3-12「お姉ちゃんがっ!」
聞きそびれていた修善寺さんと堂庭の関係。
それが今、桜ちゃんによって話された。
二人は大親友。
……いや、有り得ねーだろ。
性格も全然違うし、会った瞬間に言い争いが始まる。
喧嘩するほど仲が良いと言うが、あれはそのレベルを越えている。
ツンデレで例えるとデレ無しツン百パーセントのような状態だ。
「少なくとも小学生の頃は今と全然違う仲良しさんでしたよ」
「マジか……。想像つかないな……」
「ふふ、そうでしょうね。でも本当に大親友と呼べる関係だったんですよ、あの二人」
過去の記憶を探るかのように頷きながら話す桜ちゃん。
「ですがお姉ちゃんが小五の時に二人はある事で大喧嘩したんです。お互い和解もせず、それからずっとあんな感じ。目が合えば言い争ってますからね……」
「大喧嘩、か」
何が原因で喧嘩に至ったのか聞いてみたが、桜ちゃんは
彼女曰く、俺はまだ知らない方が良いとのことだ。
「あの二人がまた仲良くなるためにもお姉ちゃんのロリコンを直しましょうね、お兄さん!」
「え? おぅ、そうだな……」
二人の仲と堂庭の幼女好きは関係ないはずだが、取り敢えず俺は頷いておいた。
奴を更生させる事は俺と桜ちゃんの共通の目標だしな。
それから軽く世間話をしていると修善寺さんが戻ってきた。
「遅くなってすまないのじゃ……って瑛美殿はまだ戻ってないのか?」
「あぁ、まだ来てないな」
「時間かかり過ぎですよね……」
完全に忘れていたが、桜ちゃんと合流してから堂庭と会えていない。
トイレに入っているとはいえ、いくらなんでも長過ぎないか?
少なくとも十分以上は経過している計算になるし、もしかしたら体調が悪くなって出られなくなってしまったのかもしれない。だとしたら心配だ。
一同不安になるも、堂庭がどの個室に入っているのか分からないので助けに行くことはできない。
ただひたすら待ち、五分、十分、二十分と時が流れていった。
もしかして……。良からぬ憶測が頭をよぎる。
「堂庭の奴、もうトイレにはいない……とか?」
「む……? それはどういう意味じゃ?」
「……あいつは既にトイレから出ていて、勝手にどこかへ行ってしまったかもしれない」
「なるほど。入れ違い、という訳じゃな」
「それは確かに有り得ますね。私がトイレから出て以降、お姉ちゃんの姿は見てないですし」
「ったく、面倒かけさせやがって……。本当に幼女探しの旅に出掛けたんじゃないのか?」
やれやれと溜め息がこぼれる。この後ライブが控えているというのに間に合わなかったらどうするつもりだよ。
「私、お姉ちゃんに電話してみますね。あまり遠くに行ってないといいんですが……」
「いつも思うけど、妹が言うセリフじゃないよな」
妹に世話を焼かせるどうしようもない姉。
奴の懸念点は修善寺さんに並ぶ方向音痴だということ。
近場にいてほしい。それか俺達が分かる場所にいれば……。
堂庭を一人にさせている今の状況が俺は心配でならなかった。いやはやと呆れても、やっぱり心配だった。
「…………電波の届かない所にあるか、電源が切れている……? なんで……」
スマホを耳に当てたままの桜ちゃんが不安そうに呟く。どうやら電話に出ないようだ。
「うむ……。誘拐でもされたのではないのかえ?」
「えぇぇぇぇ!? そ、そんな」
「電波が届かないというと、瑛美殿は既に山の奥深くに……」
「ど、どどどどどうしようお兄さん! お姉ちゃんが! お姉ちゃんがっ!」
「ちょっ、落ち着いて!」
涙目の桜ちゃんを大丈夫だからと
流石に誘拐はないだろう。もう高校生だし。
……だが見た目は小学生なんだよな。
容姿は綺麗だし、一人だったら狙われるかも……ってやめよう。連れ去り事案とかマジで洒落にならない。
って俺まで焦ってどうするんだ。落ち着け、携帯の電源が切れているだけかもしれないだろ。
電源……。電源? あれ、ちょっと待てよ。そういえばあの時……。
ピンッと頭の中で閃く音が鳴った気がした。
今から一時間以上前、短冊に願い事を書いていた時……。
『あたしのスマホ、充電切れちゃってたから』
思い出した。
堂庭の奴、スマホの電池切らしてるんだった。
「桜ちゃん、あいつのスマホは電源が切れてるから電話が通じないだけだと思うよ」
「え、本当ですか! 良かった、連れ去られてなくて……」
「事態は良くなってないけどな。寧ろ悪くなったぞ」
堂庭との連絡手段が絶たれた今、人で溢れかえるこの祭り会場から探し出すのは困難を極めるだろう。
若干のアテは有るのだが、確証は持てない。
でも今は打てる手を全て打たないと!
「桜ちゃんと修善寺さんはここで待ってて。俺一人で探してくるから」
「え、でも私達も協力した方が……」
「そうじゃ。手分けして探した方が効率が良いぞ?」
「いや、それは却下だ。これ以上迷子を増やすのは勘弁してほしいしな」
桜ちゃんならまだしも修善寺さんを一人にさせるとか、そらもう迷子直行便ですぜ。
「堂庭がまだトイレに居るという可能性も捨てられないし、二人はここで待っててほしい。俺は一人でも大丈夫だから」
「…………死亡フラグかえ?」
「おいやめろ。そういう意味じゃないし、俺にはいくつかアテがあるんだ」
「アテ……ですか?」
「あぁ。堂庭が行きそうな場所ぐらいすぐに分かるしな」
何度か一緒に来たこともあるし、あいつの考えてる事も大方把握しているつもりだ。
「ふふ、なら任せますね、お兄さんに」
「夫婦の絆を舐めるなと言いたいのじゃな。それなら仕方あるまい。わしはここで気長に待っていよう」
「だからやめてくれ。俺と堂庭はただの幼馴染みだ!」
優しく微笑む桜ちゃんとニンマリと笑う修善寺さんを残し、俺は騒音に満たされた人波に飛び込んだ。
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