第109話「奴隷狩りは変態王子を捕獲しました」
ウッサが巻き起こした破壊、その後始末の為、南の獣王国領へと向かった獣王様と変態王子が目にしたのは、人間の群れだった。
獣王はその姿に眉をひそめ。
変態王子は『西部はいまだ未開よ』と達観した笑い声をあげる。
「して、如何される?」
巨大な白龍の背で変態王子は獣王に問う。
ここは近年、人間の侵略に対して獣王国が勝利し割譲させた領地である。
しかし、人間はもちろん獣人の入植もなく、定期的な獣王国軍の見回りがある事以外特に監視のない所謂実りのない土地である。
なぜそんな土地が放置されているかと言うと、土地柄のせいである。
過去獣王国を含め数ヶ国が領有を宣言し、その度放棄して来たのには理由がある。
まずは土地に塩分が強く植物が育たない事、これは基本自給自足を促される入植地では致命的である。
その土地でも育つタネを持ち込んだ一団があった。
しかし 育つには育ったのだが……、食人植物つまりはモンスターに、何故だか育ってしまったのだ。加えて言うと海から流れ込む悪感情の魔法力が、自然は政敵に強いモンスターを生み、どう足掻いても人類にでは半年以上止まれない大地となっていた。
悪意に汚れた魔法力を放置すると生物の情報を取り込み、世界はモンスターを生む。しかし、生み出すモンスターには上限があり、それを超えると未処理の強烈な汚れた魔法力が大量に寄り集まる事象を生み、そしてそれは【超級モンスター】と呼ばれる人類ではけっして敵わない悪夢として生み出される。
先日沖合で4体の超級モンスターが発生した。周辺各国は亜神からの警告を受け、対処に動いていた。通常は獣王国並びに神獣様への供物を捧げ対処を願い出るのだが……。今回はウッサ成人記念の腕試しとして即座に浄化され、巨大な魔石だけ残して消えた。
巨大な魔石は超級モンスターが残した宝として、獣王様が回収して神樹様に献上・補完願う者なのだが……不思議なことに今、その宝を巡って人間たちが、この不毛な大地でモンスターと戦っていた。ある者は勝利し、砂地に埋まっているかもしれない魔石を探す。ある者はモンスターに敗北し、砂の上に屍を晒す。
まるで蟻が砂糖に群がるように人間たちがわらわらと集る。
不可解なことである。この不毛、ある国からは悪魔の大地と呼ばれる土地になぜ人間がいるのか?亜神からの通告を受けていれば自国で閉じこもり獣王にすがるのが常である。今回ウッサが成人するのは神々の間でも内々に進められていたことだというのに、なぜ人間がそれを察知し先手をうっているのだろうか?
その問題を一時置いておいたとして、ここでいくつか問題が発生している。
まず、この人間たちが明らかに不法入国者である事だ。
獣人国はルカスの認可を受けた商人や研究者以外、獣王国への入国を許していない。過去人間が引き起こした蛮行のせいだ。
次に人間たちに全く統制が取れていない事だ。
助かる命が無為に散る。これは如何ともしがたい。
無念に散った命は魔法力を汚し、モンスターの大量発生を誘発する。
人間の領土であった頃は手付かずであった為、お宝を望んだ大集団が挑み、見事に全滅。その都度頻繁に超級モンスターが出現させていた。余りの発生頻度に呆れた神獣が数度放置し為、この悪魔の大地の周辺にかつてあった人間の国家が3つほど滅んでいる。
現在では獣王国軍が軍事演習を兼ねて定期的に進軍・調査しているので発生頻度は下がっているが、安全な土地ではない。
「見捨てるのも忍びない……」
ふむっと唸った獣王に変態王子は好印象を抱く。
世界的にこう行ったケースで指導者が取る対応は、不法入国者の殲滅である。
これは犯してはならない事をした罪人への最低限取るべき対応である。
それを悩んでいる。
人道上などと言う甘い悩みではない。
欲にまみれて死んだ人間はモンスターの原料である汚れた魔法力を撒き散らす。
遥か太古ではあるが人類は一度それで滅びかけている。
つまりは『見捨てて(またウッサいや、見習いの神獣様にご迷惑をかけるのは)忍びない』と言う意図と、この時に人間がいるのはおかしい『見捨てて(元凶を放置し我が国の民に多大なる災禍が降りかかる情報を捨ておくのは)忍びない』。
神樹様の指示を受け、獣王国軍を編成し南征に打って出た獣王ですら今到着したばかりだ。
だと言うのに、獣王都より遠い人間の国から、獣王軍より行軍速度の遅い人間たちが獣王様より先に、しかもこれだけの不正侵入があった。
これはまるで『予め超級モンスターの出現が予測され、人間達を導いた者が居た』様ではないか……故に獣王様は裏の存在を疑い……。
「ジュウザ、軍を率いて烏合の衆を制圧せよ」
「はっ!」
獣王の命の従い獣王軍の数割が不法入国者の捕縛に向かう。
死にそうなものから捕縛し、簡易のキャンプを作り放り込む。
ある意味保護された人間達は不要な抵抗はせず捕縛されてゆく……徐々に現場が落ち着いて行った。
「獣王様、少しばかり居なくなります」
変態王子はそれだけ言うと返事も聞かずに馬を降り、岩場へと向かう。
「どこへ向かわれる!」
「ちょいと厠にてござる」
薄っぺらい演義の後変態王子は想定通り拉致された。
人間の奴隷狩りに……。
カクヨム+α
「獣王様達はどちらへ?」
私が問うと神宮寺君が答えます。
そっとその傍に大人バージョンのウッサがいます。
熟専の【熟女ハンター】神宮寺のくせに生意気です。
「彼らなら魔石回収にいってますよ。……あと、ちょっと天界追放された勢力が動いてるみたいなのでカクノシン君にはちょっと別任務も与えたっす」
当然の様に語る神宮寺君。
「カクノシンってどなたですか?」
本心で尋ねてみます。
神様である神宮寺君から任務を受けられるような有能な方がいらっしゃるとは、一度お会いしてみたいものです。
「まーちゃん先輩、それは……」
「まーちゃん、ぞくぞくするぐらいドs……」
……聞き捨てならないのです。
神宮寺君のおやつ抜きなのです。信賞必罰なのです。
で、カクノシンってどなたでしょう?
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