第113話「南部戦線異常……ないですよ。計画通り(ニヤリ)」
「さて、これは困ったのう」
南方諸国連合の首脳会議の場にでンニル王国女王アニータは呟く。
「ふん。奴等、我らに恐れをなし、進軍を止めた張子の虎。今こそ討って出るべきであろう! ……この軟弱者どもが!」
最近クーデターに成功し、将軍から新参の王に成り代わった無粋者、神聖ラダー王国国王バルバロスが叫ぶ。
その発言で会議に出ている12カ国の代表のうち、数名が薄ら笑いを浮かべ、バルバロス王は激しい怒りを覚える。
だが、無礼にも薄ら笑いを浮かべているその者達も、その国では首脳陣である。
【信用のない簒奪者】と嘲られても、自国で開く会議の様に罵声を浴びせるわけにはいかない。強権で有名なバルバロス王でも、その程度の自制は効くのだ。
周囲をにらみつけ、荒々しくバルバロス王が座る。
すると場は静かな緊張感に包まれた。
この場にいる12カ国の首脳たちは、大きく3派閥に分かれて居た。
所謂「主戦派」と「講和派」と「中立」である。
それぞれに国情がある。
本来であれば、首脳たちが国を開けるのは愚行である。
だがしかし、今回は話が別である。
信仰を捧げる先である下級神や大天使など、そうそうたる方々に『獣王国にひと泡ふかせる機会』と神命をもって参集させられたのだ。
王や代表者が従わないわけにはいかない。
亜神たちの狙いは王たちと戸惑い、それに乗じた地上の混乱であった。
混乱の中、亜神たちの主神を、欠片でも見つけたい。
それが地上に干渉を【しずらい】、高位の神々にやがて処罰されるとしても、信仰する地上の物たちが混乱の元大勢死のうとも、寧ろ死があふれ危機的な状況でこそ主神は輝き、見つけられる、と信じていた。
しかし亜神たちの混乱計画は、探すべき主神によってとん挫した。喜ばしい事である。しかし切欠として招集された人間側には混乱が現れていた。
12カ国中4カ国、王を含めた主戦力が国を離れたせいで、国元では反乱軍が跋扈しており戻るも進むも難しい状況になっていた。
それは女王のグンニル王国と、大統領の共和国と、バルバロス王の神聖国、そして主戦場となっているこのジキル王国だ。
「落ち着かれよ」
ジキル王国の王、聖人君子と噂名高い王クルララルが静かに、しかし響く声で言う。
かの名君ならば、と各国首脳陣は口を紡ぎ彼の次の発言をまった。
大統領と女王以外は。
「あなたが一番落ち着かれたほうが良いのではないか? 公爵の軍に各地で蹴散らされているのでしたな……。お可哀そうに」
女王アニータは口調とは裏腹、表情は笑いを堪えるのに必死だ。
「おやおや、これはこれは、同じ境遇の姫はお厳しいことを仰る」
クルララル王は涼やかな笑顔で返す。
笑顔でいられる状況ではない。王国軍は既に、意気揚々と『公爵が溜め込んだ財を奪い、国庫を潤しましょうぞ!』と進軍した王太子が初戦で大敗。命からがら逃げた先で民衆に取り囲まれた。そう、公爵領の領民に。
さて、皆さん。ここで問題。
中世戦場で、大切な大切な家族を殺した罪人が弱っています。どうするでしょう?
正解:生かさず殺さず苦痛を与え続ける。
さて現場の村人Aさんにインタビューしてみましょう。
「悪かった、謝る。許してく…………」
「……………………………。ねぇ、何か言った?」
村人A。近衛軍の討伐演習で村を滅ぼされ、その場で陵辱された上、国外に奴隷として売られた所を公爵の一派に保護される。
しかし奴隷となるその過程で幼かった弟が衰弱死している。
そして村人Aは、当時10歳に満たなかった王太子が、馬車から戦場跡を興奮気味に見ていたのを目撃している。
尚、彼女の村は今別の村人が入植している。
彼らは生きる場所を与えてくれた国王一家に感謝を捧げている。
たまに発見される人骨はこっそりと埋葬されている……。
はい、怖いですねー。回復魔法なんてものがある上に、精神的な死に対しても回復薬があるのです。そう魔法力回復薬……。王太子は16歳。この国の成人年齢は13歳。国際法のない世界。国王一家への恨み骨髄の領民たちを前……。……無事を祈ろう。祈るのは無料だ。
「くくく」
「何か楽しい事でも?」
女王アニータの冷ややかな笑いに、笑顔を崩さずクルララル王は問う。
「いやなに。私も弟に裏切られ、この場にわずかに従ってくれている兵と共にあるだけ。先日まで王などとふんぞり返っていたのに、何とも物悲しいものだと自嘲してしまいましてな」
「そうですか。しかし、どんな状況化にも希望はあります。この場に貴方に付き従ってくれている三千の兵がまさにそれでしょうな」
一見和やかに笑いあう二人。
しかし、この場には一か国平均1万の兵が集結している。
その中で女王アニータは兵の準備が遅れていると、精鋭三千と周辺国家に比べて少ない数で参戦している。対して王国軍は主戦場となる為か最多、二万の軍勢で参加している。数だけであるが……。
さてここで、前話にて権三郎が持ってきた言葉を振り返ってみよう。
『マイルズ様へ頭を垂れ、許しを請えば責任者のみ処分するだけで許す。2日与える。国民すべてと心中するか。責任を取るか選ぶがいい』
である。
当然ながら、指導者たちも死にたくない。
自分たちだけ生きる為に国民を盾にする者もいるだろう。
だが、悲しいかな、彼らにはその選択肢はない。
それは、権三郎が使者として現れる前に行われたまーちゃん軍団の試射で…………山が消えている。
その【一撃】を放ったのは先日まで空冷を行っていた十体いる巨大案山子の内のたったの一体である。
逃げる? 行軍を開始したところで簡単に消されてしまう。
仮にも国の中枢にいる者達だ、その程度分からないわけない。
そこで彼らは権三郎の言葉を噛み締める。
二日。二日で国に関わる大きな決定など下せるわけもない。
ではなぜ、あの使者は二日と言ったのだろうか?
死の宣告だろうか?
態々一瞬で消し炭にできる者達?
誰がどう見ても、まーちゃん軍団とこの場で相対してしまった場合、連合軍が1人として生き残る確率は零に等しかった。軍事の専門家でなくともその程度理解できた。
なれば、こういった意味だろう。
『二日の猶予を与える。マイルズ様に頭を垂れ、責任を(交渉と言う形で)取れ』
この正解に気付いて動き出したのは六か国。
気付かなかった国は……無かった。
動き出さなかったのこり六か国、その内五か国は、余裕の笑みを浮かべている女王アニータの国、グンニル王国に攻め込まれている。戦況は一方的だ……。
グンニル王国は南方小国連合の中でも大国ではある。
しかし、常々北部の【帝国の亡霊たち】に困らされていた。
だが、ここ数年何故か、国を荒らしていた【帝国の亡霊たち】たちが消さり『アリリィ様万歳』と朧げな瞳で呟く開拓民が増えた。そして国情が安定の兆しを見てきていた。またそのような状況下で荒れていたグンニル王国北部の元帝国に、新たな王が立ち、その王とグンニル王国は和平を結ぶことに成功させている。
治安維持の協力から、食糧輸出、疲弊した元帝国の安定はグンニル王国に商機と常時掛かっていた北部軍の強大な費用の開放をもたらした。
元帝国としてもありがたい話であった。
1年前、長い年月自国を中心に跋扈していた【帝国の亡霊たち】とその背後にいた反乱軍を、とある見習い賢者によって一掃され政治的な安定を見た。
その結果残されたのは、内戦によって目を覆うばかりの惨状となってしまった……かつて中央一の肥沃な大地と称された国土のみだった。
故に、グンニル王国の提案は非常にありがたい提案でった。
グンニル王国は元帝国の条約にこぎつけると、信じられない速度で北部防衛戦力を南下させた。
ここで一つ常識事項だが、中世世界で常備軍を持っている国はない。
費用の問題である。
2万の常備軍のであれば、中枢2千が訓練を受けた騎士や兵士。
残りは傭兵に口減らしとして参戦している兵士だ。
へっぴり腰で槍を構える彼らは戦場で突撃して死ぬか、逃げて近くの村を襲うかどちらかである。
現在、このまーちゃん軍団と相対している連合軍の軍勢は、職業軍事の割合が多かった。
それは何を意味しているかと言えば……彼らは神という御旗に惑わされ、戦功を立て覚え愛でたくなりたい一心で、【本国は平和である】と【方々の助力に反対する者その者神への冒涜である】と布告し、治安を維持する目的だけの、戦闘になったら我先に逃げ出す『張子の虎』を残してきている為だ。
無理に精鋭を国からこの異国の地へ動かした挙句、目的であった亜神たちが居なくなった。しかも、目の前にはその亜神たちを葬った(と彼らは認識している)強力な軍勢と空いたしており、この場に縫い留められている。
この地に集結している国々にとって現状、国家体制維持にとって最も危険な状況を作り出してしまっているのだ。
方やグンニル王国は【出兵準備が間に合わない】で本来この場にいるべき1万の兵団が国元に居る。さらには【北部防衛戦力】8千も国元に居た。
全ては整っていた。
グンニル王国女王アニータは読み切ってこの場にいた。
亜神たちの不可解な言動に彼女は亜神の言葉が人間に語り掛けているはずの言葉が、どこか別なモノに語り掛けている言葉だと本能的に認識した。
国の負担となっていた北部の問題が賢者の娘によって強引に解決の兆しを見え、そしてほぼ同時期に亜神からの言葉であり。
女王アニータは元帝国との条約締結時期を測っていた。
早ければ警戒され、順調に進んでいても警戒される。
故に初期の交渉で思い切り難癖をつける。無論、交渉の基本ではあるがそれを暗部によって拡散させる。そう【交渉は決裂し、再び2国間に緊張が走る】と。
グンニル王国に接する国々はその情報にあっさりと騙され、そして目の前につるされた【神への奉仕】という栄誉(餌)に喰らいついたのだった。
全ての準備は整っていた。
グンニル王国には最強の兵団が4万。
最大の懸念北部の元帝国とは円満に、そしてグンニル王国優位の条約を締結。
女王アニータはここで侵攻したところで、問題ないと確信していた。
亜神の目的が平和ではないと確信していたからだ。
そしてキーワードにあった【獣人】。
獣人は獣神と神樹に保護された高位存在である。
この軍勢はきっと亜神の目的が達成されれば壊滅するのであろう、だから南部から集められた精鋭部隊たちが、その矛先がグンニル王国に向くことはない。
そしてグンニル王国による綿密に組まれた侵攻作戦が開始された。
信仰先に残されたのは【張り子の軍勢】。
【張り子の軍勢】名は体を現すように、どの軍勢もグンニル王国と戦端が開かれる前に『武器を置き、降伏する者は無罪放免とする』と伝える来る。兵数が一気に1割まで減る。これでは戦いにならない。
さてここで懸命な読者諸兄はこう思うだろう『ハンターは?』と。
日々モンスターを戦い個人戦力として大きな彼らだが……。
『ハンターは傭兵ではない』
この言葉が表すように五割以上のハンターは戦争に参加などしない。
さらに言えば南方小国連合の中でもグンニル王国はダンジョン産業に先進的な取り組みをしており、ハンターへの待遇も悪くない国だ。
同業者を保護する存在、その様な国に牙をむく愚か者は居ない。寧ろその国家体制に取り込まれてほしい。現状の侵攻を喜ばしいとすら思う者が大多数である。
グンニル王国がダンジョン産業に先進的なのは、北の脅威に対する常備軍の維持費捻出のための苦肉の策でもあったのだが……。ことのほかハンター達から重要視されている国になっていた。これはグンニル王国にとっても嬉しい誤算となった。
しかし、同じハンターでも決起盛んな者、野心溢れる者は兵士として参戦した。
そして……【戦闘訓練として日々モンスターと戦っている】グンニル王国軍のレベルの高さにおびえる。
……こうしてグンニル王国軍は【ほぼ無血】で南下を続ける。
どこかの商売上手な公爵が、グンニル王国の行軍先で軟化工作を施しており、『女王陛下の温情』を頂いた為政者たちが、ほぼそのままグンニル王国の傘下に入り執政を執り行う。
侵略されても、奪われない。殺されない。
元々民族的にも宗教的に雑多であった南方小国国家群の民は何の偏見もなく、この軍事行動をこぞって称賛した。そして【奇跡の行軍】と後世に残した。
さてそんな状況に、つまり国家体制崩壊寸前にさらされているのが、先ほど五か国である。
うち既に三か国はもはや世界地図から祖国がなくなっている。
亡命政府でも起こすか、温情熱いグンニル王国に降るか選択を迫られていた。
まーちゃん軍団との交渉どころではない。
まーちゃん軍団と交渉を開始した六か国も、自国を警戒していた。
しかし幾ら国内を憂慮しようともまーちゃん軍団を前に撤退すれば、容赦と言う言葉を失ったまーちゃん軍団(獣王婿様軍)が【侵略に対する報復行為】と大手を振って攻撃を開始する。それはグンニル王国の脅威など比べ物ないならない。
国民への慈悲もグンニル王国の様にあるとは思えない。
留まる地獄、行動を起こすと更なる地獄、各国首脳にとって胃の痛い状況が続いていた。
そんな中、余裕な者が二人と、比較的楽観している者が一人いた。
予想以上の戦果に笑いが止まらない、女王アニータ。
議員がギロチンに散ったことを聞き国元に戻る気のない、大統領ダンダバ。
本人の意思とは裏腹、国民は大統領ダンダバと将軍の帰国を心待ちにしている。
国元では民を苦しめた議員たちと戦い続けていた【英雄】として銅像が計画されている。
そして、比較的に楽観しているのは、何を隠そう神聖ラダー王国バルバロス王である。
血気盛ん、気象の洗い暴君を演じていた彼はまーちゃん軍団の脅威をいち早く察知した。しおして彼は権三郎の言葉を即座に理解し、各国が翌日どうすべきか語っている混乱と、夜闇に紛れ王本人がまーちゃん軍団の本陣を尋ねると言う豪胆な行動をとっている。これにはマイルズも驚いていた。
しかしこの行動はとてもいい方に働いた。
つまるところ良いサプライズで好印象を残したのだ。
その後図々しくもバルバロス王が国元の治安維持の為、案山子部隊の貸し出しを所望した際も、眉を顰める権三郎を横目にマイルズは快諾。その場で二百体の案山子を作りバルバロス王の暗部と共に国元へ向かわせた。
「貴方達に重要任務なののです! 美味しい料理または、珍しい食材を探索するのです!」
作り出された直後の任務でやる気に満ちていた案山子軍団が、その言葉でわずかにどんよりする。しかし、権三郎の怒気を感じて即座に向き直りマイルズに敬礼する。
「…………自分が作っておきながらですが、これ案山子って呼んでいいんですかね?」
という事で(・∀・)ニヤニヤが止まらない女王アニータが支配する会議室は、1時間ほど愚にも付かない会議を経て翌日へと続く。
「状況は…………」
「公爵軍は西部全土を制圧し王都に迫っております。王都では王妃様が…………」
「申せ」
「はっ。王族全員を捕縛。我が配下の暗部。近衛を率いて王都を制圧しております」
既にそこには聖人君子の顔はなく、怒りに満ちた王が一人。
「…………捕縛では無かろう」
「はっ。各自罪状を貼り出し、広場にてさらしております。王女様も王子様も同様にございます」
王から表情が抜け落ちる。
「あのくそ女(あま)がぁ!!!」
王妃アリアン。グンニル王国先王の妹である。
アリアンは嫁いで早々に夫が【人間として更生不能】であること知り、祖国の南方制覇の礎になることを決めた。
それ以降、王に従順な振りをしつつ国の中枢に人脈を作り公爵の暗躍を補助した。自らが生んだ子供たちは正しく導こうと努力したが、どの子供も夫の様になってしまう。
子供達もろとも国の為死ぬことがせめての親心としている。
王都には王妃の罪を記した立て看板もあったが、即日民衆に燃やされている。
あと二日で公爵軍が王都に到着する。
元々防衛に特化した王都、その無血開城をもって王妃はその人生を終え様としていた。
カクヨム+α
「神聖ラダー王国国王バルバロスだ。この度は謁見に応じていただき感謝する」
「むむむ。貴方からは何かを感じるのです…………」
見つめ合う幼児と猛将。
「……なじみの商人が言いました。『この商品、言い値でいいね?』」
「ぐっ………ふぅ」
何やらダメージを受けた様子のバルバロス王。
「次はこちらだな。………あれ? この魚、内臓がないぞう??」
「がはっ!」
今度はマイルズがダメージを受けた様子。
やがて二人は見つめ合いどちらとともなく手を出し握手を交わす。
「「同士!」」
…………ツッコミ不在の為、どうしようもない空気で終わり!
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