おまけ 俺達の青春はまだこれからなのか

卒業編「未来へ」

晴流達が高校の卒業式を迎えた頃の話です。

三部に分けてお送りします。

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 三月。

 高校生になったと思ったら時間はあっという間に過ぎ去っていき、気付けば卒業証書を手にしていた。


 卒業式の後、堂庭は都筑やその他クラスメイトと抱き合いながらわんわん泣いていた。一人一人の進む道があり、この先二度と会わないかもしれない仲間もいる。そう考えれば涙が溢れるのも理解できるが、平沼まで泣き喚いていたのを見た時は流石の俺も呆れた。お前は男だろ。せめて目元を隠しながら静かに泣け。


 そんな一日を終え、俺達は高校最後の春休みを迎えた。そして俺と堂庭と桜ちゃんの三人は今、電車でとある場所へ移動している。


「ったく、なんであたし達がわざわざ修善寺あいつの地元に行かなくちゃいけないのよ。こっちは全員鎌倉住みだってのに」


 列車のドアにもたれ掛かってブツブツと文句を垂らすのは俺の恋人の堂庭どうにわ瑛美えみだ。彼女の耳上から流れるツインテールは所々がはねていていささか不機嫌そうに見える。


「確か思い出のカフェがあるんだろ? 昔桜ちゃんと行ったことがあるとかで」

「そうかもしれないけどあたしと晴流は関係ないでしょ。もうっ! 横須賀まで往復したら四百円超えるじゃない」

「いやお前の家、金有り余ってるだろ。電車賃くらい気にするなよ」


 ブランド品を一日で百万円分買った奴の口とは思えない発言だな。


 因みに俺達は横須賀市内にあるカフェで修善寺さんと合流することになっている。堂庭が不機嫌なのは恐らく修善寺さんと会いたくないからだろう。犬猿の仲なのは相変わらずのようだ。


「あーあ。せっかく晴流と二人きりでデートに行けるかと思ったのにあのおバカさんのせいで台無しだわ」

「こらこらお姉ちゃん。あまり先輩を悪く言わないでね」


 頬を膨らませて怒る堂庭を優しく宥める桜ちゃん……。身長だけでなく立場まで逆転してるなこの姉妹は。


「まあ今日は仕方無いだろ。その代わり明日どこかに遊びに行こうぜ。奢ってやるからさ」

「むぅ、分かった。晴流の奢りならいい…………」


 不服そうな顔を浮かべながらも了承はしてくれたようだ。まったく、手のかかる子供だな。


 昔から堂庭は我儘で俺はいつも振り回されていた。人目を憚らず幼女愛を語るし小さな女の子を見つけたら暴走するし止めようとしたら馬鹿力で跳ね返されるし……。


 それでも今は俺の大切な恋人なのだ。一体こいつのどこに惹かれたんだよと思うかもしれないけれど、それでも俺は堂庭が大好きだし一生愛していきたいと思う。

 理由を語ってもいいが、語り始めたら恐らく堂庭本人がドン引きするくらいの長話になると思われるので割愛させていただく。



 駅の到着を知らせる車内アナウンスが鳴り響いた。もう間もなく目的地に到着しそうだ。



 ◆



 喫茶店に入り店員に促されるままテーブル席へ移動すると修善寺さんが既に椅子に座って待っていた。


「ごきげんよう。着くのが少々遅かったのではないのかえ?」

「うるさいわね。来ただけでも感謝しなさい」


 堂庭は早速敵意むき出しだ。

 一方で修善寺さんは手元にある水を啜り飲みながら我関せずといった状態。やれやれ、この先が思いやられるな。


「あ、修善寺さんまだ制服着てるんだね」

「一応今月までは高校生じゃからのう。でも四月からはスーツにしようと思っておるぞ」


 意地でも私服を買わないつもりか……。彼女には複雑な経済事情があるらしいので俺が口出しできる問題ではないが、いつも同じ制服姿なので気になってしまうのである。


「……取り敢えず私達も座りましょ? 私は先輩の隣に座るのでお姉ちゃん達はそっちに座ってください」


 この中で恐らく一番しっかり者であろう桜ちゃんがてきぱきと指示を出す。そして「はーい」と気怠げな返事をしてソファーに腰掛ける堂庭の隣に俺が座った。


「皆さん何食べます? 私はヌガーフリュイデポワにしようと思ってますけど」


 さて、桜ちゃんは何か小難しい単語を口にしたようだが俺にはさっぱり聞き取れなかった。ヌガー……なんだっけ?


「じゃああたしも桜と同じヌガーフルルデポアにするわ」


 堂庭の奴、思いっ切り言い間違えてやがる。というか間違え方が可愛い。


「ほっほっほ。瑛美殿、お子様なお主には難しいかもしれないが、そやつはヌガーフリュイデポワって名前じゃぞ。ヌガーフルルデポアじゃなくてヌガーフリュ――」

「ああもう、うっさいうっさい! 分かったから黙っててよ」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にする堂庭。あぁ可愛いなもう。


「じゃあお姉ちゃんは私と同じでいいんだね。お兄さんはどうします?」

「うーん、どうしようかな……」


 メニューを眺めるものの、どれも筆記体の英語で書かれているため読むだけでも一苦労だ。しかしどうしてこの手の喫茶店は馴染みの無い英語の商品名を付けるのだろうか。もっと単純に苺ケーキとか蜜柑ケーキ等で良くないか?


「よし、俺はフラン――」

「桜! ブラックコーヒーを追加して頂戴。あたしお子様じゃないから!」


 そんなムキになるなよ堂庭……。でもこいつは見た目に反して大のコーヒー好きなんだよな。つい忘れてしまうが彼女のコーヒー愛は筋金入りなのである。


「えっと……俺はフランボワーズって奴で」

「ならわしはモンブランをいただこう」

「あたしブラック! ね!」


 強調するな、皆分かってるから。




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※最終話まで本日中に更新します

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