第83話「レベルシステム!」

(マイルズが向かう先の村で起きた可哀そうな事件)

「ドニ、しっかりしろ!」

 小声だがドニの親友ランスがドニの肩をゆすりながら言う。

 だが放心状態のドニからは反応がない。

 彼らは男たちと酒場に入ってゆくドニの婚約者セレストの姿を見つけ追いかけた。

 国の祝日だ呑むのであれば一緒しようと思ったのだ。

 だが酒場の扉に手をかけてドニが凍り付いた。

 ランスも冷や汗をぬぐいながらもとにかくドニを酒場の脇に連れ込む。

 深く息をさせ、水を飲ませる。

 それでも中から聞こえるセレストの《嬌声》が止むことはない。

 合わせて下品に笑う男たちの声も止まない。

 ドニとセレストは珍しい恋愛結婚だ。

 基本村では村長を筆頭とした大人たちが年代に合わせた男女を見合わせて結婚させる。

 稀にだがドニたちの様に好きあった者同士が一緒になるケースもあるが、それは大人達が課した課題をクリアできなければならない。

 ドニとセレストは先日やっと認められこの祝賀行事が終わったら結婚する予定だった。


「ああ、いい~!」

「いいだろ、婚約者の小さいのじゃこんなことできないだろ?」

「うん、届かない! 届かない! あーーー」

 どんどんと青くなっていくドニを無理やりに担ぎ上げてランスは家路につく。

 ドニの家に着くと祭りで久しぶりの酒に酔ったドニの両親に迎えられた。

 酒に酔った赤い顔がドニを見て一気に青くなる。

 ランスはドニの両親に事情を話す。

 ドニの父親は「だから、村長の言うとおりにすればよかったんだ」と言いつつ涙を流しドニを力強く抱きかかえ、母親は「なんでセレストが」と震えている。

 とにかくランスはドニの状態が心配なので目を離さないようにお願いして、その夜は家に帰った。

 そして翌朝そのことを激しく後悔した。 


「ドニがいなくなった!! あんた昨日一緒だったそうじゃない! なにしたの!!」

 セレストがランスの家に飛び込んできた。真っ青な顔をしている。


「黙れ! 糞女!! 姦通罪がこの国にあるって知ってやったんだよな? 婚約済みですでに対象範囲だ! マルトとハリスも一緒に斬首だろうぜ良かったな!」

「はっ? 何言ってんの? あたしがドニ以外と……」

 しらばっくれるセレストだが酒場に複数の男と入っていたこと、嬌声がそこから聞こえていたことは多くの証言がある。

 殆どの者は後から酒場の近くに居たドニの姿を目撃して『若いっていいなぁ』となごんでいたようだ。


「もうこの村にお前の味方なんかいない! 大人しく快楽に酔って俺の大事な幼馴染を踏みにじったことを後悔して死ねよ!」

 その言葉にセレストはさらに青くなる。朝から自分に向けられる視線。マルトとハリスの奥さんが半狂乱でこちらを睨んでいたこと。そして実の娘のようにかわいがってくれたドニの両親が汚いものを見る目でセレストを見、取り合ってくれなかったこと。


「ランスいるか! ドニがいなくなった!!」

 ドニの父親が駆けこんでくる。

 セレストとドニの新居からいなくなったのはわかるが、実家からもいなくなったという事は……。


「書置きがあった……」

 そこでドニの父親はセレストを一瞥する。


「気にしないでください、どうせなら自分が犯した罪を聞かせてやってください」

「ああ、色々俺たちへの感謝と謝罪を書いたうえで『セレストを責めないでください。僕がいなくなれば丸く収まる話なので』て書かれていた。そしてハンター道具一式と食料が少しなくなっているんだ……」

 2人の脳裏によぎったのは山籠もり。いわゆる世捨て人の生活。

 だが同時に彼らの脳裏にはおっちょこちょいのドニが魔物を倒した後油断して別な魔物に食べられる映像が色濃く映される。


「やばいですね! おやっさんは急いでそこの女を縛り上げて村長に報告を、俺はハンター組合に相談に行きます」

「ああ」

「おばさんの近くに誰かいますか」

「おう、アレスがいてくれてる」

 ドニの兄が不安定な母親に付き添ってくれているなら安心だ、とランスは自分もハンター装備を着て家を駆けだす。


「あたしはマッサージしてもらってただけなのに……」

 セレストの浅ましい言い訳がこぼれる。

 ランスは怒りに任せてぶちまけたかった『なんで祝いの日に態々婚約者から離れ、別の男と密室に行った! もうすでにそれだけで姦通罪成立だ!』と絶望に染まるセレストに。

 ランスは同時に国の祝いの日の最低な行為に恩赦など出さないよな……と不安を胸に村を駆けまわった。


「恋愛結婚なんざろくなもんじゃねぇーな……」

 ランスのつぶやきに村の面々はただ頷くしかできなかった。


――――

(ドニがいなくなった2日後。教都改め首都からドニ達の村へと向かう途上)

「何度見ても想うのです。マモルンの姿はすでにセーラの面影がなくなり、キュアキュアし始めていると。これも香澄ちゃんの思惑……香澄ちゃんは孔明なのかもしれません……」

「丸雪的には痴女から痴女いお姫様にランクアップなので、香澄様を支持いたします」

 マモルンの腕の中から肉球を上げて意志表示をする丸雪ですが、マモルンの眼からハイライトが消えかけています。そろそろ発言に気を付けたほうが……。

 あ、力士も真っ青なマモルンパワーで鯖折にされてます。『僕は死にましぇーーん』ですか。余裕そうですね。さすが有機物で生成したまーちゃん特性案山子。


「まーちゃん様、馬車での移動となってしまい……」

 まーちゃん護衛の魔王軍天馬旅団旅団長キアラさんが何度目かの謝罪です。

 もう、聞き飽きたのです。

 転移できる人が先行してポイント記憶してくれているので次の中核都市までは馬車移動だそうですが、私的には『旅! 満喫!!』なので謝罪なんかいらないのですが。

 タウさんが言い出したのは初めは師団規模でした。

 『いやいや、どこの陛下ですか』というと。

 『ここはまーちゃん共和国です』との事。

 『ただでさえ早く行政府をと言っているのにあの人達「まーちゃん様を差し置いて代表など」なんていうんですよ……』何とか首相を置いて行政の長として体系化するようです。

 タウさんはさらに『出来れば大統領が……』と、どうやらトップ外交が必要なようですね。……こっち見ないでください……。

 結局粘った末。師団(1万)→旅団(5千)→大隊(千)→中隊(2百)→2小隊(50名)まで減らしました。

 というか師団って駐留する魔王軍全軍じゃないですか!

 他の仕事どうするつもりだったのでしょう。


「師団規模で行列を組まれる罰ゲーム比べればなんということないのです。初めての旅行でまーちゃん的にも楽しいのでお構いなく」

「まーちゃん様。師団規模移動は軍事行動で周辺各国への牽制の意図があったと推察いたします」

 まーちゃん共和国のまーちゃんが万の軍勢を率いて……確かに周辺各国には脅威でしょう。

 現在私が一緒に旅をしているのはマモルン、丸雪、使命感に燃える権三郎、キアラさん率いる天馬部隊50。そして白銀の鎧を身にまとったミリ姉。

 総勢55名の大集団です。

 ちなみに天馬部隊の方が明日訪問予定の村に伝令に出ております。立ち寄らせてもらって回復魔法かけ、魔法適性判定してと指導書を渡すだけなので特に気を使う必要はないのですが。

 さて、あんな事件があって私一人をきっかけに国が崩れたのに護衛がそんなに少数で大丈夫か? って思いましたね?

 ええ、皆さんに言われました。ですのでまーちゃん2.0の真価をお見せしました。

 先日付けられた魔封じをつけられた状態で心配された皆さんと戦ったのです。

 結果はすべてに勝利しました。

 まーちゃん2.0はマモルンテクノロジーで完成いたしました。

 私を封印したければ自然神を呼ぶべきなのです。

 ……まぁ、おじいちゃんとおばーちゃんには苦戦しました。それに皆さん本気を出されていない様子でした。まだまだ改善が必要なのでしょうね。

 ただ、魔王様だけがむきになってました。大人気ない……。

 実はそれだけではありません。


「まーちゃん先輩! 昨日ぶりっす!」

 この一行に飯時だけ現れる神様も同行したのです。

 実はこれが一番大きい要因だったのかもしれません。


「神宮寺君。昨日も言いましたよね。マイルズと呼びなさいと」

「はい、先輩。それなので敬意と愛情を込めてまーちゃん先輩と呼んでます!」

 他の方々は神降臨! に平伏しそうなのですが、馬の上では危ないです。

 そしてこいつに平伏する必要はありません。ご飯たかりに来ただけなのですから。


「先輩! 今日は何でしょうか!」

「テリヤキバーガーを予定してますよ」

「よっしゃーーー!! 少し早く来てよかった!! 仕事なんか糞くらえっす!」

 なんでこんな神が付いてくるようになったかと言うと。先日レベル神殿に伺った際の事でした。



――――

(2日前、まーちゃん共和国首都マイルズノルト※ レベル神殿内)

 ※マイルズの許可を得ていません。人名+地元の言葉でノルトは「光あふれる」と言う意味です。


「オーギュスタンさん、お久しぶりです!」

 先日ポトフについ良いこだわりを見せてくれたオーギュスタンさんがいました。

 その横には女性の恰好をしたエドメ改めリュリュさんがいました。


「まーちゃん様!」

 私を抱き上げるオーギュスタンさん。

 ちょっと太りましたね。いいことです。ちょっと前まで鳥ガラみたいでしたからね。今で標準体型です。


「リュリュさんもすっかりおきれいになりましたね」

「まーちゃん様も相変わらずおじさんみたいで可愛いですね♪」

 褒めてます?

 ……いえ、別に栄養が満ちてきて胸が膨らんできたとか、暗にいっているわけではないのです。ですが視線が行ってしまうのはもう男としての本能なのです。

 

「今日はお2人もレベル神詣でですか?」

「はい。本日がレベル神拝謁の日ですので私もレベルアップを体験しようと」

 レベルアップとはゲームのように自動ではないのです。レベル神の診断によりレベル向上が成されます。

 つまり、決められた日時にレベル神殿に来ないといくら鍛錬を積もうがレベルは上がらないのです。山にこもっても……という事なのです。

 先日まで打ち捨てられて朽ちるのを待っていたレベル神殿は急ピッチの改修によりその荘厳さを持ち直していた。

 神殿内部には所狭しと強者どもが並んでいます。その顔はどの方も晴れやかです。


「これより、神の降臨となります。皆さまご静粛にお待ちください」

 王国より派遣された神官長が宣言すると神殿内は水を打ったように静まりかえる。

 やがて神殿内の神像が光を放ち一人の男性が現れます。


「みなさん。ちーっす!」

 ……わざとやってやがる。なので対抗します。


「こんにちは。神宮寺 孝君。32歳。先日2股して先輩に泣きついたレベル神様」

 目があいます。固まる後輩君に『や・り・な・お・せ』と口パクを送ります。


「タッ大変失礼しました。私、世界安定部レベル管理課の課長を務めさせていただいております。神宮寺と申します。以後宜しくお願いいたします」

 はい、よくできました。私だけ見ていっても意味ないですが。及第点を上げましょう。

 『何だあの子供』『ばか、お前知らないのかあれがまーちゃん様だぞ』『あ、昨日見たあのかわいい子か!』等々色々言ってくれてますが結論として皆『神様もビビらせるとはさすがまーちゃん様!』で結論です。

 いえ、この子、勝さんだったころの会社の後輩君です。


「神宮司君。積もる話もありますが今はお仕事を」

「はい、了解っす! ちゃっちゃとやるよー! れべーーーーる! あーーーっぷ♪」

 神殿が光に包まれ『うぉおおおおお』等と各所でレベルアップ現象の影響であろう声が聞こえます。

 私にはその光が来ないのですがね……しってますよ。体が完成に近付いていない10歳未満にはレベルアップはしないのでしたよね?


「まーちゃん様! 私21です!! すげーーーー!」

 オーギュスタンさんが興奮気味で私を抱えあげます。

 高い高いみたいで少し楽しいです。


「僕は16だ。くっそ、尻に敷けないじゃないか……」

 リュリュさん怖い。


「マスターなぜか私は187と出てるのですが?基本スペックでレベル300相応のはずですが……」

 ……そうですよ。案山子の基本性能はレベル100。

 祖父が権三郎を判定したところレベル300相当。


「あ、権三郎さんは基礎300+187っす。結構ぶっちぎり最強クラスです。自分と同じ4級神なら殴り倒せるっす」

 チーターがいます。でも裏切らないまーちゃん護衛なのです。

 ちなみに、このことを報告で受けたタウさんは真っ青になっていたそうです。

 直近で権三郎に刃物向けられたの彼女ですからね……。


「あ、俺28だ」

「マモルンは変身するといいっす」

 マモルンが変身すると神宮司君は再び光を発します。


「スイート♡ハート! ……159って」

「あれ?自然神相手にしたのに上りが鈍いっすね?」

 マモルン基礎数値があなたも高いのです。でもそれは秘密なのです。

 更に地上戦モード、宇宙戦モード。真のマモルンモードと盛りだくさんですよ。うふふふ。


「私は9ね。衛君に守ってもらわなくちゃ♪」

「香澄さん、あなたその上に2けt…………いえ、なんでもないです。か弱い幼馴染大事にしなきゃダメっすよ衛君」

 ばればれでしかも衛君を差し出した。


「みんな化け物ですね♪」

「……まーちゃん先輩あなたが一番化け物ですよ? レベル数値化しましょうか……いえ、なんでもないです。まーちゃん先輩はかわいらしい! よっ!」

 ちっ。まーちゃん2.0まで把握できるのか。


「もちろんっす、このスカウターをなめてもらっちゃ困るっす!」

「では気を解放するのでしっかり見ていてください」

 いつの間にかつけていた片メガネで雰囲気を作っていたので気による身体強化を披露しようとすると、あっさり片メガネを投げ捨てました。

 ……良い判断です。


「どうせどっかで『戦闘力レベルたったの5、ごみめ………』とかやっていたんでしょう?」

「そっそんなことないっす『私の戦闘力レベルは53万です』で止めてます。まーちゃん先輩失礼です」

 愉快な先輩後輩トークですが、不憫な神官長様がこの場の絞め方がわからずおたおたしています。


「あ、先輩。上司から先輩専属を命じられてますので! 明日から朝昼晩食べに伺いますので! よろしくです!」

 空気を読んで早口で言って消える後輩君。ていうか、ご飯食べにくる宣言ではないですか!



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