第31話 いざ王都08
そして次の日。
「おー」
「はー……」
「わあ!」
「へぇ」
と感動詞を呟く一義とかしまし娘の、その言葉を要約して、
「すごいにぎわいですね」
アイリーンがそう言った。
白と銀と黒と赤と金の瞳は都であるミストの市場のにぎわいに感動して輝いていた。
ミスト。
それは霧の国の王都であり、即ちミスト女王が管理する土地である。
ミストはなだらかな丘となっており、高い位置は貴族が暮らし、低い位置は庶民が暮らすというわかりやすい構図になっている。
つまりミストの丘のどの高さの位置に住んでいるかでその者の身分がわかるのである。
無論のこと王都であるから存在する王城は丘の一番高い場所に建てられており、王都のどの場所にいても絢爛豪華な王城が見えることになっている。
一義の住んでいた和の国には「馬鹿と煙は高いところが好き」という文句があるが、さすがに不敬罪まっしぐらなので喉の奥にしまい込む一義であった。
ともあれロードランナーは車を引っ張って、ゆっくりゆっくり王都の市場を縦断する。
ロードランナーが王侯貴族の乗り物であることは和の国の一義とかしまし娘には実感がないが、王都の民には恐れられるほどに染みついている認識である。
ロードランナーゆっくり歩きながら市場を縦断すると、王都民たちは平伏してロードランナーが通り過ぎるのを待つのである。
それを車体の窓から覗きながら一義が問う。
「ねえ……なんで市場の人達は平伏してるのさ?」
答えたのはアイリーン。
「ロードランナーは王侯貴族の乗り物です故、横切る際には伏して敬意を示さなければならないのです」
「ふーん。不思議なもんだね。別に頭を下げるような人物が乗っているわけでもないのに」
「まぁ権力というのは純粋な破壊力とは別の……しがらみに近い力を持っていますから」
「引力ってこと?」
「引力……とは?」
「いい。なんでもない」
一義はアイリーンとの会話を打ち切って、車内から市場を覗き見ることを続ける。
平伏している市民を見て気分が悪くなる一義であったが、それは一義が権力に関係していない性格をしているためであって、もしも権力に魅了される人間ならばそれは極上の景色に見えただろう。
とまれ、
「あ、リンゴの蜂蜜漬け!」
と一義が市場のとある店に並べられているリンゴの蜂蜜漬けを見つけた。
ランナーライダーに車を止めるように言って、車内の窓から身を乗り出す一義。
そして平伏している商人に、
「ねえ、そのリンゴの蜂蜜漬け一口分だけ売って。いくら?」
そう問うと、平伏していた商人が面を上げて、
「ひぃ……東夷……じゃない……エルフ様……」
と一義の褐色の肌と長い耳に怯え、その後ランナー車の乗員だということを再確認すると、リンゴの蜂蜜漬けの入った瓶から三つほど蜂蜜漬けにされているリンゴの切り身を取り出して皿に乗せて、
「どうぞ」
と一義に向かって差し出した。
「ありがと。いくら?」
「いえいえ、王侯貴族様からお金をとったりはいたしません! どうか、どうか、ミリン商会をよろしくお伝えください」
「うん。じゃあ。千ミストだけ払うよ。王様にも伝えておくから安心して」
そう言って窓から千ミストの紙幣を支払ってヒョイと車内へと顔を引っ込める一義であった。
ライダーに進んでいい旨を伝えた後、リンゴの蜂蜜漬けを食べる一義。
「うん。甘くて美味しいしみずみずしい。蜂蜜の香りも十分。いい買い物したなぁ」
一義は爪楊枝でリンゴを刺して口に運ぶとそう評した。
そうやってリンゴを堪能していると、ランナー車は王城へと到着した。
大仰な城門が大仰に開く。
城内に入って、城の庭にてロードランナーは止まった。
「お客人……御着き申しました」
一礼するランナーライダーに、
「「「「「ありがとうございます」」」」」
と一義とハーレムたちは感謝の意を示してランナー車から降りる。
一義たちが立ったのは城壁と王城の間にある庭だ。
そもそもにしてありえないほどの広さを持つ王城の、その広い庭は完璧に整理されていて、一義たちはその美しさに心を打たれた。
杓子定規で計ったような緻密でシンメトリカルな王の庭は、芸術と言っても過言ではなかった。
和の国の大名のおわす城の有機的で自然との調和を種目に置いた庭と違い、理路整然とした芸術のような庭だった。
そして城壁の門が閉じ、王城の門が開く。
仰々しく開く王城の門からは、派手な紫色のドレスを着た紫色の髪に紫色の瞳を持った美少女が現れた。
紫色の美少女は、パタパタと走ってランナー車から降りた一義たちの方へと走り寄り、そして一義と目が合うと、一義に向かって全力疾走で走り出した。
「え? 僕……?」
ポカンとする一義に、
「ドラゴンバスターバスター様ぁ……!」
と紫色の美少女は飛びついて抱きしめて押し倒した。
「ドラゴンバスターバスター様! ドラゴンバスターバスター様!」
一義を押し倒して抱きしめた後、頬ずりをする紫色の美少女。
「えーと……え?」
事態を把握できていない一義。
「ご主人様はまた……」
「お兄ちゃんはまた!」
「旦那様はまた」
「一義はまた……」
姫々に音々に花々にアイリーンが「またか」と嘆息した。
それもそうだろう。
銀色、黒色、赤色、金色、青色、緑色の美少女になつかれたばかりか、今度は紫色の美少女にまでなつかれたのだ。
これで呆れない方がどうかしている。
「ドラゴンバスターバスター様の勇名はこのミストまで轟いておりますわ! お会いしとうございました!」
頬ずりをしながらそう言う紫色の美少女。
と、そこに老齢の……しかして立派な執務服を着た眼鏡の男性と数十人の騎士達が慌てて紫色の美少女へと走り寄り、一義たちを取り囲んだ。
数十人の騎士に剣を突きつけられる一義たち。
「っ……!」
姫々はマスケット銃をどこからともなく取り出して剣を突きつける騎士達に銃を突きつける。
「っ!」
音々はいつでも魔術が使えるようにトランス状態へと変異する。
「…………」
花々はオーガあるため金剛の魔術により剣など効かず、飄々としていた。
「…………」
アイリーンは無害を示すため両手をあげて降参した。
「ドラゴンバスターバスター様ぁ……」
紫色の美少女は一義に抱きついたままで、
「……どういう状況?」
一義は紫色の美少女に抱きしめられて押し倒されたまま騎士達に剣を突きつけられてハンズアップをする他なかった。
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