05:旅の護衛

 このまま別れるのもちょっと、ということで、あたしはセドに連れられ、また違う酒場へと入った。さっきの所とは違い、バーのような落ち着いた店だ。


「さっきはありがとう。助かったわ」

「どういたしまして」

「命の恩人にこう言うのも何だけど。あなた、つけてきてたわね?」

「はは、バレたか」


 セドは悪びれずにそう言った。


「マヤのことが心配でね。最近、夜盗多いからさ」

「まあ、結果的に良かったけど、あなたの目的は何?」


 あたしは厳しい目を向けた。そうすると、セドは言った。


「マヤ。俺を旅の護衛にしないか?」

「護衛?」

「うん。俺が居れば、さっきみたいに夜盗を倒すことだって簡単さ。賃金は、生活費だけでいい。どうだ、悪い話じゃないだろう?」


 悪くない話、とやらには裏があるはず。あたしはさらに切り込んだ。


「どうしてあたしなの。旅人なら、この辺には沢山いるでしょう?」

「それは、えっとだな、マヤが魔法使いだからだよ。旅の資金なら、けっこう持ってるんだろ?」

「確かにそうだけど……」


 あたしはノエラに貰った資金のことを思い出した。もう一人分くらいの生活費なら、余裕で出すことができる。それで安全を買えるのだから、彼の言う通り悪い話ではないかもしれない。先ほど見たように、彼の腕は確かなものだ。


「いいわ。あなたを買いましょう」

「よっしゃ、決まりだな!」


 セドは心底嬉しそうに指を鳴らした。




 翌日、レドリシアの入り口で待ち合わせたあたしたちは、シオドルへ続く街道へと歩んだ。

 振り返ると、魔法院の塔が、あたしを見送るかのように高くそびえていた。ありがとう、ノエラ。あたしは心の中で呟いた。


「シオドルは、遺跡の街だ」


 頼んでも居ないのに、セドがそう語りだした。


「俺も一度行ったことがある。学者やら何やらもいっぱい居て、知的な街っていう印象だったな」

「どのくらいで着くの?」

「徒歩だと五日。途中、旅人の宿があるから、泊まりながら行けばいいさ」


 あたしの目前には、小鳥が飛んでいる。道を示す使い魔だ。とはいえ、街道沿いにひたすら進めばいいので、今の所出番はそうないのだが。


「そういや、聞いてなかったけど。なぜガレス山に行くんだ?」

「紅蓮の魔法使い、ドルガに会うためよ」


 ドルガの名は、ヤーデから何度か聞いたことがあった。誰よりも強い、炎の使い手だと。険しい山に住んでいるのも、修行のため。

 しかし、それ以上に、ヤーデとドルガの間には何かがあるようだった。今となっては、ドルガ本人に聞いてみるしかないが。


「紅蓮、か。なんだかおっかねえな。そういやマヤには、二つ名ってあるのか?」

「無いわよ。だから大樹の魔法使いの弟子、って名乗ってるわ」


 二つ名は、誰からともなくそう言われる場合と、魔法院から授けられる場合がある。ヤーデの大樹という二つ名は、一人立ちをした後、当時の魔法院長から命名されたらしい。

 初め聞いた時は、何だそれは、と思ったのだが、ヤーデの深い愛情を受けたあたしには、大樹という名がどれだけの意味をこめられているかが解る。

 二つ名があるということは、それだけ強大な魔法使いだということ。ノエラは気さくな方だったが、ドルガはどうか分からない。


「俺は魔法使いのことには詳しくないが、その手紙、なぜ直接渡さなきゃいけないんだ?」

「郵便じゃ、ダメなのよ。あたしが直接、その方々に会って、手がかりを探す必要があるの」

「手がかり?」

「あたしは、無限の魔法使いを探しているの。セドは……知らないわよね」

「すまん、知らねえな」


 一緒に行動する以上、ある程度の話はしておいた方が良いだろう。あたしは続けた。


「あたしの故郷は、ちょっと遠いところにあってね。そこへ帰るための方法を探しているの」

「そっか。マヤの顔立ち、ここいらじゃ珍しいもんな」


 まあ、異世界から来た、なんて話はもちろんしないけど。したところで、きっと信じてもらえるはずはない。

 セドのお陰で、あたしの旅はずいぶんと賑やかになった。彼は始終、あたしに話しかけてきて、色々と笑える話もしてくれた。

 孤独な旅になると思っていた。たった一人で行くのかと思っていた。そうか、それで彼の申し出を受けてしまったのだな、とあたしは思った。

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