ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

第1章 幼馴染姉妹の暴走は止まらないのか

1-1「夫婦なんてそんな……馬鹿じゃないの!?」

「ねぇ――る。いい――起き――。聞こえて――――」

 

「…………」

 

「もう、起きなさい!」

 

「どうわぁ!」

 

 突如背中に強烈な痛みが走る。痛い。というか苦しい。一体誰がこんな真似を……。


 段々とはっきりする視界。目に映るのは机に置かれた自分の筆箱や教科書類。

 あぁ、俺はまた居眠りしていたのか。

 寝惚け眼をこすり大きく欠伸をして顔を見上げると、目の前に立つ一人の少女と視線がぶつかった。

 

「またそんな間抜け面しちゃって……。元々不細工な顔がより際立っちゃってるじゃない」

 

 少女は腕を組み、「ぷんっ」と怒ってしまった。


 はぁ、何だろうこの感覚。自分が情けない。しかもこいつに言われると尚更……。


 理由は簡単だ。まずこの少女の容姿に注目いただきたい。高校二年生という大半が第二次性徴を済ませた年齢にもかかわらず、彼女はまるで小学生のように小柄な体型なのである。おまけに顔立ちも幼い。

 ランドセルを背負ってたら完全に小学生である。彼の名探偵も驚きの幼さっぷりだ。

 また腰元まで大きく垂れたツインテールも彼女の外見年齢を大きく下げている要素となっているだろう。


 そんな幼女と言わざるを得ない同級生から、上から目線で説教を喰らっているのである。

 いささか複雑な感情になるのも理解できるのではないだろうか。


 ちなみに名前は堂庭瑛美どうにわえみという。俺のクラスメイト兼幼馴染みだったりする。

 そして俺は居眠りしていた所を、こいつに叩き起こされたようである。まあ今回ばかりは俺の自業自得でもあったりする訳だが。


 頬を赤らめ、ぷんぷん怒っている堂庭から黒板上の壁掛け時計へ視線を移す。時刻は十一時。さっき見た時は十時だった気がするが……。いやぁまるで未来へタイムスリップした気分だなぁ。


 しかしタイムスリップの副作用なのか知らんが背中が痛い。犯人は分かってるけど。

 

「いってぇなぁ……。ったく、もう少し優しい起こし方とかねぇのかよ」

「はぁ!? あたしだって最初は軽く揺すったわよ。でもちっとも反応しないから……こうしたのよ」

 

 そう言って堂庭は握った拳を前へ突き出した。

 俺はどうやらグーパンチを喰らっていたようである。平手打ちならまだしもグーは痛いよ、グーは。

 

「お前って小柄なくせに力だけは男子並みだよな」

「……もう一発殴られたい?」

「ごめんなさい。失言でした」

 

 堂庭の目が鋭くなる。危うく彼女の怒りの炎を再燃させるところだった。

 しかし堂庭のグーパンチは女子とは思えない力で当たると本当に痛いのだ。

 俺には居眠り癖があり、その度に堂庭に叩き起こされるのだが、多分俺は毎回彼女のパンチを喰らっている。

 「もう瑛美は怒ったぞぉ~。パァーンチ!」といった具合ならご褒美レベルで授業の度に居眠りしたくなるが現実は違う。純粋に痛い。

 まあ嫌なら学校で寝るなよって話なんだけど。それができないから困ってるんだよ!

 

「はぁ……。晴流って本当にどうしようもないわね」

「うっせ。仕方ねぇだろうが」


 口酸っぱく言われる言葉に思わず溜息がこぼれる。

 すると、横から一人のクラスメイトが声を掛けてきた。


「おやおや宮ヶ谷に堂庭ちゃん。また夫婦喧嘩かい?」

「ふ……ふぅっ!?」

 

 平沼海人ひらぬまかいとだ。俺と堂庭の会話によく乱入する奴である。堂庭は平沼の言葉に動揺したのか、裏返った声を上げた。

 

「ば……ば、ば、馬鹿じゃないの!? 夫婦なんてそんな……馬鹿じゃないの!?」

 

 顔を真っ赤にして反論する堂庭。いや、平沼は多分からかっているだけなんだと思うけどな。

 

「はっはっは。本当に二人は仲が良いよな。皆のアイドル、堂庭ちゃんをいつも独り占めしてる宮ヶ谷が羨ましいよ」

 

 平沼はへらへらと笑いながら俺達をからかう。


「俺は別に堂庭を独り占めしてるつもりはないけどな。こいつが勝手に付いてくるだけで……」

「はぁ!? 何言ってんの! 晴流がいっつもだらしないから仕方なく世話してあげているだけじゃない!」

「……世話してくれって頼んだ覚えはないんだが?」

「くぅ……。うっさい! 晴流の馬鹿!」

 

 頬を膨らまして怒りを露にする堂庭。

 というか今の会話で怒る要素あったか?

 かれこれ四年以上の付き合いになるが、こいつの怒りのスイッチは未だにどこにあるか分からない。


「堂庭。お前も平沼の言う事を真に受けすぎだ」

「ちょっと待て。俺の言葉の信頼性はベルリンの壁並に高いんだぜ?」

「それ既に崩壊してるだろ」


 平沼よ……。今のは自虐ネタだったのか?

 イマイチ判断に困るから変な例えを挟まないで頂きたいな。


「まあ平沼はこんな適当な奴だし、素直に相手するのもどうかと思うぞ?」

「……何? あたしが悪いって言うの?」

「いや、そうじゃなくて」


 堂庭をフォローするつもりだったのだが、逆効果だったか?


「ふんっ。晴流なんかまた寝ぼけて側溝に落ちて抜けなくなっちゃえばいいのよ」

「おい! その話は今関係無いだろ。つかそれ幼稚園の時の話だろ? いつまでそのネタ使うつもりなんだよ」

「えぇー? だってあの頃の晴流凄く面白かったんだもん」


 面白かった……って過去形かよ。軽く傷つくぞ、その言葉。


「ネタは他にも色々あるよ。晴流が寝ぼけて弁当箱ひっくり返した事や、あたしの家で遊んでた時に晴流が寝ぼけて柱に頭ぶつけて流血した事や、それに……」

「待て。それ以上はやめろ! 恥ずかしいからもう思い出させないでくれ……」


 楽しそうにべらべらと俺の黒歴史を語り出す堂庭。ったく調子に乗りやがって……。


 てか俺って本当間抜けだな。過去の自分に会えるなら俺はこう言いたい。

 寝ぼけたまま行動するのはやめとけ、と。


「はぁ…………」


 堂庭に過去の醜態を晒されてしまった。だが、ここで後ろを向くほど俺はヘタレでは無い。

 俺にも切り札は……ある!


「堂庭……。お前だって俺に負けない位、巨大なネタがあるじゃないか」

「…………!」

「忘れてたとは言わせねぇぞ。お前はロリ――」

「ィタファッションがどうかしたのかなぁ?」

「ぐはぁ!?」


 腹パンを喰らった。しかも笑顔で。くそ、こいつ鬼かよ!


「うわ、堂庭ちゃん意外と鬼嫁? 宮ヶ谷も尻に敷かれて大変だな」


 オーバーリアクションで怖がる平沼。やめてくれ、これ以上堂庭を煽るんじゃない。


「平沼君? あなたも殴られたいのかな?」

「あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」


 平沼は言いながら駆け足で教室から出て行った。しかし逃げるの速すぎだろ、あいつ。


「あーあ。何か気分悪いんですけどー」


 ほら、機嫌損ねちゃったよ。そして取り残されるのはいつも俺なんだよな。

 このまま放っといてもいいんだけど、また殴られるのは御免だし、いつも通り俺が堂庭やつの機嫌を直すとしますか。

 今日は平沼がからかった言葉を逆手に取って、煽ててみるとしよう。


「皆のアイドル、堂庭ちゃん……かぁ」

「……? 何よ、いきなり」


 ギロリと堂庭に睨まれる。よし、食いついたな。


「平沼って嘘八百喋るやつだけどさ、堂庭って皆に慕われていて人気者ってのは事実じゃん? 何か羨ましいなって思ってさ」

「ふん、何よ今更。そんなのあたしだって分かってるわよ」


 うわウザ……って口にしてはいけない。


「こんな俺にも手を差し伸べてくれるしさ。何年も一緒にいるから言えることだが……。お前って優しいよな」

「……! え、ええ、そうよ。当たり前じゃない」


 堂庭の顔を見ると頬は緩み、まんざらでもない表情を浮かべている。

 あれ、もう落ちたか。もう少し煽てようと思っていたが、まあいいか。

 しかしこいつ……相変わらずちょろいな。


「まあ私に対して感謝しているみたいだし? 今日のところは許してあげる」

「そりゃどうも」


 何やら俺は堂庭に許されたようだ。何か俺が全面的に悪いような流れになっているが、機嫌も直ったし良しとするか。


 一息ついて今の時間を再度確認する。休憩時間ではあるが、次の授業まであまり時間が無い。



「えっと次の授業は……美術か。移動するのだるいな」

 

 教室から美術室までは渡り廊下を通る必要があり、距離も遠いし移動が面倒なのである。

 

「仕方ないでしょ。ってかポスターの課題今日までだけどちゃんとやってきたの?」

「………あ」

 

 ポスター? 課題?

 ……やっべぇ! すっかり忘れてたぁぁぁ!

 

「その顔は……。やっぱり忘れていたのね」

「お察しの通りです……」

 

 堂庭の目が次第に鋭くなっていく。せっかく機嫌が直ったのに俺のせいでまた元通りになってしまいそうだ。

 

「晴流は本当にどうしようもないダメダメなんだから」

 

 堂庭はそう言って俺に罵倒の言葉を放ったが、表情は一変。彼女はなんと笑っていた。

 あれ? 怒ってはいないのか……?


「ほら、もう時間無いよ。早く行こう!」

「お、おう……」


 気付けば教室には俺達二人しかいなかった。 

 堂庭は俺の席から離れ、廊下に向かって歩き出していく。

 その足取りは軽く、まるで遊園地に行く少女のように楽しそうな雰囲気を醸し出していた。

 俺は堂庭の態度に疑問を抱きつつも、手早く支度を済ませ後を追いかけていった。

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