も何度もランナー車に挑みかかるのだった。
「ほう。魔術障壁か……」
そんな声が闇夜に響く。
見れば中空にマントを羽織ったヴァンパイアがいた。
吸血本能に支配された村人のヴァンパイアとは一線を画す理性的なヴァンパイアだ。
「この村の住人をヴァンパイアに変えたのは……」
「そう。我だ」
屈託なくヴァンパイアは肯定する。
「魔術障壁といえども一夜を持続するほどではあるまい。早々に我の眷属になることを勧めるぞ?」
魔法剣士の魔術障壁はともかく音々の斥力結界は七日はもつのだが、それを言ってもしょうがないが故に一義は沈黙する。
つまりこの生死……勝ちはあっても負けはないのだ。
音々の斥力結界がある限り。
「花々……」
「何だい旦那様?」
「鏖殺できるよね?」
「旦那様さえ望めば」
大胆不敵に花々は笑った。
「じゃ、よろしく」
「承ったよ」
そう言って花々は魔術障壁の外に出る。
「馬鹿が! 震えながら車両に引き籠っていればいいものを!」
そんなヴァンパイアの合図のもと、ヴァンパイアと化した村人たちが花々に襲い掛かる。
しかして花々は痛痒を覚えなかった。
襲い掛かった無数のヴァンパイアの頭部や心臓を超常的な握力によって握りつぶす。
金剛の魔術の本領発揮だ。
「がぁ!」
とヴァンパイアとなった村人の一人が花々の隙をついて牙をたてる。
しかしてヴァンパイアの牙は花々の肌を貫くには硬度も威力も足りなかった。
「人間の柔肌に突き立てる下郎の牙があたしに通じるはずもないだろう?」
花々は襲い掛かったヴァンパイアの頭部をまるで卵の殻を割る様に握りつぶした。
ヴァンパイアに噛まれた者はヴァンパイアになる。
しかしてヴァンパイアの牙を弾く金剛の肌を持った花々には些事に過ぎない。
そして理性を失くして襲い掛かるヴァンパイアの集団を、握力だけに頼って殲滅してしまう花々。
それは絶対的な力関係を示していた。
頭部や心臓を握りつぶされて死んでいくヴァンパイア。
最後の一人になるのにそう時間はいらなかった。
「何だお前は……!」
大元であるヴァンパイアが焦ったように問う。
「名前は花々。旦那様の嫁だ」
あっさりと答える花々。
「付き合わなくていいよ」
これは一義の言葉。
「大元のヴァンパイアを殺せばそれでいい」
「相わかったよ旦那様」
そして花々は中空に浮かんでいるヴァンパイア目掛けて跳躍する。
「待て……っ!」
そう言うヴァンパイアを無視して花々はヴァンパイアに接した。
そして、
「がっ……!」
とヴァンパイアが呻いた。
花々が強力な膂力によってヴァンパイアの心臓を貫き、握り潰したからだ。
そしてヴァンパイアは霧と消える。
「これでこの村は安全だね。村人がいないのもこの際問題じゃあるまい。ヴァンパイアはあたしが殲滅したんだから」
「だね」
一義は肩をすくめるのみだ。
そして誰もいなくなった村にて一夜を過ごす一義たちだった。
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