2-3「楽しみで仕方ないわ」
お仕置き?
とっておきの方法……?
まさか直接攻撃を仕掛けるとは思っていなかったが一体どうするつもりだろう。
「晴流! 今回はあんたの力が不可欠よ。協力しなさいよね!」
「え? 俺!?」
俺の力が不可欠?
どういうことだ?
全く理解できない俺だったが、桜ちゃんはなるほどと頷いている。
「あんたはお馬鹿令嬢の前に立って、話の流れに乗るだけでいいから。それ位できるでしょ?」
「え? たったそれだけでいいのか?」
話に合わせるだけって……。
それじゃ俺はただの相槌役じゃねぇか。
そこまで重要な事なのか?
「もうお姉ちゃんってば。お仕置きにしても流石にえげつなくない?」
「いいのよ。久々にあいつをギャフンと言わせられるチャンスなんだからね!」
桜ちゃんが止めようとする程のお仕置きなのかこれ?
内容が全く見えてこない。
「結局俺はどうすればいいんだよ? 何か怖がらせたりするのか?」
「ふふ、あんたは立ってるだけで十分よ。理由は会ったときに分かるわ」
そう言った堂庭は、前髪をかきあげて余裕の表情を浮かべる。
まあこれだけ自信満々に言っているんだ。ここは堂庭を信じて作戦に従うとしよう。
それに、修善寺さんという人も気になるしな。
「連絡は桜にお願いするわ。怪しまれないように遊びに誘う感じで呼び出して。日にちはできるだけ早くお願い」
「分かった。連絡は私に任せて!」
桜ちゃんは意外と乗り気で堂庭の指示に応じる。桜ちゃんと修善寺さんって仲が良いのかな?
「じゃあ作戦会議はこれにて終了! 日程とか決まったら晴流に伝えるから」
「あいあいさー」
こうして堂庭ロリコン現場目撃事件の復讐劇が始まるのだった。
同じ週の土曜日。この日の午前中に修善寺さんに会いに行くと堂庭から言われたので、俺は奴の家の前でのんびりと待っていた。
暇だったので、ブロック塀の上にいる鳩があと何秒で飛び立つか予想してみる。
あれは三秒だな。っておいもう飛び立つのかよ!?
…………。
……虚しい。
このままじゃ悲しい人になるので、徐にスマホを取り出して弄っていると、玄関から私服姿の堂庭と桜ちゃんがやってきた。
「お待たせ~」
「まったくどんだけ待たせて、ってちょっと待て!?」
堂庭の格好を見て、思わず声を上げる。
「お前、そんな服で行くのかよ!?」
「失礼ね! これは
不満そうな顔をする堂庭だが、俺にはその服装で出掛ける意味が分からなかった。
彼女が着ている服。それは襟や袖元に大袈裟なほどのフリルがついた黒色のドレスだった。
ファッション知識に疎い俺でも分かる、その派手な格好。
今の堂庭は美幼女からゴスロリ美幼女に進化していた。
「あれ、でも今日有明に行くって聞いてないんだが?」
「ちょっ、正装ってコスプレの意味じゃないわよ! それにイベントにも行かないから!」
華麗なツッコミを入れる堂庭。
ふと思ったが、堂庭が似合うコスプレって結構多いかもしれないな。
「修善寺先輩に会うのだから、見合った服を着ないと面子が立たないってお姉ちゃん慌ててたんです」
「ちょっと桜! 余計な事言わないでよ!」
なるほど。普段の小学生モデルの格好だと馬鹿にされるとかそういった理由か。
でもゴスロリが見合うってどういうことだよ。修善寺さんって中二病患ってるか、コアなオタクかよ。
一方、桜ちゃんはミントグリーンのワンピースに白い麦わら帽子を被っており、如何にも育ちの良いお嬢様が着こなすファッションだ。
「さあ行くわよ! あいつの怯える顔を見るのが楽しみで仕方ないわ!」
「お前、どんだけ恨みがあるんだよ」
今の堂庭は悪魔と言っても過言では無いだろう。
ここまで堂庭と仲が悪い相手、修善寺さんがどんな人なのか益々気になってくる。
時刻は午前十時。
ゴスロリ美幼女と正統派お嬢様と平凡男子という異色の組み合わせとなった俺たちは、鶴岡学園に向かって歩き出した。
鎌倉駅から横須賀線に乗り、南下すること約二十分。
横須賀駅から程近い場所に鶴岡学園はあった。
「初等部の校門だわ! 懐かしい!」
「あ、お姉ちゃん。待ち合わせ場所は高等部の方だからこっちだよ!」
桜ちゃんを先頭に学園の外を歩いて周る。
二人は学園の生徒だった頃の思い出話に花を咲かせていたが、俺にはさっぱり分からない。
だが時々、話を振られるので適当に相槌を打って話の軸を曲げないようにしていた。
「修善寺先輩あそこにいますよ!」
桜ちゃんが指差すその先。学園の制服を着た少女が校門の脇にぽつんと立っていた。
「よし、予定通り作戦Aで行くわよ。桜、晴流をお願い!」
「了解ですお姉ちゃん!」
二人は声を潜めてお互いの対応を確かめ合う。
というか作戦Aって何だ? 俺、聞いてないぞ。
すると桜ちゃんは俺の名前を呼んで一緒についてくるように言った。
俺は言われるがまま後につき、校門の裏手、修善寺さんと呼ぶ少女の背後に回り込んだ。
俺たちは隠れて様子を窺うのだろう。作戦については理解できた。
だだ懸念点として、俺たちが身を隠している看板はあまり大きくなく、とても窮屈だった。
「お兄さん! もっとこっち来て下さい。見えちゃいます!」
「いや、でも……」
躊躇う俺の腕を桜ちゃんが掴んで引き寄せる。
「ち、ちょっと近過ぎじゃない?」
「しっ! 声が大きいですよ」
声を潜めて注意をする桜ちゃん。
今、俺と桜ちゃんの間に隙間は無く、密着している。
彼女の被っている白い麦わら帽子が俺の肩に当たっている。そよ風に乗って流れるシャンプーの甘い香り、身体が触れることで伝わる暖かな体温。
桜ちゃんとここまで接近したのは、先日の帰り道に介抱してあげた時以来だ。
あの時と同様、俺の心拍数はみるみる上昇していく。
隠れながら、堂庭と修善寺さんの会話を見届けなくてはいけないのにそれどころではない。
桜ちゃんに目を向けると、彼女もまた顔を赤くして俯いていた。
「お兄さんがこんな近くにいると……何だかドキドキしますね」
桜ちゃんが振り向いて、お互い目が合う。すると彼女は恥ずかしそうにしながらニコッと微笑んだ。
やめてくれ……そんな顔されたら、俺は勘違いしてしまうぞ。
「あ、そうそう。私とお兄さんはお姉ちゃんたちの様子を見るように言われてるんです。それで、タイミングを見計らってお兄さんはここから出て下さい」
「……タイミング?」
「ええ。合図はお姉ちゃんが出しますから。そこからはお兄さんが本領発揮してくださいね」
グーッと指を立て、ウインクをする桜ちゃん。
堂庭も言っていたが、俺が活躍する必要って本当にあるのだろうか。
疑問が残るまま、看板の継ぎ目にできた隙間から堂庭たちの様子を窺う。
「あら奇遇じゃの。こんなところでそなたにお目にかかれるなんて」
「ふんっ。呼び出したのはあたしよ。知らずにほいほい騙されるなんて、あなた本当に財閥の娘なのかしら?」
「瑛美殿。そなたの無礼な態度、相変わらず変わらないのう。でも
「はぁ!? あんただってそういう人をコケにする言い方、昔から変わってないじゃない」
なんだこの煽り合いは。
というか修善寺さんって一体何者……?
「修善寺さんの喋り方……なんか凄いね」
「ふふ、そうですよね。あのお姫様のような口調は先輩の特徴ですから」
まさかこの現実世界で、わしとかじゃのと話す女の子がいるとは思わなかった。
小柄で制服は少し着崩れてるし、髪はふわふわとパーマがかかっており、リア充感満載な見た目なのに口調は姫様。
……何という素晴らしいギャップなのだろうか。
そして世の男子諸君なら分かるだろう。
こんな女の子がいたら、是非罵られたいとっ!
俺は本来の目的を忘れる程、修善寺さんの後ろ姿に見入っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます