1巻発売記念SS「門番の日常」
気付けば本日「おっさん(3歳)の冒険。」発売日(5/10)ですよ!
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と言う事で本日は3回更新します。
・本編(朝)〇
・外伝(昼)←いまここ!
・本編(夜)←がんばる!明日の朝ぐらいに確認してね♪
書籍化祭りじゃ~!
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俺の名前はグルンバルド、領都グルンド西門に配属された兵士だ。
グルンドの兵士一家に生まれ、幼い頃より武術を嗜み、十五で学業を終わらせ、十二の頃から訓練にお邪魔させてもらっていた兵士として就職した。
幼少期から厳しい訓練を受けていたからか、学校では負け知らずだった。領都内での武術大会でも学生の部では負け知らずだった。だが驕ることはなかった。それは俺が大人の世界を知っていたからだ。大人になり経験を重ねるとレベル上昇する。レベルが上昇すると基礎、基本の大切さが身に染みる。それは俺が親父に連れられて観に行った大人の部を見ると判る。同レベルでの戦いで見せつけられる。身体機能が向上した者同士で重要になるのはこれまでの積み重ね、要は基礎だ。
大人の部の圧倒的な暴力と同時に行使される緻密な技術。基礎を無視してレベルを上げた時、身体能力向上が旨く伝達しない。一見強い振りでも、力に振り回され威力が伝わらない野であれば、敵がそれを見逃すことはない。大人の部を見るたびに振るえた事を記憶している。
そして今、新人研修を終え、俺は配置についている。
出来れば特殊部隊が良かったのだが、それは高度教育を受けた奴か魔法文字を持った奴しかなれない。悔しくはない。この西門、特殊事情があり十分に上を狙えるのだから。
西門はアルノー家が営む料理屋とルカス様が管理される農地に挟まれている。そして農地の先には知性あるドラゴン達の国、竜国が存在する。
俺たちは、ルカス様、ルース様も、竜国から流れてくる知性を失った野良ドラゴンに対する任務も受けている。ある意味特殊部隊である。その為の特殊兵装も存在し定期的に行う。
俺がグルンド西門の配置になり二年が過ぎた。
門を守る業務→案山子軍と共同した周辺モンスター駆除訓練→対竜武装訓練。これが1月の間に繰り返される。休日はレベル神殿に向かい、身体能力向上を受けた後死んだように眠る。そして翌日仕事に向かう。早く高レベルになりたい……。
そんな日常の中、ドラゴン狩りの英雄ルース・アルノ―様の家に三男がお生まれになったと噂になる。まだまだ未熟者の俺にとって街の子供たちとの交流は楽しみの一つだ。
守られる側から守る側に回れたと言う誇りも感じる。
さらに二年が経った。
今日は門番をしているとルカス様に抱っこされたマイルズ様が現れた。
俺が笑顔で挨拶するとルカス様の懐に潜り込む様にグッと縮みこむ。可愛らしい。
その後三回目で『まいるちゅ、2しゃい!』と挨拶してくれた。門番一同ほっこりする。
マイルズ様は三歳に近づくに連れ、色々と興味津々の様子で活動的になる。最初の人見知りはどこに行ったのか、興味津々で手を伸ばし始め、危険だと宥められる。とても可愛らしく、そして同時に成長も感じられる。いつしかマイルズ様は我ら西門のアイドルになっていた。
出来ればマイルズ様には末永くルカス様の農場へ通ってほしいものだ。
ルース様の他のお子様方は寂しいことに西門へ近寄らなくなってしまっている。
マイルズ様同様に幼いころルカス様に抱かれて西門へ来ていた次男のバン様は、4歳のころからリーリア様とミホ様の影響で魔法に興味を持ち、もっぱら領都中央方面の研究所に通われているそうだ。長男であるザンバ様は5歳の頃より領都騎士団に顔を出しているらしく俺は一度もお会いしたことがない。噂話と騎士団からの通達で最近、『レベルを上げたい』と我儘を言われている様だ。活発な様で何よりだ。長子であるミリアム様は既にハンターとして登録されており、結構なレベルと聞いている。俺も一度お会いしたことがあるが小さいのに纏う空気は歴戦の猛者を思わせる迫力があった。流石英雄の一族。
さて我らがアイドル。マイルズ様が3歳になった。
最近ルカス様の前で『マイルズ様』呼びをすると即座に『マイルズ君』と呼ぶようにと訂正される。特別扱いは厳禁だそうだ……。
そのマイルズ様改め、マイルズ君は3歳の誕生日の日、ルカス様の農園で倒れた。
ものすごい勢いでマイルズ君を抱えたルカス様が門を通過していくのを見送った後、門兵一同動揺が走る。
後を追ってきた農園の従業員から『マイルズ君が倒れた』と聞かされた。
門番一同に動揺が走る。
三日と開けずルカス様に連れられて門を通っていたマイルズ君が一週二週間と経つがマイルズ君は来ない。このまま他のお子様土曜に来なくなってしますのではないか……。
無事。とは聞いて安心した反面、心配が浮かぶ。西門兵士の間でマイルズ君の話題が多くなっていった。
三週経つと喜色満面のルカス様に抱かれたマイルズ君が登場する。
可愛らしいお顔は変わらずだが、何かが違った。油断してはいけない。そう思わせる何かを感じる……。
次に会った時には案山子に肩車され登場した。
……。どや顔はやめましょうね。マイルズ君。
その後ほぼ毎日マイルズ君が現れる。
「今日はどうされましたか?」
「今日は食糧輸送ミッションなのです!」
あの恥ずかしがり屋で引っ込み思案のマイルズ様はどこへ行ったのか……。まぁこのマイルズ君はマイルズ君で可愛いからよいか。
西門一同同意見の様だ。
それより気になるのは日に日に人間に近づいていくマイルズ君専用の案山子だ。
「権三郎と言う名を頂戴いたしました。今後ともマスター{マイルズ様)共々宜しくお願い致します」
そう言って頭を下げるマイルズ君専用案山子。
驚きが隠せない。数日後領都全兵士に『ルカス様のマイルズ様専用案山子に関しての注意事項』という文書が配布された。
……ルカス様は過剰にマイルズ様を可愛がっておられたので過保護が行き過ぎたようだ。気持ちわからないでもないが、やりすぎな気もする。
あとマイルズ君の呼び方が『奇天烈幼児』マイルズ君に変化しました。ルカス様がお創りになった権三郎殿……に自信満々で乗るマイルズ君が原因であります。
『マイルズ君が倒れる事件』、一部から『恥ずかしがり屋のマイルズ様を返して事件』と呼ばれる事件から1月が経った。獣王様とルカス様の交流が行われる日。権三郎殿がモンスター駆除訓練に加わった。
案山子の戦闘力はレベル八十~百相当と言われているが、権三郎殿はそのレベルではなかった……。しかも一振り一振り確認するように、それまでの案山子と違い、まるで我々の様に経験し、修正、学習しながら剣を降り続ける。味方ながら背筋が寒くなる感覚に襲われる。
その後、当初より予定されていたことだが二週間毎に獣王陛下が街に滞在されることで、街は警備体制が厳しくなる。それに供い不審者が紛れ込まないように退職した先輩たちが動員される。
高レベルで衰えを知らぬ体力、経験に裏打ちされた技術、後進に道を譲るという形で隠居を選んだ方々に訓練で圧倒される。心が折れそうだ。
「……」
「「……」」
「♪」
その日ミリアム様に手を引かれマイルズ君が現れた。目が死んでいた。
「判ります♪ まーちゃん可愛いですよね~」
マイルズ君は女装されていた。いつも覇気を纏っているミリアム様でが、現在は弟にデレデレな年相応のお姉ちゃんと言った様子だ。
「……(姉を止めてください)」
「「……(すみません無理です)」」
「……(ふふふ。知ってました。ふふふ)」
去り行くミリアム様とマイルズ君を見送りながら、先輩達との技量差【程度】で心が折れていてはいけないと深く思うのであった。
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