5-7「もっと仲良くなるから!」

「マジッすか……」


 部長の報告を受け、俺は思わず溜め息をこぼした。

 堂庭がロリコンである事や家に幼女グッズを隠し持っている事、朝学校に行くまでの行程まで諸々知られてしまったようだ。

 というより、ここまで詳細な情報を何故都筑が手に入れているのが謎なのだが。


「私からは絶対に広めたりなどしない。都筑にもノートを隠しておくよう注意しておいた」

「ありがとうございます。助かります」


 本村部長に向き直り、お辞儀する。その様子を見ていた都筑がくすっと笑った。


「世話が焼ける奥さんで大変だね、宮ヶ谷君」

「うるせぇ。夫婦じゃねぇし」


 世話が焼けるのは事実だが。それより今回の事の発端は都筑、お前だからな。


「しかし堂庭が本当にそんな顔を持っていたとはなぁ。あの堂庭瑛美がなぁ」

「意外に思うんですか?」


 堂庭とは一回会ったきりでそれ以外の接点は無いはずなのに部長は何故驚いているのだろうか。

 そりゃ、あんなロリっ娘がロリコンだなんて誰でもびっくりするだろうけど普段の真面目な堂庭を知らなければそこまでギャップは感じないはずなのだ。

 俺は感慨深そうに一人頷く本村部長を訝しげに見やった。

 一方、遠くからこちらを眺めていた大黒先輩は状況を察したのか、俺の心の中に留めていた疑問に答えるかのように会話に混ざってきた。


「堂庭ちゃんは皆の堂庭ちゃんやからなぁ。ウチらの学年でも有名人やで」

「え、それ本当ですか!?」


 同学年の男子に留まらず上級生にも名前が知れ渡っていたのか。アイツ、マジで学園のアイドルじゃん。


「堂庭瑛美のファンクラブなんてのもあるらしいぞ。会員はおよそ六十人。比率は男子八割女子二割程度だ。噂では教員にも会員がいるとか」

「生徒はともかく教師でロリコンは流石に通報されますよ……。というかやけに詳しい情報を持ってるんですね」

「ふっふっふ。新聞部の部長を甘く見ては困るぞ。それに、有名人のスキャンダル程美味しいネタは無いからな!」

「芸能リポーターなんですかあなたは……」


 もうパパラッチ(百合)部とかに名前を変えちゃおうよ。その方がインパクトあるし部員も増えるかもよ?


「それにしても」


 本村部長の目が鋭く光る。


「子供っぽい見た目の堂庭瑛美が幼女好きとは驚いた。実際に見てないから分からないが、彼女を幼稚園の前に連れていくと大変な事になるんだろう?」

「それはもう大変ですよ。もはや自殺行為です」


 公の場で暴走する堂庭に付き添うのは罰ゲームと呼んでも過言では無い。周囲からの視線は針のように尖っていて痛いし、ロリコンという社会的レッテルがもれなく貼られるオマケ付きだしな。


「宮ヶ谷君も苦労しているんだろう? もし学校中に知れ渡ったらと思うとヒヤヒヤするもんなあ」

「まあ、そうですね」


 バレた時のリスクはあまり考えていなかったが、堂庭のファン(ロリコン)が校内に溢れているとなると危険性は高いとも言えよう。

 通学中の堂庭の行動は実に変態であり「ムチムチボディぐへへー」なんて言いながら涎を垂れ流す姿を他の生徒に目撃されてもおかしくはない。しかし奴は学校の最寄りである横浜駅に降り立ってからはごく普通の女子高生になるのだ。事実、堂庭も自身の性癖を誰にも知られたくない訳だし表と裏という二つの顔を上手にコントロールしている。


「堂庭瑛美は昔からそういう趣味を持っていたのか?」

「そうですね、少なくとも中学時代からは変わらないです」


 あの日の出来事はきっと忘れないだろう。

 今まで俺が見てきた堂庭とは一切異なる姿をした堂庭。

 幼馴染みとしてアイツの性格や行動はよく分かっていたつもりだったが、道行く幼稚園児の列をキラキラと輝かせた目で見送る後ろ姿を見た時は流石に驚いた。人間、見た目が全てじゃないって色んな意味でよく分かった。


「小学校の時はどうだったのー?」


 例の極秘ノートを広げ、ペンを手に持って準備万端の都筑が質問してくる。


「さあ分からん。堂庭は鶴岡学園に行ってたしほとんど顔も合わせてなかったからなぁ」

「なるほど。別居状態……これは倦怠期って言うヤツだね!」

「ちげーよ。あとメモるな」


 言葉の改竄かいざんが得意なレポーター気取りの都筑を適当にあしらい、スマホを取り出す。


「もう結構時間経っちゃいましたし、俺帰っていいですか?」

「用事でもあるのか? なら引き止めて悪かったな」

「いえいえ。堂庭の件についての報告ありがとうございました」


 先輩達に会釈をして部室の扉に手をかける。因みにこの後の俺は家に帰って寝るという重要な用事が待ち構えている。

 部室から出たところで後ろから都筑に声を掛けられた。


「私、堂庭ちゃんともっと仲良くなるから! 宮ヶ谷君に負けないくらい仲良しになるから覚悟しておいてね!」

「あぁ……。まあその方がアイツも喜ぶだろうし俺からもよろしく」

「うん、任せてよ!」


 俺と堂庭の距離が遠ざかっているという事実を都筑は知っているのだろうか。

 無邪気な笑顔で見送る彼女の顔を見ながら、そんな事を思った。

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