高校生編「再会」

今回は本編2章4話の修善寺視点です。

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 土曜日の昼前。

「久しぶりにお話でもしましょう」と桜にメールで誘われた私は待ち合わせ場所として指定された鶴岡学園の校門前に来ていた。


 桜と会うのは彼女が転校して以来だ。楽しい高校生活を送れているだろうか。でも桜ならきっと大丈夫なはずだ。持ち前の愛嬌と優しさで友達もすぐにできているだろう。


 街路樹を行き交う小鳥達の羽ばたきを眺めながらその時を待つ。十分程経った後、一人の足音がこちらに向かってきた。振り向くと見慣れた少女の姿があったのだが……。


 金髪ツインテールに小柄な体型。現れたのは紛れもない私の親友、堂庭瑛美だった。


「あら奇遇じゃの。こんなところでそなたにお目にかかれるなんて」

「ふんっ。呼び出したのはあたしよ。知らずにほいほい騙されるなんて、あなた本当に財閥の娘なのかしら?」


 なるほど、そういう事だったのか。

 見るからに怒っている態度の瑛美を見て分かった。先日の封筒を送った犯人が私だと気付いて文句を言いに来たのだろう。


「瑛美殿。そなたの無礼な態度、相変わらず変わらないのう。でも|童(わらわ)は寛大じゃ。例え無能な意気地なしに文句言われても、わしは決して動じないぞ」

「はぁ!? あんただってそういう人をコケにする言い方、昔から変わってないじゃない」


 やはり相当頭にきているようだ。まあ無理もない。瑛美の性格を考えればこうなる事も想定内だったし。


 それにしても瑛美の見た目は相変わらずだな……。数年ぶりに会ったというのに身長やその他諸々まるで変わっていない。

 唯一異なる点があるとすれば服装だろうか。モノクロトーンのドレスを着ており、少々派手な格好だ。瑛美の私服姿はほとんど見なかった為分からなかったけど最近の彼女はいつもこんな感じなのだろうか。でも瑛美の家は腐ってもセレブだから案外スタンダードな服装なのかもしれない。


「で、あたしが呼び出した理由。わかるでしょ?」

「はえー。なんの事じゃ?」


 少しとぼけてみる。素直に全てを話すのはなんか勿体無い気がしたのだ。


「とぼけても無駄よ! あの封筒送りつけたの、あんたでしょ?」

「瑛美殿。人に質問するときは、まず質問する目的と内容の正当性を説明してからするものじゃぞ」

「あーもう。いちいちうるさいわね。……封筒の中にあたしの事を小児性愛者って書いた紙と写真が何枚か入ってたのよ。それで紙に書かれた文字があんたの字にそっくりだから、こうして聞いてるのよ」

「ほほう。……最初からそう言えばいいのじゃ」


 そう、私が一枚の紙に書いた文章は『注意。堂庭瑛美は小児性愛者です。』といったものだった。

 瑛美の性癖が知られたら大変だというのは重々承知している。だが敢えて告発することで彼女自身に危機感を持たせようとしたのだ。

 また、仮に噂が広まったとしても今の瑛美には守ってくれる存在がいる。私はそれに賭けていた。


 しかし封筒の送り主を筆跡で特定されるとは思わなかった。数年ぶりの再会だというのに私の事をよく覚えてくれていたんだな。


「確かにその文書をそなたの学校に送ったのは童で間違いないのじゃ。じゃが、一体何故そなたはそこまで腹を立ててるのかえ?」

「あんたね……。理由なんて分かってるでしょうが。嫌がらせにしてもちょっとやり過ぎだと思うんですけど!」

「童は事実を伝えたいと思って、善意で送ったつもりなんじゃが……」

「そんな善意いらんわ!」


 瑛美と話しているとつい怒りを煽るようなことを言ってしまう。でもそれは恨みや憎しみじゃなくて気兼ねなく話せる相手だからなんだけどね。


 そして私は心を許せる相手として容赦無い一言を突き出した。


「そなたも理解しているはずじゃろう。――ロリコンは差別されるということを」

「ぐっ……」


 自覚させるのは大事だ。言葉で直接伝えることでより意識を高められる。


「わしはそなたに気付いて欲しい。|幼(・)|女(・)を愛する罪は重いのじゃぞ」

「そ、それがいけない事くらい、あたしは分かってるわよ! でもあんたには関係ないじゃない!」

「関係ない? そんな事はないぞ。そなたが|幼女好き(ロリコン)だとわしが困るのじゃ」

「困る?」

「左様。まあこんなところでは詳細を公言できないがの。ただ一つ言うなれば、そなたが目障りなのじゃ」


  はっきり言ってしまえば瑛美のロリコンを直させたいのは私のエゴイズムだ。瑛美の噂が広まっている状態で私が東羽高に転入した場合、私の過去も詮索される恐れがある。考え過ぎなのかもしれないけれど、同じ過ちはもう二度としたくない。


「ふふ、ところであんた。あたしが今日このまま帰ると思ってる?」

「……というと?」

「あたしだってそこまで馬鹿じゃないわ。……晴流、こっちに来なさい!」


 突如、怒っていただけの瑛美が「ざまあみろ」と言わんばかりにドヤ顔をキメた。それに晴流ってあの……。


 後少しで押し切れそうだったのに形勢は逆転。私の親友は想像以上に手強かったようである。

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