第85話「( ゜Д゜)_σ異議あり!!」

「誰もいませんね……」

 村の入り口近くまで来てキアラさんが怒りをはらんだ言葉が漏れます。

 私としては問題ないのですが、周囲の方はそうとらえなかったようです。


「えっと、たぶん僕のせいかと……」

 ドニ君が申し訳なさそうに言います。


「……これは議長に報告しましょう。あ、もうそろそろ首相でしたか……」

 黒いですよ。落ち着くのです。


「しかし、国主を迎えるにこれは無礼です」

 私は国主ではありませんが……そういう前に村の中心部から初老の男性が数名走ってきます。


「お迎えできず大変申し訳ございません!」

 その後村長と名乗った彼の言い訳を聞きつつ私たち一行は村の中心部へと案内されました。

 そこには縛られた男2名と女1名が座らせており周りには村のほぼ全員が囲んでいた。


「まーちゃん様。僕、出なくてよいでしょうか……」

「出たくなったら言ってください。出なければたぶんあなたも、皆さんも納得できませんよ……」

 そういって私は馬車から降りるとそこには元醜女衆(男)の騎士デイアスさんが私を迎えてくれました。


「おや? デイアスさんお久しぶりですね。次の街でお会いする予定だったと思いますが……」

「先日こちらの地方の管理官に任命されまして……」

 なるほどお察しです。

 そして私はそのままデイアスさんに抱きかかえられて3名のまえに設置された簡易法廷の裁判官の席に、正しくは裁判官の席に座るデイアスさんのお膝の上にすわります。


「まーちゃん様の御前である! 皆の者頭が高い!!」

 キアラさんが私たちの横に立ち。

 どこの時代劇かと突っ込みたくなることを言います。が、皆さん平伏しちゃいます。


「あー、えーっとディアスさんこれどういった状況ですか?」

 そこから今行われている不貞行為に関する裁判について概要が説明されます。


【原告】ドニ両親。

【訴え】息子の婚約者が、先日の祝日男2名と不貞行為を働いた。その現場を目撃した息子が世捨て人となり行方不明になった。姦通罪の適用を求む。

【証拠】30名に及ぶ嬌声、加害者3名の密室への入室目撃証言。過去にさかのぼると2年前から100件。


【被告】セレスト(女)(17)、マルト(男)(45)、ハリス(男)(32)

【訴え】密室にこもったのは事実だが、結婚を目前に控え忙しかったセレストを気遣ってマッサージだった。不貞行為はなかった。無罪の適用を求む。

【証拠】そもそもセレストは未婚の為、処女である


「物証はないのですね」

「物証はセレストを調べればわかる!」

 叫んだのはひげを蓄えた中年太りした男性……たしかマルトさんでしたか。


「あ、それはですね……」

「ちーーっす! お昼ご飯食べに来ました!!!」

 神宮寺君が空気読まずに降臨しました。

 神降臨に皆さん平伏です。


「じーーーーーーー」

「まーちゃん先輩。なんで擬音を……あ、なんか場違いかな」

 空気を読んだようです。

 薄い笑いを浮かべながら私たちの後ろに控えます。昔から勘のいい子でしたので空気読むのはさすがです。

 

「おっほん、では続けましょう。マルトさん。セレストさんを調べても無駄です」

「いや、処女だったら俺たちみんな無罪じゃねーか!」

 マルトさんの主張に3人語調を合わせます。


「静かに!」

 私への文句にディアスさんの機嫌が悪くなります。

 ……どうでもいいのですが。ディアスさんが語気を荒げると、抱えられている私が一番うるさいのでご勘弁願いたい。


「ここに居られるのは国主まーちゃん様ぞ。言葉を選べ! 即刻姦通罪に処すぞ……」

 ディアスさんの殺気に3人が3人身を縮めます。


「まーちゃん先輩。状況は分かったので俺。こっちの弁護してもいい?」

 また、貴方と言う人は……。


「神様が弁護してくれるなら、大船に乗ったようなものだ!」

「神よ。感謝します」

「神様ドニが戻ってきてくれたらなんでもするのでお願いします!」

 しおらしいセレストさんですが女性のこういう態度には気を付けた方が良い。

 何より想像力と自己暗示にかけては男性など及びもつかない強力な精神力をお持ちですからね。


「神宮寺君。認めてあげてもいいですが、後悔しても慰めてあげませんよ?」

「まーちゃん先輩。神様なめないでくださいっす!」

 どうせ法廷バトルゲームに影響されてるだけ……いや、勝さんだった時のあの事件を引きずっている私に思う所があるのでしょうかね。


「さて、先ほど言われた処女確認ですが物証にはなりません」

「だからどうしてなんだ! ……ですか……」

 暴言に今度は神宮寺君にまで冷たい目で見られてマルトさんはしぼみます。


「あなたが一番わかっているでしょう?」

 マルトさんの視線が一瞬私から外れます。


「何とことを言っているのでしょう?」

「惚けなくても大丈夫ですよ。あなた回復魔法が使えますね。それも昔から」

 村民たちが騒然とします。

 『じゃあ、あの時息子を救えてたという事か!』『薬師のくせに怪我人を!!』等々です。

 薬師だったのですね。モンスターと生死を掛けた村暮らし。

 しかもレベルアップの恩恵を受けられなったこの国で回復魔法できる事を隠して見殺しですか。


「異世界魔法じゃない魔法なんて使ったら俺が殺されちまう! しかたねーだろ!」

 マルトさんの叫びに他の2名の顔が青くなります。


「まーちゃん様。無学で恐縮ですがどのような理由で物証にならないのでしょうか?」

 ディアスさんが話を裁判に引き戻す。

 ただの村という事もあり魔法について認識が浅い。

 つまりは、公明正大な裁判をするためには説明が必要と促したようなものです。


「回復魔法とは損傷した体を元のあるべき状態に戻す魔法です。つまり行為によって血が流れるという事は股を損傷したと体が認識します。その当日であれば回復魔法で再生可能です」

「やんちゃな貴族や高位のお嬢様が良くやる手ですね」

 ディアスさんが合いの手を入れます。よくご存じで。


「傷を治すでもない。然りとて使った形跡はある。私のお話にも驚いた様子もない。マルトさん? いったい誰の処女再生をしたのでしょうか? 上流階級でもなければ実践しないと知らないはずですよね?」

「……たっ旅のお嬢様だ……」

 マルトさんの動揺が目に見えます。


「ほう、そのお嬢さんといたしたのですか? あなた既婚歴長いですよね? 姦通罪適用ですよ?」

「子供の頃だ!」

「嘘をおっしゃい。貴方が回復魔法を会得したのは10年前です」

 マルトさんの顔に動揺が浮かびます。


「神宮寺君。不信ならマルトさんの魔法回路をごらんなさい」

「……あ、うん。まーちゃん先輩の言う通りです」

「さて、マルトさん。いったいどこで処女再生可能という事を知り得たのですか?」

 マルトさんは下を向いて小刻みに揺れながら『違う違う』と繰り返すだけになってしまいました。


「反論なしだな。セレストの処女は証拠として正当性なし。寧ろ原告側の証拠として採用する」

「待ってください! 管理官様、私は今でもドニを愛しています。神に誓ってもいいです。ちょうど神様がいらっしゃいますご判断されても良いです」

「という事ですが……」

「愛の判定ならギリギリできるっすけど。それって証拠になります?」

 ディアスさんが話を向けると神宮寺君が首を傾げます。


「断言しましょう。証拠になりません」

 私が断言します。


「幼児に愛の何がわかるというの?!」

 激昂するセレストさん。こういった女性を見るのも2回目ですか。


「では、マルトさんとハリスさんへの愛も判定してもらいましょう」

 セレストさんが一瞬ひるみました。こういった恋愛脳のお人はわかりやすい。

 この人種は『ドニを愛しているの、でもマルトもハリスも愛しているの。ああ私はなんて愛多き女』とか自分に酔っているのですよ。周りがどんなに迷惑でもお構いなしなのです。


「ドニさんとの婚約済み、さらには結婚直前であれば判定が【真】と出るのはおのずと一人ですよね」

「でも。愛はそんなに軽くないわ。お子様だからわからないかもしれなけど、ドニへの私の愛は本物よ!」

 聞くに堪えません。


「黙らせてください……さてディアスさんどのような沙汰を下しますか?」

「今のところ3名とも姦通罪適用です。軽い刑で斬首でしょう」

 3人が顔面蒼白になります。


「では3人を有罪とする証拠。突き付けられた証言を精査して刑を確定させる、でいかがでしょう?」

「よいですね。では原告もう一度証言を申せ」

 10代後半の青年が現れ淡々と昨日多くの者が聞いた証言を繰り返してゆきます。


『いいだろ、婚約者の小さいのじゃこんなことできないだろ?』

『うん、届かない! 届かない! あーーー』

 ドニ君も聞いたという証言に私は引っかかります。【小さい】?


「ディアスさん。実は奇遇なことに私も昨日この裁判に関する証拠を拾ったのですよ」

「ほう」

「キアラさん馬車から証拠物を入廷させてください」

 しばらくしてキアラさんに引きずられてドニ君が姿を現すと騒然とします。


「ドニ! ドニなの! 大丈夫、私は無罪だから! きっとすぐにまた愛し合えるよ!」

 涙を流し暴れるセレストさん。私もついうっかり情にほだされそうです。遠巻きに見ているミリ姉がすでに私とディアスさんを睨んでいます。若いですね。


「静かに!」

 ディアスさんの一喝で場が静まり返ります。


「さて、先ほど証言内に【小さい】と言う言葉がありました。本当でしょうか?確認してみましょう。あ、その前にお子様には目隠しを」

 そういうと私にも目隠しがされます。うん、お子様ですけどね。

 その後衣擦れの音と『おおっ』と言う驚きの声と『ごくり』という喉を鳴らす音が響きます。

 目隠しが解けると真っ赤になっている乙女の皆さんと。『もうお嫁にいけない』とつぶやくドニ君。君はお婿ですから。


「さて、皆さんご覧いただけた通り【小さい】ではなく【巨大】です。下手すると女性からお断りされる大きさです」

 そっと『下手しなくてもあれは無理。愛がないと無理』とささやかれている声が聞こえます。巨根は巨根で大変だと聞きますがその通りのようです。


「さて、私はこの証拠をもって証言の信憑性に一石を投じたいと思います。まあ、セレストさんが知らずに【合わせていた】という可能性もありますが」

 ざわつく広場。これ以上しても特はないと思い私は判決を促します。


「……まーちゃん様。これ判決難しくないですか?」

「ですね。どちらの証言も証拠も決定打ではないですね。マルトさん以外は」

「ですな……」

 そういってディアスさんは一つ深く呼吸すると判決を言い渡します。


「判決!

 被告人マルト姦通罪の罪により斬首。

 被告人ハリス、同様に姦通罪も疑わしき点もある為、鉱山での強制労働40年。

 被告人セレスト、ハンス同様である。むち打ち100回。村内にて10日間のさらしの上。犯罪奴隷として国外への販売とする」

 言い切ったところでさらに顔をから色が抜ける3人の横から声が飛ぶ。


「異議あり!!」

 神宮寺君……君と言う人は……。


「まーちゃん先輩。俺納得できません!」

「君が納得できなくとも、判決は判決です。ディアスさんも先例に従ったこの国の法律で裁いているのですよ?」

 裁判官席の前に積まれた資料がたったの数日で調べ、そのうえでこの場にいることを示しています。


「それでもです。人間にはわからない事でも俺神様なんで明るみにできます!」

 神宮司君、君は被害者のドニ君の今の表情が見えますか?

 神様になって人の表情が読めなくなりましたか?

 ……。


「召喚! 結婚神! ……まーちゃんにあえるよー(ぼそ」

 ヲイ。最後の一文聞こえてんよ! 

 ツッコミを入れようとした次の瞬間神宮寺君の横の空間にポンと軽い音を立てて白煙が上がります。

 そして煙が晴れると二人の美女が立っていました。

 片やピンクの長髪で落ち着いたお着物を着衣しております。髪色とは似合わず凛とした美しさが感じられます。

 もうお一方は茶髪のショートボブ。日本の爽やか系モデルの様な清楚な洋服を着ております。こちらも同様に神聖なオーラを纏っています。

 その美しさに唖然とする一同を差し置いてゆっくりと目を見開いた二人は……。


「きゃーーー、まーちゃんよ! 腐った瞳で擦れた感じがバ可愛い!」

「お姉さま! お姉さま! リード、リードがついてますわ! バ可愛いですわ!」

 おい! ギャップ! そのギャップは萌えません!!!

 抗議の声を上げる間もなくお二人はディアスさんから私を奪い取ると抱き上げ。

 

「下っ端……じゃなかった。じんちゃん写真! とってとって~」

 ピンクの神の方がべったり頬を擦り付けてきます。

 ちょっ、まーちゃん照れるのです。


「見てみて照れてる! かわいいー」

「いつもの死んだ魚の眼から幼児の眼にもどってる! かわいいー!」

 褒めてます? 褒めてるよね?

 流される私。

 きゃいきゃいと私を挟んで写真を撮るお2人。

 神宮寺君改め下っ端が無言で写真を撮っていきます。

 ……今度君に下っ端スーツ作ってあげましょうかね……。


「ティア、ティア! これが噂の幼児用リードよ! 下っ端、全身入れて取って!!」

 人権破壊兵器を手に取られ地面に降ろされorz状態になる。


「「「「「「「おおお、バ可愛い!」」」」」」」」

 皆さん……。


「やった! 奇跡のツーショット!」

「お姉さまずるい! 私も!!!」

 何でしょうか早く本題に戻……。


「この幼児用リード発明した人! いる!」

 ざわつきます。そして天使の鎧モードで空中から手を挙げて降臨するミリ姉。


「私です」

 自信満々です。


「結婚神ユノスの加護を上げます! 不倫はだめ! 絶対!」

 ユノスと名乗ったピンク髪の方が手を差し出すとミリ姉が光りだします。


「あー、いいですね! じゃあ私恋愛神ティアの加護もあげます! 不倫は文化とか言ってる身勝手男に鉄槌を! 絶対!」

 黒髪の方もミリ姉に加護を与えたようです。

 ……ほら神宮寺君そろそろ出番ですよ。ここを逃すといいように騒がれてお帰りになられちゃいますよ……。


「えー、この流れで? 俺無理っすよー」

 ……『い・い・か・ら・や・れ』と口パクです。


「あれ? お腹すいたのかな?」

「お姉さま! 私クッキー持ってます!」

 何ですと! お姉さん方おきれいなのです!

 ああ、こうやって抱っこされると安心できるのです。そして安心してクッキーが食べれるのです!!!!


「あーん」

「あーん、なのです……うーん、美味しいのです!!!! お姉さんおきれいなうえに美味しいものまで持っているなんて、まさに女神様の中の女神様なのです!!!!」

「あの……」

 もう1枚、次は黒髪の方からいただけるときに神宮寺君です。


「神宮司君。空気を読もうね。あ、お姉さんクッキーひっこめちゃダメなのです。うーん、美味しいのです! お2人の間に居るだけで天国体験なのです!」

「じんちゃん! 写真! 手が止まってる!」

「じんちゃん! 仕事できないなら2級神会議で5級神に降格提案するよ!」

 至福のひと時はあっという間に過ぎてゆきます。

 お腹一杯でおねむなのです……。


「あ、そういえばじんちゃん。なんで私たち呼び出したの?」

 ピンクの神の結婚神ユノスさんが改まります。

 皆さん『やっとかよ』という表情です。はて、なんででしょうか?


「あ、はいっす。今……」

 神宮寺君の説明を聞きお2人の顔が曇ります。


「めんどくさい。まーちゃんと交流できたし早く帰って自慢したい」

「右同じく。そして会員に写真の配布しなければ」

 あのー、妹さん【会員】ってなに? ねぇねぇねぇ。


「まーしゃないか、まーちゃんに免じてみてあげるよ! まずは2日前の不倫!」

 おい! 私の質問!! てか不倫確定じゃねーかよ!


「あ、未成年は見えない様にしてます聞こえもしません! 神様パワー全開です!」

「ディアスさん、何が映ってますか?」

 思い切り鼻を抑えるディアスさん。


「えっと、マッサージしております。全裸で。挿入がないだけです。」

 うーわ。


「続けて3日前!」 

 ディアスさんへ期待のまなざし!

 

「まーちゃん様。申し上げることができません」

「えっと。婚約した日から、してない日は2日前だけです! じゃ、じんちゃん写真データ本日中ね!」

「まーちゃんまたね♪」

 空気を読んであっという間にいなくなったお2人。

 ……神宮寺君。この空気どうしてくれるんですか。

 なんとか治めかけたのに……。

 あ、ドニ君が泡ふいて倒れた! やばいやばい!!


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る