その4-2「続・俺と堂庭のクリスマス」

 いくつかのブランド店を見て回り、今は宝石店に来ていた。

 堂庭は既に数多くのアクセサリーや洋服を買っており総額は中古車が買えるくらいの値段になっているはずだが、まだ欲しい物があるようだ。彼女の財布には一体どれだけの諭吉様が眠っているのだろうか……。


「指輪が欲しいのよね~。可愛いのがいいわ」

「金……足りるのかよ……」


 宝石が乗った指輪なら価格は高級バックどころの騒ぎでは無くなる。ましてやダイヤモンドなんていったら……俺の親の年収に匹敵する物もあるだろう。正気の沙汰ではないな。


「あまり贅沢はできないのよね。お父さんに百万円貰ったから……残り十万円くらいしか使えないわ」

「あぁ桁違いすぎて俺にはよく分からないや」


 それにしても堂庭に甘やかし過ぎではないかお父さん……。そんなにお金があるなら日頃の感謝料としてこちらにも分けてもらいたい。少なくとも堂庭よりは有意義なお金の使い方ができるはずだ。


「あ! これエメラルドかしら。可愛い!」


 自由気ままに育ったのであろう堂庭はカウンターのショーケースにへばりついていた。その目は欲しいおもちゃを見つめる幼女のようにきらきらと輝いている。セレブリティな優雅さは微塵も感じられないけど……。


「おぉ、値段もそんなに高くないんだな」


 真っ先に値札を見てしまうという庶民根性の塊である俺だが、堂庭が欲しがっている緑の宝石の指輪は確かに可愛くて綺麗に輝いていると感じた。値段は三万円と書いており、他と比べると格安である。だが決して安くはないと俺の脳にしっかりと刻み込んでおきたい。この感覚に慣れたら俺は俺じゃなくなる気がするから……。


「いいなぁ、これ欲しいなぁ」


 堂庭の目はいつにも増して煌めいているように見えた。ショーケースを照らす眩しい光が反射しているからかもしれないが、彼女は本当に欲しがっているのだろう。

 だってこいつは子供みたいに素直で感情がすぐ顔に出るタイプだから。何を考えているのかなんてすぐに分かるさ。


 しばらくお目あての指輪を見つめていた堂庭だったが、やがて近くの店員に声を掛けた。どうやらお買い上げのようである。


「この指輪をください。支払いは現金で構わないわ」

「かしこまりました。少々お待ちください……」


 丁寧な挨拶で返した店員はカウンターに置いてあったノートパソコンを操作し始める。そしてしばらく経った後……


「お客様、大変申し訳ございません。こちらの商品ですが、只今在庫が切れておりまして入荷までは二週間程度のお時間をいただく事になります。ただ展示してあるこちらであれば今すぐお渡しできますが……」


 まさかの在庫切れだった。しかもショーケースの中にある指輪はサイズが大きく、堂庭の細い指には合わない事も明らかだ。


「そう、ですか……」


 堂庭は見るからに悲しそうな表情をしていた。すぐ手に入らないという事実にショックを受けたのだろう。でも少し待てば入荷するらしいし、そこまで落ち込まなくてもいい気がするが……。


「……分かりました。在庫が無いなら大丈夫です」

「ご予約いただければ郵送でのご対応もできますが、よろしいですか?」

「はい。欲しい物は一期一会といいますか、先延ばしにするくらいなら別のを選びますので。お気遣いありがとうございます」


 ぺこりとお辞儀をする堂庭。

 なんということだ……。我儘なお嬢様であるこいつがマトモな対応をしているぞ……!


「本当に大丈夫なのか? 凄く欲しかったようにみえたけど」

「うん、確かに可愛いし滅茶苦茶欲しいわ。でも……たまには我慢も必要だと思ってね」


 無理して作ったような笑顔。欲しいなら素直に予約すればいいのに……。


「ふぅーん。お前にしては珍しくオトナな感じじゃないか。今までと違って」

「そ、そうかしら。でも当たり前よ。今日のあたしは気品溢れるレディーなんだからっ!」


 そうやってすぐ調子に乗るところが子供なんだよな……。

 しかし堂庭は何故ここまで大人らしさを求めているのだろうか。


 買ったバッグやアクセサリーはどれも大人の女性向きだし、これらを着こなせば堂庭の見た目年齢は間違いなく上がるだろう。

 ロリ体型は恥じるべきだという世間一般の認識を理解したのだろうか。もしそうであれば彼女の成長になるわけだし、俺としては喜ぶべき事なのかもしれない。



 でも今の俺は――――素直に喜べないと思った。

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