第6話 王立魔法学院入学式とその後06

 学院長の話。


 一過生の担当教授からの言葉。


 霧の国の軍隊の大佐による軍属になることの旨と激励。


 生徒会長からの祝辞。


 首席入学者の感謝と抱負に満ちた言葉。


 合唱部と吹奏楽部による歓待の音楽。


 そんなこんなの入学式を粛々と大ホールでやり終えた後、一義はまっすぐ九組の教室へと戻った。


 入学式の間……ずっと畏怖と恐怖の視線にさらされて落ち着かなかったためである。


 いのいちばんに教室へ戻ると、


「終わったみたいですね一義」


 ジンジャーがそう気さくに話しかけてくれて一義は少しだけ救われた気持ちになる。


「入学式はどうでした?」


「別段どうってことも……。ただ……やっぱり大陸西方の方々は東夷を怖がる傾向を持ってるね」


 しょうがないことだと苦笑する一義に、


「それはしょうがありません」


 とジンジャーも首肯する。


「多分大半の生徒は言葉も通じないモンスターだと認識しているはずですよ……」


「まぁデミヒューマンであるからに故……その宿命は受け止めたうえで好きにさせてもらうけどね」


 他に言い様も無く一義。


「一義はどこか入りたい部活などはありますか?」


 取材なのだろう。


 メモをもって興味津々と聞いてくる新聞部の部員ジンジャーだったが、


「僕なんかが所属したらその部活に迷惑をかけますから所属するつもりはありませんよ」


 肩をすくめてスルリと躱す一義だった。


 それから二、三質問されてそれに答えていると、教室は九組の教室はいっぱいとなり、つまり全ての生徒が揃った。


 そして担当教授が教室に入ってきて、明日からさっそく講義がある旨と、掲示板に講義の日程が張ってある旨を伝えて、


「じゃあ、今日の日程はもう終了した。帰っていいぞ劣等生ども」


 解散、と手を叩いた。


 次の瞬間、九組の教室に怒涛のごとき勢いをもって学院の生徒たちがなだれ込んできた。


 見れば誰も彼もは所属している自身の部活動のプラカードを掲げていた。


 部活の勧誘だろう。


「合唱部に入りませんか!?」


「文芸部に入りませんか!?」


「いやいやそこの君! いい体してるね! 騎士道部に入らないかい!?」


「可愛い! 手芸部に入らない!? もっと可愛くなれるよ!?」


 そんなこんなで赤、緑、青、紫のネクタイをした学院生が手当たり次第に新入生を部活に勧誘していた。


 一義はというと、


「くあ……」


 と欠伸をする。


 教室の窓際最後方にて席に着いたまま後頭部で両手を組んでのんべんだらりと弛緩している。


 怒涛のように押し寄せていた部活勧誘の生徒もやはり東夷は恐いのか、一義に話しかける者はいなかった。


「いいんだけどさ……別に……」


 どこか寂しそうに言っていると、


「一義はさすがに誘われませんね」


 とジンジャーが話しかけてきた。


「まぁ……ね……」


 白色の髪。


 白色の瞳。


 褐色の肌。


 長めの耳。


 忌避させる十分な要素をエルフである一義は持ち合わせていた。


 デミヒューマンとしての悲しい性だ。


 オーガやエルフといった大陸東方のデミヒューマンは人類と文化的な交流をしている種も少なくないが、大陸西方のデミヒューマンであるトロールやゴブリンやヴァンパイアなどは人類にとって脅威となっている。


 故に大陸西方でのデミヒューマンの格はどうしたって落ちる。


 故に部活勧誘が一義のところまで届かないことに一義は文句をつけるつもりはない。


「そういえばジンジャー」


「はひっ。何でしょう……?」


 緊張した面持ちで返事をするジンジャーに、


「とって食べてもいいですか?」


 とニヤリと笑ってそう言う一義だった。


「わ……わわわ……私は美味しくないですよ……!?」


 慌てるジンジャーに、


「ぷっ……」


 と噴き出して笑う一義だった。


 かつがれたことを理解して、


「もう! 一義は!」


 ポカポカと一義の胸板を叩くジンジャーだった。


「まぁ冗談はともかく……」


 コホンと咳ばらいをした後、


「担当教授が何も話してくれていなかったけど……この王立魔法学院での単位取得はどのようにすればいいのかな?」


 一義は本題を切り出すのだった。


「え? 知らないんですか?」


 虚をつかれたかのようにジンジャー。


「知らないね」


 あっさりと一義。


「入学事項は読んでいないんですか?」


「そう言えばそんなものもあったね。恥ずかしながら読んでないよ」


「はぁ……」


 ポカンとジンジャーはそう呟くのだった。


「先回りして言うとこの学院には単位制というものはありません」


「……? それでは成績はどうやって出すのかな?」


「成績は出ません。王立魔法学院では魔術の取得によってその優劣が決定されます。つまり……」


「つまり?」


「強力な魔術を覚えれば覚えるほど二過生……三過生……四過生と進級することが出来るんです……」


「なるほどね……」


 一義はふぅむと頷くのだった。


「つまり講義に参加してどれだけ勉強しようと魔術が進歩しなければ意味はない……と」


「そういうことですね」


 ジンジャーがしっかと頷く。


「魔術の優劣で過生が上がる……と。それで九組に編入……か」


 虚空に向かって呟く一義。

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