第32話 いざ王都09

 そして執務服を着た老齢の男性が言う。


「女王陛下! お戯れはお止めください! 東夷に触れればヤーウェ様に与えられた魂が穢れてしまいますぞ!」


「女王……?」


「陛下……?」


「それって……」


「王様……?」


 ポカンとした後、姫々と音々と花々とアイリーンは、


「「「「ええーっ!?」」」」


 と驚愕した。


 つまりそういうことである。


 この一義に抱きついて頬ずりしている紫色の美少女こそ、霧の国の統治者……霧の国の最高権力者……ミスト女王なのであった。


「陛下! どうか……どうかわたしの言葉に耳をお傾けください!」


「うるさいですわ。打ち首にされたいんですの?」


 紫色の瞳で老齢の男を睨みつける紫色の美少女改めミスト女王。


「…………」


 一義はというと自分に抱きつかれている人間の正体を知って嘆息した。


 そして体を脱力させてミスト王女の抱擁から脱すると、立ち上がってパンパンと服に付いたほこりを払う。


「あん。ドラゴンバスターバスター様はいけずですぅ」


 残念そうに言って立ち上がるミスト王女の言葉はとりあえず無視して、


「私、一義と……それから姫々、音々、花々……サンタナ焼きと反魂のアイリーン様を女王陛下のもとへお届けに参上しました」


 と言って一礼した。


「はい。ご苦労様でした」


 ミスト女王はニッコリと笑う。


 それからミスト女王はキッと騎士達を睨んで、


「矛を収めなさい! 彼らは私の大切な客人です! これ以上の無礼は許しませんよ!」


 威厳をもって命じた。


 その言葉に気圧されて、騎士達は剣を収める。


 応じて姫々はマスケット銃を虚空に帰し、音々はトランス状態を解いた。


「じいや……」


 とミスト女王は執務服の老齢の男性を呼ぶ。


「は! 何でありましょう陛下!」


 ミスト女王の命令を賜るべく姿勢を正す老齢の男。


「彼らを私の私室へと招きます。お茶と茶菓子の準備を」


「しかして陛下……東夷を城内に入れるなど……霧の国千年の繁栄に無かったことと存じます!」


「では今回が初めての例となりますね。それから東夷という言葉は止めなさい。ドラゴンバスターバスター様はエルフです。城内でも徹底なさい。わかりましたね?」


「は! この身をもって!」


 魂に響く部分で答える老齢の男。


「では取り囲んでいる騎士達を退かせなさい。私は私室にドラゴンバスターバスター様一行を案内します」


「しかして陛下! 庶民と会話を交わすのは謁見の間でなければ……!」


「はぁ……。じいや……これ以上の議論は破却します。いいですか? 私はお客様をもてなさなければなりません。今すぐに茶と茶菓子と用意を!」


「了解いたしました!」


 そう言って老齢の男は騎士を引き連れて城内へと足早に吸い込まれていった。


「ではドラゴンバスターバスター様……どうぞこちらへ」


「一義です」


「はい?」


「ですから僕の名前は一義と申します……女王陛下。以後お見知りおきを」


「一義、ですね。では私のこともディアナ……とお呼びください」


「恐れ多いですよ女王陛下」


「ではディアナと呼ばなければ打ち首と申せば?」


「……わかりましたよ。ディアナ……」


 屈服して両手を挙げる一義。


「はい。それでいいです一義様」


「僕は様付ですか?」


「だってドラゴンバスターバスターですよ? 様をつけなければ嘘と云うものです」


「アレは偶然……たまたま勝てただけですよ」


「いいえ、ドラゴンバスターのステータスは私も知っていますもの。偶然で勝てる相手ではありませんわ」


 どこまでわかって言ってるんだかな……とは一義は言わない。


「では一義様と反魂のアイリーン様と……それから……」


 ディアナは紫色の瞳をかしまし娘へと向ける。


「姫々と申します……。ミスト女王陛下……」


「音々と申します。ミスト女王陛下」


「花々だよ。ディアナ」


 姫々と音々は仰々しく、対して花々はさっぱりとそう言った。


「姫々も音々もディアナでいいよ。ていうかそう呼んで。これは女王様の命令。花々はわかっているみたいだけどね?」


「あたしは権力を気にする器量を持ち合わせていないだけだよ」


 肩をすくめる花々だった。


「では私の部屋に参りましょう。一義様」


 そう言って一義の腕に抱きつくディアナだった。


「あの……ディアナ様……ご主人様に抱きつかれるのはおよしください……」


「ディアナ! そこは音々の定位置だよ!」


「ディアナ。君まであたしたちのライバルになる気かい?」


「ディアナ様……一義に取り入るのはおやめください」


 嫉妬するかしまし娘とアイリーン。


「いいではないですか。私、一義様のこと気に入りましたわ。だって格好いいんですもの。このまま保存していたいくらい」


「ご主人様が格好いいのはわかりますが……」


「でも先に唾をつけたのは音々で……」


「旦那様はあたしのモノだよ」


「一義から離れてください」


 そんなハーレムの言葉に、


「少なくとも王城にいる間くらいは私の命令に従っていただきますわ。私が一義様と仲睦まじくするのを許してくださいな……ハーレムの皆さん」


「「「「むぅ……」」」」


 と不満げなハーレムの皆さんを無視して、


「では参りましょう? 一義様……」


 抱きついた一義の腕を引っ張ってディアナは王城の私室へと向かうのだった。

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