配達員の届け物は、本物よりきっと真実たり得るものなのでしょう。

あらすじを見て、「いま」のフェーズから徐々に「過去」を見ていくのかな?と思って読んだのですが、裏切られました。私はこの作品に嘘を付かれ続けている。
プロローグで難しい話が飛び交う雰囲気を味わった後に1-1を読んだ時、普通(普通ではないのかもしれませんが…)の女子高生の思考と文体が跳ねるように頭の中に入ってきて、「あ、やられた」と思いました。

「現在」からはじまり、「過去」を一通り辿って、「今」に向かい合う、ような構成です。
過去編(1.葉桜)では高校時代の主人公の学校生活が描かれ、
現代編(2.三日月)ではジャーナリストとなった主人公と「事件」を取り巻く様子が描かれます。

内容は学術的な難しさがあり、「嘘(虚構)」に溢れています。何周か読みましたがまだ理解しきれていないところもあります。(それ故に周回時の「あ、これってこういうことなんだ!」のカタルシスが強いです。読めば読むほど面白さがガンガン出てくる話だと思います)
物語が急速に動く部分における「静寂」がとても心地よく、特に終盤は読んでいて「一生この空気に浸っていたい」と思いながら読んでいました。夜桜と満月を見ると、つい思い出して胸がキュっとなります。

時に前作「ユニバース」の深町くんでも思ったのですが、
黒楠さんの書かれる今作の「先生」のような、「諦念に達しているけど、それでも何かの希望を捨てきれない」キャラクターがとても好きだな……と実感しました。もっと読みたいです。

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