7-4「さっすが宮ヶ谷!」
俺が堂庭を……好き?
今までの俺はあいつを友達だとか単なる幼馴染みとして意識していた。でも時々その感情が正しいのか分からなくなっていたんだよな。
「俺……堂庭の事がす、好きなのかな?」
「いや、それは人に聞くことじゃねぇだろ」
平沼に軽くあしらわれる。それもそうか、自分の本当の感情は自分しか分からないもんな。
そこで、今までの出来事をいくつか思い出してみることにした。
七夕祭りの夜。二人並んでベンチに座り、優しい笑顔を浮かべる堂庭を見た。恐らく最初に俺の感情が揺さぶられた時だ。
それから夏休みに堂庭の別荘へ遊びに行った時。雷雨に怯える堂庭を俺は一人で守っていた。
堂庭が珍しく風邪を引いた時、看病をしたらお礼を言われた。
挙げるとキリが無いが、これらの共通点として堂庭が弱気であり、普段の元気が失われているという点がある。
守ってあげたい、助けたいという感情と共に俺は胸打つ音がおかしくなるぐらい動揺していた。
つまりそれは……普段見せない堂庭の姿に魅せられていた、ということだ。それなら今まで不可解だった事象も納得できるし、辻褄も合うだろう。
俺は堂庭が好きだったんだ。今まで恋愛なんてした事は無かったし興味も無かったから、人が恋をした時どんな感情を抱くのか分からなかったけど、今それが分かった。
ロリコンを直すとか、日頃のお返しといった目的が無くても隣に居てあげたい。俺の手で守ってあげたい。何かあったら助けてあげたい……。
ようやく自分の感情を整理できた。平沼が言ってくれなかったら、俺はずっと悩み続けていたのかもしれないな。
だけど……一件落着とは言えない。
「でも堂庭は俺を助けないと言っていた。だからもう手遅れなんじゃ……」
時すでに遅し。俺の本心を堂庭に伝えたとしても振り向いてくれる確証はないのだ。
「いやぁその心配は無いと思うんだけどなぁ。お前が想いを伝えれば堂庭ちゃんはしっかりと受け止めてくれるはず。でもあくまで俺の予想だから鵜呑みにするなよ?」
静かに椅子に座り直した平沼が落ち着いた声音で言う。予想とはいえ、平沼は何故大丈夫と答えたのだろうか。堂庭は冷めた態度をしているのだから、告白してもフラれるのが定石ではないのか?
「でもなぁ……今更好きって言っても気持ち悪いというか、失敗して本当に嫌われたら俺立ち直れなくなるかも……」
堂庭がいない生活なんて考えられない。朝も昼も夜も平日も休みでもあいつは俺のすぐ近くにいた。我儘な堂庭に対し、今まではやれやれと言いながら構っていたけれど、本当は嬉しくて、一緒にいられる事に喜びを感じていたのかもしれない。
俺はきっと堂庭に依存している。無くてはならない存在になっているのだ。だから絶対に手放したくなんかない。けれど……。
「おい何回言わせるんだよ。男ならもっとこう……ガツンとぶつかっていかないとダメだぜ?」
「当たって砕けるくらいなら当たらない方がマシだろ……」
「だからそういう保守的な考えは捨てないか?」
違う。リスク計算を行った上で最善の選択をする賢明な策と呼んでほしいね。あ、でもそれが保守的って言うのか……?
「まあ具体例を交えないと恋愛初心者の宮ヶ谷には理解できない内容だったかもな。悪いな、難しい事言って」
「なんかお前に言われると無性に腹が立つんだけど」
俺は経験者だぜと言わんばかりのドヤ顔をする平沼。ウザい。
大体、お前も告白してフラれまくってるんだから分類的には俺と同じだろ。
「はは、そんな怒るなって宮ヶ谷。ここで俺からありがたいお話をプレゼントしてやるからさ」
どう考えてもありがたくない話だろうと思ったが、暇だし一応付き合ってあげる事にする。
「笑い話なら聞いてやるぞ」
「うーん、まあネタにはなるかもしれないけどなぁ……。先週の放課後の時なんだけど……」
平沼の自分語りが始まった。たとえ俺が嫌と言ってもきっと彼は話を止めないだろう。身勝手だけどこいつは妥協しない奴なのだ。いつでも全力で立ち向かっている姿は正直格好いいと思うし、俺は密かに尊敬していたりする。
「愛川さんに告ったんだ。二回目だからリベンジってやつだな」
「え、マジで!? 全然落ち込んでなかったから気が付かなかったわ」
「おい俺がフラれた前提で驚くのはやめろ。……まあ結果としてはフラれたんだけどさ」
苦笑いを浮かべる平沼。だがその顔に嫌悪感は無く、寧ろ清々しい表情だった。鉄壁のメンタルというか、羨ましいほどにポジティブシンキングだ。
「こっちは真剣に告白してるっていうのに考える間もなく断られたんだぜ? しかもなんて言ったと思う? 「汚らわしい」だぞ? 前回と全く同じセリフで断られたんだよ。流石に萎えるよなぁ」
平沼は目線を落としたまま自嘲気味に笑う。
あの清楚で男子からの人気も抜群に高い愛川さんが「汚らわしい」なんて言葉を使うのかと最初は驚いたのだが、今は何とも思わない。愛川さんは見た目とは真逆な腹黒さを持っており、だらしない平沼に対する断り方と考えれば妥当な判断ともいえよう。
「でも変わった所もあったんだよ。なんと愛川さんは笑ってたんだ。前は汚物を見るような目でフラれたけど、今回は手を口元に当てて可笑しそうに笑いながら断られたんだ。それを見てなんだか俺は嬉しくなっちゃったよね」
フラれたのに嬉しくなるのか……。どういう神経してるんだよこいつは……。
「可愛いというか新たな一面を見つけちゃった的な? でも冷たい目で罵られるのも悪くないとも思ったよ。なんならローファーで踏まれても構わない。いや、寧ろ踏んでくれないかな……」
ぐへぐへと気持ち悪い笑顔を浮かべる平沼。完全にヤバい奴だな。どっかの山奥に隔離する必要があるかもしれない。
「とうとうお前はMに目覚めたか……。というかこの話のどこがありがたいんだよ」
「まあ落ち着けって宮ヶ谷。これから話すからさ……|早(・)|い(・)男は嫌われるぞ?」
「うぜぇ…………」
一発ぶん殴って黙らせてやりたい。
「結局俺が言いたいのはな、行動しなくちゃ何も分からないって事なんだよ。当たって砕けるかもしれねぇけど当たらなかったら百パーセント成功しないだろ?」
「…………まぁ、そうかもな」
なんだよ、平沼のくせにそれっぽい事を言ってるじゃないか。なんか調子が狂うな……。
「それにお前は堂庭ちゃんとの距離が離れると思ってるんだろ? ならダメ元でも告った方が良いに決まってる。「俺が一番お前を愛してるんだよ!」ぐらいの勢いで告白してこい! じゃないと絶対後悔するぞ!」
「平沼…………」
「想いをぶつけるってのが重要なんだ。相手を気にして自分の本心をひた隠しにしたって意味が無い。どんなに仲が良くても言葉にしないと伝わらない事だってあるんだぜ?」
「そうか……そう、だよな」
まさかこいつに後押しされるとは思わなかった。普段はへらへらしながら女子の情報をかき集めてるような奴なのに、男らしい恋愛観も持ち合わせていたなんて……。
やっぱり、どんなに絶望的でも希望がある限りは諦めちゃ駄目だよな。
平沼……お前のそういう|男(・)な所、見習わせてもらうぜ。
「ありがとう……。俺、最後まで足掻いてみるわ」
「おぅその意気だぜ我が親友よ! ならお前に最後のアドバイスをくれてやろう」
指をパチンと鳴らした平沼が続ける。
発言は格好いいくせにこういう無駄なアクションで台無しにしてるよな。取り敢えずシンプルにウザい。
「プレゼントを用意するんだ。オンナはこういうサプライズ的な要素に弱いからな。好きな物や欲しかった物を贈れば大抵は目をハートにして抱きついてくるらしい。因みにソースはバイト先のイケメンな先輩だ」
「うわぁ超絶信用できねぇ情報だな」
これあれだろ、但しイケメンに限るってやつ。見た目が既に合格してるから何やっても大体セーフなんだよな。羨ましい限りだぜ。
「まあ俺も実際半分くらいしか信じてないからあまりアテにしない方が良いかもしれんな。だけど何も無いよりはマシだと思うぞ。お前なら堂庭ちゃんの欲しい物とか知ってるだろうし、十分なアドバンテージになると思うけどな」
「うーん、そうだな……」
確かに告白とプレゼントをセットにするというのは悪くない選択肢だと思う。
でも堂庭が今欲しい物って何だろう……。ロリ系のアニメやゲームに関するグッズなら喜んでくれそうだが、あいつは余りある金と権力を振りかざして大抵の物は既に持っているんだよな。
欲しがってたけど手に入れてない物…………。あ、そういえば。
「ある。……うん、多分いける」
「お、さっすが宮ヶ谷! 格が違うねぇ!」
「いやいや、それは関係ないから……。でもありがとな、礼だけは言ってやるよ」
本当はかなり感謝してるけど、それは心の内に留めておくことにする。ベタ褒めするとすぐ調子に乗るからな。
「おぅ! 夫婦の絆、しっかりと取り戻してこいよ!」
「だから夫婦じゃねえっての。…………今はな」
「おやおやぁ? これは将来マジでくっつくパティーン!? なら結婚式の時は呼んでくれよな。仲人やるからさ」
「話が早ぇよ。というか仮にそうなってもお前は呼ばない。呼びたくもないね」
でも平沼なら場の盛り上げ役としては最適なんだよな。
それにしても結婚か。堂庭のウェディングドレス姿……お遊戯会の姫様役の衣装みたいになりそうだけど絶対可愛いよな。
…………って駄目だよ。未来の妄想よりも先にすべき事があるじゃないか。
堂庭に好きと伝えるんだ。
俺の本当の想いを……|堂庭(あいつ)に伝えるんだ!
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