鎖シリーズ

@yougi

第1話




 私には彼女のことがいまだにわからない。

 彼女とは十年以上の付き合いだが、何を考えているのか。

 そのすべてを見通したような海のような鮮やかな紺碧色の瞳も。

 何でも知っているような口調も。

 普通の人には理解できない考え方も。

 彼女自身がまるでこの世界のものでは無いような存在だ。

 だけど私でも、私だからこそ彼女について知っていることがある。それは・・・・・・・・・・・・。

「だからこそ君は僕のことを見ていなければならないんだ。そう思うだろ?」

 彼女はいつものように語る。

「それは何故でしょうか?」

「まったく君は何を聞いていたんだ。君は僕にとってたとえるのならば生物にとっての空気のようなものだ。なければならないものであり、しかしいつもそこにあるのが当然であるように感じてしまうんだ。運命という言葉では言い表すことができない、もっとそれよりも強い何かでつながれている関係なんだ。君がいるからこそ僕がいる。それこそが僕の存在を証明するんだ」

 彼女は昔から何も変わらない。こんな恥ずかしい言葉を平然と言ってのけることも、自分のことを僕ということも、回りくどい言い方も、そしてなぜか僕のは座の上に座っていつものように語っているのも。

確かに僕は一般の成人男性の平均身長よりは高く百八十センチメートル近くはある上に、反対に彼女は百五十五センチメートルほどしかない。そんな彼女が作業中の僕の膝に座るとすっぽりと治まってしまう。

彼女がいるこの状況に僕も窮屈さは一切感じず、むしろ安心感まで感じてしまう。

「なぜいつも僕の膝の上に座るのでしょうか?」

 彼女は質問されても平然と聞いており、少し考えるようなしぐさをしている、普通はこんな質問をされたら恥ずかしがるようなものでは無いのでしょうか。

 しかし彼女は、何か思いついたのか、私の膝の上でまたも語り始める。

「君は朝起きて初めに何をするのかな?」

 そう尋ねられると朝のことを思い出す。私は朝起きてまずは自分の眼鏡に手を伸ばしてそれをかける。

私にとって眼鏡とは生活にとってなくてはならないものの一つである。

彼女は僕の表情を見ながら、理解した様に続ける。

「そう。僕も知っての通り、君は朝起きるとまずは眼鏡をかけるだろう。それと同じなんだ。それはもう生活の一部となり、習慣となっているんだ。だから僕は君の膝の上に座っていることは、僕にとっての習慣であり、当たり前のことなんだ。君もそうだろ?」

 とりあえず彼女が何故私が朝起きたら眼鏡をかけるのを知っているかはおいておこう。

彼女の言う通り私はいつのころからか彼女が膝の上に座っているのは当たり前の光景に

なっていた。それはいつのころかは覚えている。

「フフ、君もやっぱり覚えているんだね。僕もうれしいよ」

 彼女は機嫌をよくしたのか鼻歌交じりで分厚いハードカバーの難しそうな本を開き、読み始めた。

 彼女が読書に集中したのを見ると机に向きパソコンで作業を始める。

 部屋の中には私がパソコンでカタカタと作業する音と彼女が本のページをめくる音だけが響く。

 これが私たちの日常の一コマである。




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