第115話「それコスプレですよね?知ってますよ?」

~とあるドラゴンバスターの食卓にて~


「ぷりーん!」

「ぷりん!」

「ぷりん!!」

 スプーンを握りしめた3姉弟が食卓で待ち構える。

 はじめは掛け声、やがて歌に変わる。

 長女ミリアム(10)。

 王都で騎士団を目指している。無理と言われるとやりたくなるお転婆。高位の魔法名を持ち、将来を嘱望されている。王侯貴族の間で本人たちが知らぬところで争奪戦が繰り広げられている。皆さん、陰に隠れて情報収集する案山子(勝さん1号作)にお気をつけて。

 長男ザンバ(9)。

 料理人志望。マイルズに「ザンバ飯……略して残念飯!」と言われている。感覚派である。最近王都に住んでいる年上の親戚と文通でお互い高め合っている。最近その親戚が農業研修で街に滞在しており餅べーっしょん向上中。尚、両名とも料理人に向いていない。

 次男バン(6)。

 「アルノ―家の良心」。ホワホワしているのでマスコットキャラ扱い。意外と我が強いが、他人を配慮……上二人を見、下にマイルズができたことで配慮を意識が強く出始めた子供。王女キアノ(6)と本家である魔導公爵令嬢アリス(5)に好かれている。精霊王の加護を持つ特殊体質。体の成長に合わせて初代魔導公爵と同じ【精霊眼】が発動する予定。

 叔母アリリィ(22)。

 「暗黒魔法」以外「全魔法適性」を示す文字「ザ」を持つ女。次期賢者と呼ばれているが、火力一点豪華主義的思考から脱却できず攻撃魔法過多。「私より強い男に会いに行く!」と公言して大陸を荒らしている。最近、「まーちゃん杖」なる最終兵器を手にし、脅威度を跳ね上げた存在。南にバカンス予定だったが、プリンのうわさを獣王都で聞きつけ、現在ここアルノー家の食卓にいる。


「ああ~、あなたのその黄色いすがたがまちどしい~♪」

「「「すきすき、ぷり~~~ん♪」」」

 歌う3姉弟+叔母。叔母の歌唱クオリティーが高いのは旅先で学んだ技術である。

 作られるのは昔懐かしの固めのプリンである。

 だがこの世界の人間には柔らかい食感と、贅沢に砂糖を使用しているので高級品。父親であるドラゴンバスターが作ることを渋るほど、家族にとって憧れの食品となっていた。

 尚、先日ドラゴンバスター(以下父親)がこっそり試作品を食べているのを発見され、子供たちがおねだりを始めた。

 父親は子供に食べさせるには高価すぎると考えていた。

 最高位の貴族出身父親だが、親の教育もあって貴族的な考え方が大嫌いだった。

 なので高級品を子供たちにポンポンと与えるのはどうだろうかと考えていた。

 そんな折、妻が『安く作れないか素材から研究するわ』と言ってレシピを持っていく。その姿を見て3姉弟はおねだりを加速させていった。

 語尾にそっと『プリン』を追加し、すり込もうとする子供たちに父親は『少しならいいか……』と折れかかった。そんな時だった。どこから現れたのか父親の妹が大量の砂糖を手に現れおねだりの列に加わる。そして現在に至る。

 蒸し器の前で蒸しあがったプリンを冷蔵庫に入れ、温度を下げる。

 代わりに2回前に作ったプリンを5つ取り出す。

 同時に白いお皿を並べ、一対のお皿と円形の容器に入ったプリン。

 プリン容器にお皿を載せてゆっくりひっくり返し、父親はゆっくりとプリン容器を持ち上げると、カポッっと何かが外れる音がして容器から黒い汁が流れ出す。カラメルソースである。カラメルがこぼれないように別容器に移すと父親はプリン容器を完全にお皿から話すと、プルンとプリンが現れた。表層は茶色、その下は見事なまでの金色である。


「「「「「ぷりーーーーーん!」」」」」

 食卓から華やかな声が響く。

 父親は苦笑いである。その後手早く残り4つもお皿内開けると待ちきれない子供たちが厨房に列をなしていた。


「リィと母親ミホはなぜ並んでいるのかな?」

「あなた、愛しているわ♪」

 視線はプリンに釘付けである。


「お兄ちゃんは、リィのことが嫌い?」

 22歳は十二分に大人だと思う父親だったが、年の離れた妹は可愛かった。

 それこそ国の1つ2つ程度であれば喧嘩を売ってもいいほどに。

 ため息をついて2人にもプリンを手渡す。

 2人はプリン片手に仲の良い姉妹の様に食卓へ向かう。

 食卓ではすでに長女が主体となりプリン賛歌が歌われている。

 『娘は嫁にやらん。絶対だ』父親は長女を見て決意を新たにした。

 『歌も天才的だな!』いいところまで歌ったらみんなで席についてプリンを愛おしそうに口に含み、身もだえる。そんな3姉弟を父親はほほえましく見守る。


「……わしの分は?」

「……私は親孝行な息子をもてて嬉しいわ」

 食卓の先で笑顔の両親がいた。

 孫たちをほほえましく眺めながらも彼らは父親に厳しい目線で問いかける。

 ……性質が悪い。

 父親はそっと二皿プリンを開けると、両手に持ってスポンサーである二人に提供する。

 子供たちのいる平和な食卓に、父親は満足げに息を吐く。


「そういえば、ミリ。来週マイルズの依頼で獣王都に向かうのであろう。準備はできておるのか?」

 バン君にプリンを「あーん」しながら語る、元魔導公爵。


「え?」

「あの犬が無礼をしたらいいなさい。ちゃんと躾をします」

 プリンの大半を残しつつお茶を口にする賢者。ゆっくりと味わうのが彼女のスタイルである。


「……聞いてないよ!」

「ああ!」

 長女の言葉に反応したの母親だった。


「ごめん。言い忘れてた♪」

 テヘペロである。4人の母親が、テヘペロである。

 父親だけが『うちの嫁最高にかわいい!』と熱烈に妻を抱きしめるが、その他大勢は冷たい反応だった。

 そう1週間ほど前、これはアルノー家の食卓での出来事でした。

 

~~1週間後~~

 獣王都、王宮内部にて。


「マイルズが戻ってこない!!」

「ミリ様! その表情ではありません! もっとかわいく!」

「あ、その瞬間にピンクの衣装に換装してください! 1回転して笑顔! そして変身!! キャーーーー、最高にかわいい!! 聖女様のお姉さん、かわいい!!」

 王妃を筆頭に色々と要求される長女。

 長女のヘイトは徐々に3男(マイルズ)へ溜まっていく。

 今のところ、人権破壊兵器&女装までは確定している。

 さて、恐怖の大魔王(姉)を呼んだことを忘れたマイルズはというと……。


「王都が落ちましたか。僥倖、僥倖」

「おお、神よ。可愛いです。なでなでしてあげます」

 戦国武将モードで大天使を喜ばせていた。

 半日後虫の知らせで姉のことに気付いて絶望するマイルズがいた。


 

カクヨム+α

「あー、食材調査にかまけてミリ姉の存在を忘れていました!」

「いとし子よ、私がいる」

「変態王子!」

 まさかの援軍です! 今は藁にもすがる思いです。


「いざとなれば、私が篭絡してやろう!」

「……ほう」

 ミリ姉に手を出すと?

 宣戦布告ですね。

 ミリ姉を嫁にほしくば、私を倒してからにするのです!


「何を勘違いしている。私の心は常にいとし子とともにある」

「つまり、ミリ姉を都合のいい女扱いにすると?」

 屋上来いよ。久しぶりに切れちまったよ。


「…………」

「…………」

 ふふふふふ、衛星軌道上に配備した決戦兵器。今こそ使い時ですかね…………。ふふふふ。


「orz」

 変態王子のキレイな土下座を見下ろしながら私は考えるのでした。



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