ひょうすけ

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ひょうすけ

 兵助は、降り続く雪を気にすることなく、山を駆け回っていた。兵助は、大雪で食べ物を得ることができずにいた。兵助は、寒さでぐったり倒れたお母さんに渡すため、必死に何かを探していた。もうどのくらい来ただろうか。何度か木の実のような植物の跡を見つけたが、どれも他の狸に取られてしまっていた。まだ、子供の兵助も腹をすかせ、厳しい寒さの中、よちよちと歩いていく。大雪で仲間と離れ離れになってしまい、20匹ほどいた兵助たちの仲間も、今はもう誰もいない。

 それから、しばらく。兵助の背後からゴソゴソという音がする。兵助も気づき、後ろを向くと、同じ群れの雪子だった。兵助は驚きながらも、雪子に駆け寄った。兵助は、仲間がいたという、安心感から飛び跳ねていたが、雪子の隣まで来ると、すぐに近くの木を枝ごと噛み切って雪子の腹にすり寄せた。雪子は、銃で脇腹を撃たれていたのだ。しんしんと降り続く雪で銃声なんて兵助の耳には届かなかった。怪我をした雪子を見て、小枝で抑えて、撃たれた部分を舐めたくっていた。そして、雪子を背負うと再びえさを求めて歩き出す。兵助は高い鳴き声をあげて、歩き続ける。雪子は小さい声を出しながら、兵助に背負われる。

 それから、しばらく。小さな木の実がなっているではないか。兵助はそれに気がつくと、へし折り、雪子に食べさせた。兵助も少し食べると元気を取り戻し、お母さんの分をくわえてお母さんの待つ洞穴へと戻る。早く早くと、駆け回ると、一人の男に兵助は出会った。兵助は警戒し、二、三歩後ずさりをする。だがあ、男の手には銃がなかった。それどころか、その男は、雪子の怪我に気づくと肩掛けバッグから、包帯と消毒液を取り出して、雪子の治療を始めた。兵助は毛を立てて、威嚇するが、男は兵助にも気づき、違うバッグからたくさんの木の実を地面に置いた。全く警戒心がなくなった訳ではないが、あまりの空腹を堪えられずに勢いよく食べ始めた。すると、雪子も元気を取り戻し、歩けるまでに回復した。男はそれ以上のことをしなかったので、二人は男に鳴き声で感謝を示し、母のところへと戻っていった。

 それから、しばらく。兵助は群れの長となり、皆を統率していた。その隣には、雪子がいた。

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