第129.1話「侵略戦争」

大変長らくお待たせしました。

週に1回更新とゆっくりペースにはなりますがようやく再開できそうです。

ということで2年近く放置してしまったので、話の概略を前書きに記載いたします。

「そんなのいらねぇ!」という方は飛ばしていただいて問題ございません。(^^)


▼▼▼はじめ▼▼▼

これまでのダイジェスト(128話で細かくやってますが…)

~主人公、のこれまで~

・エリートサラリーマンは失意のどん底から復活しかけたところで異世界の幼児(3歳)になってしまう(本人は死亡していない、意識不明)。

・見よう見まねでゴーレムを作る、最凶信奉者「権三郎誕生

・現状打破を検討する中で、異世界転生してきた親友が死亡。幼児は無力感に苛まれる。

・変態王子に溺愛される

・何の手掛かりもつかねむまま幼児は他国へ留学(避難)に向かう。

・幼児が居ない故郷を襲う異世界宗教。無事撃退するも異世界宗教幹部に存在をかぎ取られる。

・留学先で幼児が作った特殊ゴーレムに幼児の精神が宿る(分体『勝さん1号』)

・勝さん1号、甥っ子を発見する。

・幼児、甥っ子をTSする。

・うっかり拉致され教国へ(体が目的♪)

・幼児の家族、激怒する(被害者魔王陛下(笑))

・教国の内乱、幼児逃げ出す

・幼児、レベル神となっていた後輩君(神宮寺)をお供に教国のダンジョンを攻略する

・幼児の姉、勝さん1号の陰謀でアイドルデビューする

・幼児、大国獣人国の王女と婚約す(獣王の過保護。各権力者への威圧)

・うっかり高位神を呼び出してしまう

・神樹と獣神に遭遇する

・幼児、獣王様と一緒にドロップアイテムを拾いに行った先で拉致される

・幼児、悪質な洗脳と無敵のゴーレム軍団を駆使し、主神である光の神を失い自暴自棄の果て世界の混乱を画策していた亜神軍団とその口車に乗った国々(南西国家群)を蹂躙する(食料探索)

・変態王子を南西国家群に残し、実家に帰る

・幼児、何故か大魔王陛下の要請により聖王国(死の国)へ農業指導へ向かう


❖7章の背景

・200年前聖王国(死の国)は異世界宗教と聖王の弟による革命が実行される

・革命は失敗するが聖王は封印という長き眠りに落ち、王妃と側近は『動く死人』となる

・聖王の決死の一撃は封印を司る大いなるものを討滅する

・聖王は最後に「光」に救いを求める

・200年、聖王国は『動く死人』に導かれ豊かで平和な国家となっていた…が、『動く死人』に頼る現状に危機感を訴える勢力と異世界宗教が…。


❖7章の主人公の行動

・姉にひんやりグッズを奪われ、ふて寝

・魔王国で「食の聖女」とあがめられる(まーちゃ閻魔帳に追記)

・魔王から依頼、護衛として次期魔王候補の2名ヴァンリアンス、ティリスが同行することに

・幼児、非常時のご馳走をゲットする(お人よし竜人考古学者デス・ガルドをお供に加える)

・異世界宗教に食い漁られたユルグラシア王国、国境近くで王子様を拾う

・幼児、神々が実施している神体強化システム「レベル」とは別強化システム「まーちゃんレベル」を構築。権三郎、超越した力を披露

・ヴァンリアンスさんは封印術師

・幼児、魔王工区東部不安定地域問題解決の出汁に使われる

・ヴァンリアンスさんと東部貴族、特殊任務『ユルグラシア王国をテロリストから奪い返せ!』を拝領

・死の国入国、早速国境近辺のダンジョンと遺跡を荒らす

・幼児、反政府組織に拉致される(宰相の策発動)

・異世界宗教が秘密裏に進めていた遺跡再起動計画に、踏破され強制帰還となったダンジョンマスターの力がそそがれる

・竜人学者マイルズと共に北西大規模遺跡群に移送される

・計画が順調でイキってる異世界宗教が反政府組織に合流

・『地球帰還計画』=『異世界人ホイホイ』であることが発覚

・マイルズ遺跡に到着!


❖とある2重スパイ村井浩二(中年太りかつ前髪戦線後退気味)

・死の国の北西大規模遺跡群で『過去異世界人と魔法共生を成功させていた時代の遺跡』発掘作業に従事

・異世界宗教の残存勢力が企みに加担しているが、その実情報を『動く死人』に提供している

・幼児が入国することで飛騨根田が燃え上がる旨『動く死人』から連絡されている

・報告。西部『マイルズの隔離成功』南西部『ディールケ共和国難民暴発の兆し』北緯部『竜人学者待ち』南東部『北ホープス王国軍が国境線に布陣』なお、暗躍しているのは異世界宗教『教主派、ギルシュ派、希望派』

・元魔法使いのムライ君、異世界宗教の計画。『地球帰還計画』を知る。

・ムライ君。依頼主の連絡待ち(裏切者扱い)

・異世界宗教幹部人食いの『ドゥガ』参戦。ムライは知らぬ顔をするが米国内部の抗争で因縁がありドゥガにマークされる。


❖南方諸国の変態王子

・南方諸国をまとめ南方遺跡群を起動し、徐々に北へ移動中

・昔の伝手をフル活用して各国の悪代官征伐しながら北上中。マイルズから『北西大規模遺跡群で一網打尽!』と連絡を受ける


❖死の国首脳部

・南西部『ディールケ共和国難民に扮した兵が侵攻開始』の報を受け、王女キアナ率いる5000の軍勢が南下

・聖王の間を守護する最強の『動く死人』である氷の女王を含め、『動く死人』の面々が行方不明


▲▲▲おわり▲▲▲

=以下本文======================

~時間はマイルズが遺跡に到着する2週間ほど前まで遡る~


「姫!」

 謁見場より退出した姫将軍こと王妹キアナ・フレク女公爵に、熊の様な大男こと南方方面軍を統括する将軍グルカーセム・アーランドが慌てたような様子で駆けてくる。宮殿で不敬と取られても仕方のない行為だが、先程から熊の様に落ち着かない様子で御前会議の結果を待っていた様子を見ていた周囲の者どものも将軍の様子から事態を察知し口をつぐんでいた。


「……姫はやめろグルカーセム」

 緊張感から解き放たれ一息つきたかった姫将軍キアナ女公爵は、会議の疲れと部下の様子に深いため息とともに待ちわびていたであろう結果を伝える。


「出陣許可は得た」

「して! 増援は……」

 掴みかからんばかりの勢いのグルカーセム将軍の目を、キアナ女公爵は困った子供を見るようにじっと見つめる。


「……やはり」

「うむ。我が手勢と事前に従軍要請に応じてくれたアルマイル伯爵のみだ」

「伯爵の魔法部隊ですか、魔法学院を持つかのお方の軍勢であれば心強い……」

 グルカーセム将軍は言葉とは裏腹、段々と声のトーンが下がっていく。

 キアナ女公爵は政治工作が苦手なこの男らしい、と苦笑いを浮かべる。

 グルカーセム将軍は未だ30後半、今後昇進し国防の中枢を担う3名の大将軍を担う事を望むのであれば覚えなければならないことは山ほどあるようだ。特にこのような他者の眼のある所でこのような反応は……。


「グルカーセム、予定よりは多勢である」

「……然り、然り、されど……」

 南方より侵略の兆候があるディールケ共和国革命軍は現状で5万。扇動した市民兵ばかりとはいえ対する南方方面軍は1万である。そこにキアナ女公爵が先行させ、既に南方方面軍に合流している2千。更には途中でアルマイル伯爵が千。ディールケ共和国革命軍はかの国全土より集結してきている。


 グルカーセム将軍とキアナ女公爵が送り込んだ草(諜報員)の情報によると異世界宗教の呪いにより多くの貴族たちは正気を失い。集められた兵たちも逃げれば後ろから魔法を放たれ、捕まれば拷問の上処刑される恐怖で統率されているらしい。


 つまりは、南方方面軍の前には狂気に支配され、前に進むこと以外許されない死兵たちが10万を超える数が集結しようとしていた。

 それは如何に精強な職業軍人を揃える死の国の軍とはいえ油断できぬ軍勢である。質の面で数の差を凶器で埋められ、膨大な数の差では対応しきれない。

 どれほど味方が倒れようとも敵陣を打ち破り生をもぎ取ろうとする者どもに、魔法が強力な兵器とはいえ数に制限があり、騎士たちがいかに強力な個でも、集団でも、どれほど強かろうが、そのような死兵を相手どれるのは限度がある。

 死の国は南方国防に1万人ほどつぎ込んでいる。これほどの職業軍人を雇えるのは、政治家たちの努力のたまものである。だが、現在の南方方面の状況はその準備を大きく超える状況にあった。


「グルカーセム、我ら軍人は危機にこそ、武を振るい、知を振るい、立ち向かわねばならん。悲嘆するのは戦後だ。それまで下を向き、弱音を吐く暇があるのであれば……」

「……ですな。将たる我らが対策も立てず悲嘆に暮れているようでは勝てる戦も勝てますまい。姫、お恥ずかしいところをお見せしました。申し訳ございません」

 キアナ女公爵は膝を折り謝罪するグルカーセム将軍を立たせると年相応の柔らかな笑顔を浮かべる。

 キアナ女公爵。父王を16歳で亡くし、兄の剣となることを選択した女。

 12歳で魔法学園を優秀な成績で卒業した彼女は目標もないまま『偉大なる方々』の元、戦術と内政を学んでいた。そんな矢先に父王が儚くなった。そして彼女は気付いてしまった。兄の、王家の、不安定な立場に……。

 知れば知るほど死の国は『偉大なる先達の方々』に依存していたのだ。

 それは『偉大なる先達の方々』の下で学ぶ自らも同じだった。


 万が一『偉大なる先達の方々』がいなくなったら?


 死の国の官僚あれば誰もが一度は考える。

 しかし方々の存在が大きすぎ考えることを止める課題である。

 それはさながら『太陽がなくなることを考慮する農民』の様に『あって当然の基礎』失うことを考慮するとような課題であった。

 彼女はその課題から目を離すことなく、有志を集め、検討を重ねた結果、改めて愕然とした。

 その後彼女は『偉大なる先達の方々』に名実ともに近付くため、自らの優秀さを個人と、有力者として力を公の場で示す為、降嫁ではなく王家の分家、つまり公爵家を起こすことを国に認めさせた。

 妹に甘い兄王の支援があったことも確かであるが彼女の努力が結実した結果であった。

 そしてキアナ・フレク女公爵を叙爵される式典の場で自慢の髪をバッサリと切り落として宣言した。


『我は! 我がフレク公爵家は! 国の剣! 王家の剣! 兄の剣! 国民の剣!』

 腕を掲げ強い意志を宿した眼差しで高らかに宣言するその姿は、家格のみでエリートコースを歩き、目標を見失っていたグルカーセム将軍に胸を打った。

 グルカーセムには身を犠牲にしてまで貫きたい志などない。

 只々親の基盤を継ぎ権力バランスゲームに参加し、自家の勢力を強くする。そのために生まれ、その為に死んでいく、もう既にそれ運命を受け入れていた。


 だがグルカーセム将軍の前に現れた少女は違った。

 王家として権力の渦中にあり、グルカーセム将軍が巻き込まれた政争などより厄介な、強く権力に取りつかれた亡者者達、狡猾な政治家、官僚の口車に乗せられ、容易に人形にされかねない。そんな生まれにあった。その中で目の前の彼女は『己の現実は己の者であり、己で決断し、己の道を、己の将来を思い描いている。そして国で2番目に高い位置をせしめた!』と国全体に宣言したのだ。グルカーセム将軍の半分程度しか生きていないはずの少女が、だ。

 グルカーセム将軍は貴族としての優等生の仮面を捨て、場を憚らず本音を漏らしていた。『なんと羨ましいことか』と。

 グルカーセム将軍のそのつぶやきは神聖なる式の静けさと相まって、波が伝播するように周辺貴族に漏れ伝わる。

 そのつぶやきは、波一つ立たない湖面に一石を投じるがごとく、平和平穏のなかで統治システムとして己を殺していた貴族たちの間を共感をもって津伝播しついには公爵位を受爵したばかりの姫にも伝わる。

 後日グルカーセム将軍は姫に呼び出される。そこでグルカーセム将軍は見た。姫の笑顔を。確実にグルカーセム将軍へと向けられた笑顔を。


 静寂の式典後に混乱を生み出したような呟きなど意にも解さぬとばかりに豪放な、それでいてすべてを許す様な、王者の笑みである。

 横に並ぶ国王陛下の威圧すら忘れ、グルカーセム将軍もその笑みに囚われる。

 少女の柔らかさが残った幼い笑みではあるが、それだけではない。

 人を惹きつけてやまない支配者の強い瞳と、媚びなどない表情、それらは明らかに王者の空気をまとった支配者であった。


 女性公爵を疑問視していた貴族たちも、次第に将軍同様に同様に息を飲むことになる。

 恐怖に震えながら呼び出しに応じていたグルカーセム将軍は、我に返ると失言をもらしてしまったは想像以上の反応に自省し、体を小さくした。


 グルカーセム将軍は歴代中央の軍務を任される家系に長男として誕生した。

 彼の家は東方に大きな所領を任されており、東方領主たちの代表として自然と取りまとめる系譜になっていた。

 中央と東方に関わる軍を預かる将軍家系とはいえ、平穏なこの時代では一政治家である。事務方との違いなどそれぞれの専門が何か、専門についての学習をどの程度しているか、程度の違いしかない。

 当然将軍は軍を司る役回りなので、各国軍部の情報整理や、戦力分析、戦略構築に将として最低限の肉体、戦闘に備えての技術を学習し突き詰めなければならない立場にはあるが、基本政治の世界にいた。


 脳筋で将軍など勤まらない。

 だがひょろひょろで武芸に通じていない将の元に兵は集まらない。

 だから最低限の能力を有している。それだけの違いだった。

 それまでグルカーセム将軍は『偉大なる先達の方々』が安定した治世を続けるこの国に生まれ、政を主戦場とする己の生き方に『疑問』など抱いていなかった。

 否、『疑問』を抱けばそれすなわち隙を突かれる。過剰な政争は外国勢力のつけ入る余裕を与えてしまう。それを強く理解しながら育ってきた。


 『隙を与える愚』とは死の国において、過去『聖王の王弟』が起こした愚挙を最大の訓令として受け継れていた。


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