第7話 王立魔法学院入学式とその後07

 と、そこに、


「ご主人様……」


「お兄ちゃん!」


「旦那様」


 と言わずと知れたかしまし娘……一義のハーレム……姫々と音々と花々が九組に入ってきた。


「来るの遅かったね。ああ、いや、責めてるわけではないけどね」


 一義がそう言うと、


「すみません……。掲示板にて明日からの講義の日程を確認してきたものですから……」


 申し訳なさそうに姫々が言う。


「別にお兄ちゃんを迎えに行ってからでもよかったと思うんだけどね!」


「まったくまったく」


 音々と花々が抗議する。


「しかしそんな無駄足をご主人様に強いさせるわけにはいかないでしょう……? 講義の管理はご主人様に尽くすわたくしたちの仕事です故……」


「姫々は真面目すぎるよ!」


「まったくまったく」


 ジンジャーはそんなかしまし娘のやり取りをポカンと見た後、


「あなたたち!」


 と食いついた。


「なんでしょう?」


「なに~?」


「なにかな?」


 ジンジャーの言葉に疑問を呈するかしまし娘。


「あなたたちが一義のハーレムの方たちですか!?」


「ハーレム……」


「ハーレムだって!」


「ハーレムかぁ」


 感慨深いとかしまし娘はそう言う。


「まぁそうとっていただけても結構ですよ……」


「うん! まぁ……他に言い様もないしね!」


「あたしは旦那様に忠誠を誓った身だからね」


 そんなかしまし娘の言に、


「何故東夷……じゃない……エルフであるところの一義に忠義を尽くすのです?」


 と百人いれば百人ともに疑問を持つ謎を問いかけるジンジャーだった。


 しかして、


「何故と言われても……ご主人様はわたくしのご主人様でありますれば……」


「お兄ちゃんは音々のお兄ちゃんだから!」


「旦那様はあたしの旦那様だから」


 あっさりと答えになってない答えを言うかしまし娘。


「つまり惚れているのですか?」


「そうですね……。間違ってはいません……」


「うん! 音々はお兄ちゃんが大好き!」


「惚れてるからこその旦那様だよ」


「そう……ですか……」


 あまりに直球なかしまし娘の言葉に他に言い様も無くそう呟くジンジャーだった。


「ちなみに名前を教えてもらってもいいでしょうか?」


 そんなジンジャーに、


「わたくしは姫々と申します……」


「音々は音々だよ!」


「あたしは花々だ」


「ひめき……ねおん……はなか……ということは……名前を吟味するならお三方とも和の国出身ですか?」


「そういうことでは……ないのですけどね……」


 苦笑する姫々だった。


「そもそも和の国の肌は黄色いでしょ? 音々と姫々の肌は白いでしょ?」


 音々が補足し、


「あたしはオーガだから肌は黄色いけど……別に和の国出身ってわけじゃないけどね」


 花々がそう否定する。


「では何故和の国の名前を?」


 ジンジャーがそう問うと、


「それは秘密です……」


「秘密だね」


「ああ、秘密だ」


 かしまし娘は拒絶するのだった。


「しかして姫々さんと音々さんと花々さんは一義に忠義を尽くしている……と」


「そういうことですね……」


 姫々が首肯する。


「そんなことよりお兄ちゃん!」


「なんだい音々……」


「東方の味の定食屋を見つけたって朝に言ったでしょ! もうお昼もすぎてるし……そこに行こ!」


「ああ、そんなこと言ってたね……」


 一義がそう納得すると、


「じゃあ行こ! すぐ行こ! 早く行こ!」


 華やいだ笑顔で一義の右手を奪って立ち上がらせる音々だった。


「ご主人様……鞄をお持ちいたします」


 姫々が手を差し出してくる。


「ああ、ありがとう」


 一義は姫々に鞄を預けるのだった。


 すると今度は花々が、


「旦那様……腕に抱きついてもいいかい?」


 と疑問形でありながら有無を言わさず一義の左腕に抱きついた。


「ほあ……本当に一義を慕っているのですね……」


 ジンジャーが驚いたようにそう言うのだった。


「当然です……。ご主人様をお慕いしているからこそ……わたくしのレゾンデートルは保たれているのですから……」


「音々もお兄ちゃん大好きー!」


「旦那様をお慕いせずに誰をお慕いすればいいのかと問いたいくらいだね」


 かしまし娘は気負わずにあっさりとそんなことをのたまうのだった。


「照れるね……どうも……」


 一義は頬を赤らめる。


「とにかくお腹が減ったよう! 定食屋に行こ! お兄ちゃん!」


「はいはい」


 と音々の言葉に頷いて、それから、


「ジンジャー」


 と一義はジンジャーに声をかける。


「はひっ!? 何でしょう?」


「同クラスのよしみだね。一緒に食事しない? 東方風の定食屋だけど」


「…………」


 ジンジャーは呆然とした後、


「はぁ、それは構いませんが……」


 コクコクと頷くのだった。


「決まり! それじゃ行こっか」


 右手に音々を従え、左腕に花々を従え、三歩後ろに姫々を従えて、一義はジンジャーを連れて教室を出るのだった。


 部活勧誘の生徒たちもかしまし娘を勧誘したいという視線を送っていたが東夷である一義の存在故に声をかけられない状況だった。


 そんなこんなで一義と姫々と音々と花々とジンジャーは王立魔法学院を出るのだった。

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