第7章 ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか!

7-1「いいから行くのよ!」

 冬休みが風の如く過ぎ去り、正月ボケも治ってきた一月の半ば頃。

 今日は日曜日ということで俺はリビングにある|炬燵(こたつ)に潜りながらスマホを弄っていた。

 朝、テレビの天気予報で今日は全国的に一段と冷え込むと伝えていた。ただでさえ寒いというのにこれ以上冷え込んだら凍え死んでしまう。だからストーブをフル稼働に焚いて炬燵に潜る。今日は外に出ないぞ!


「お兄ちゃん、足邪魔」


 俺と向かい合うように座ってせっせと問題集を解いている舞奈海に睨まれる。おまけに伸ばしていた足を蹴られた。痛くはないけど鬱陶しいな……。


「舞奈海。残念だが俺の足は動かないのだ」

「え、どういう意味?」

「ふっふっふ……今日の俺は炬燵と同化しているんだ。だから俺を動かすことはできない」


 単に炬燵から出たくないだけなのだが、我ながら言い訳がくだらないと思った。


「そうだったんだ……なら仕方ないね」


 ところが舞奈海は顎に手を当てながら妙に深刻そうな表情を浮かべていた。まさか俺の適当な設定を信じたのか? いくら小学生とはいえ、この程度の冗談も通じないとそれはそれで困るのだが……。


 予想外の反応に驚く中、舞奈海は炬燵から抜け出して部屋の壁際へ移動した。そして……


「お兄ちゃん、炬燵とくっ付いちゃったんだよね、可哀想に……。だから少しでも動きやすくできるように尻尾を抜いてあげるね!」


 舞台俳優のような、少しオーバーな演技をしながら舞奈海はコンセントに刺さっていた炬燵の電源コードを外しやがった。このおマセ小学生め。俺の発言を逆手にとったな……。


「あとストーブも切っておいてあげるね! 冷えた方が多分離れやすくなると思うし」


 そう言って更にストーブにまで手を伸ばす舞奈海。

 やめろ! 暖房が無いと俺は生きていけないんだぞ!


「分かった、俺が悪かったからストーブは勘弁――――」


 ピンポーンッ!


 言い終わる直前にインターホンが部屋に鳴り響いた。舞奈海も手を止めてそのまま硬直する。


「こんな寒い日に誰だろ?」

「んー宅配の人とかじゃね?」


 訪問販売や勧誘系のセールスという可能性もあるが、いずれにせよ俺には関係ない訪問者だ。無視して炬燵布団にくるまろうとしたのだが……


 ガチャ。


 誰も返事すらしていないのに玄関の扉が開かれる音がした。そして――


「晴流ぅー! あぁーそびぃーましょおおおー!!」


 昔から変わらない、幼さが残る慣れ親しんだ声。その主は……言うまでもない。


「あいつ、小学生かよ」


 思わず独り言がこぼれる。

 堂庭が俺の家にやってきて遊びに誘うという事例は今まで何回もあったが、こんな幼稚な誘い方は初めてだ。つい「小学生かよ」と呟いてしまったが、目の前にいる現役小学生の舞奈海は絶対に言わないセリフだし、断然大人びて見える。小三に負ける高二ロリ……情けないな。


「晴ぁぁ流ぅぅぅ! いるんでしょー! 怒らないから早く出てきなさぁい!」


 堂庭は家の隅々まで響き渡るような大声量で叫んでいた。非常にうるさいし、別室にいる両親にまで聞こえているだろうと思うと恥ずかしくてたまらない。


「ねぇ晴流ぅぅ! いたら返事してよぉ! じゃないと部屋に入ってベッドの下とか覗いちゃうよぉ?」

「うるせぇ! 俺はいるよ!」


 俺は我慢できずに声を上げる。別に堂庭の発言で動揺した訳ではないぞ。そもそもベッドの下に如何わしいような本は隠してないし、そんな在り来りな場所に隠す奴なんて今時いるのだろうか、と思う。


「ねぇ、お兄ちゃん早く行ってよ! 瑛美りんが侵入したらどうするの!」


 舞奈海は顔を引きつらせながら炬燵の中に潜り込もうとする。どうやら身を隠して難を逃れようとしているらしい。というか侵入って……堂庭は泥棒かよ。


「晴流ぅぅ……早く来ないと北〇百烈拳の刑よ」

「今行くから待ってろ!」


 ネタが古いし女子が言うセリフじゃねえだろ。

 しかしこれ以上騒がれるのは御免なので、俺は渋々こたつの温もりに別れを告げることにした。さらば、また会う日まで……。



 ◆



「お前はもう……死んでいる」

「俺まだ何も食らってないぞ?」


 玄関で俺の姿を捉えるや否や、例の百裂拳の物真似を始める堂庭。厳しい寒さにも関わらずテンションの高い奴である。


「まあまあそれはいいとして……今日はタイツを穿いてみたんだけど、変じゃないかな?」

「うーん、別に普通じゃね? でも珍しいよな。タイツなんてお前持ってたのか」


 普段は生足全開のスカートで元気な幼女アピールをしている堂庭だが、今日は珍しく黒タイツを穿いていた。

 黒タイツといえばOLなど大人の女性としての魅力を感じさせる一品だが、今の堂庭からは微塵も感じられない。赤と黒色のチェックがあしらわれたワンピース風のチュニックを着ており、それだけでガーリーな印象を持ってしまうためお洒落ではあるが見た目はロリータである。……カタカナ言葉が多いな。

 ともあれ今日は凍えるような寒さだから黒タイツという選択はやむ無い判断だったのだろう。

 しかしながら、この前のクリスマスの落ち着いた格好とは打って変わって、毎度お馴染みの小学生スタイル。大人なレディーに憧れたのは期間限定だったようだ。


「ふふ、実はこのタイツはね、メアちゃんから借りたの!」

「そうか……というかサイズも同じなのかよ……」


 メアリーさんが三十歳以上というのは確かなようなので、年の差は少なくとも十四はあるわけだ。つまり相手はおばさ……と言ったら怒られるだろうが、それだけ年が離れているにも関わらずお互いの服を流用できるのは見た目年齢がほぼ同じだからだろう。合法ロリの力、恐るべし。


「まあそういうわけで……今日は平塚に行こうと思いまーす!」


 何の脈絡も無く本日の目的を告げる堂庭。無鉄砲な所は相変わらずである。


「平塚って……用事は一体なんだよ」

「それはね……これよ!」


 ニコッとはにかんだ堂庭はポケットからスマホを取り出し、画面を俺に見せてくる。


「これはあの時の……」

「そう、ターニャンのフィギュア! 未開封の状態の物がブッ〇オフに売っているらしいのよ!」


 以前、堂庭の部屋で言い合いになった末、犠牲に遭ったフィギュアだ。確か幼女伝記っていうラノベの主人公だっけ。


「そうか、いってらっしゃい。悪い大人に飴を貰っても、ついていかないようにしろよ」

「気遣いありがとう。じゃあいってくるね…………ってなんでよ!」


 おぉノリツッコミだ。珍しいな。


「晴流も行くのよ! 当たり前じゃない」

「そう言われてもだな……外は寒いし面倒だし……」


 今日は絶対に家から出ないと決めておいたのに……。でも堂庭の誘いは断れないというかほぼ命令なんだよな。俺がいくら嫌といっても連行されるのだろう。


「いいから行くのよ! それに……少し話したい事もあるし……」

「話……?」

「ま、まぁ色々と……。でもそれは後にしましょ」


 俺の返事に動揺したのか、堂庭は少し目を泳がせていた。何故だろうか。


「はぁ……。じゃあここで待っててくれ。支度してくるから」

「はぁーい! 四十秒で支度しなさいっ!」


 某映画のワンシーンのように言い放った堂庭。俺はそんな元気溢れる彼女に溜息を交えつつ|踵(きびす)を返し、自室へ戻った。

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