第23話 萌美の正体

萌美の顔をみた瞬間、メンバーたちは蜂の巣をつついたように一斉に騒ぎ出していた。


「ちょっとみんな待ってくれ。いったいこの子がどうしたというんだ」

ーいや、僕も本当はよく知らないんだけどねとは言えない。


「こいつは、俺の会社のパソコンチェックに何度も来ているぞ」

「俺の会社も」

「俺のところも」

萌美が来ているのが自分の会社だけじゃないとわかり、さらにメンバーたちは動揺している。


ーああ、どうしよう。彼女のことがよくわからない以上なんのフォローもできない。


「いったいなんでこいつがここにいるんだ。大五郎さんは俺たちのことを裏切るつもりなのか。これは罠だったのか」

「まさか、そんなことはない!」

「じゃあ、そうじゃない証拠をだしてくれよ」

ーやばい、鉛筆会議が今にも分裂しそうだ。なすすべがない。


そのとき、低い声が聞こえた。

「ちょっと待たんかい」

みんなどこから声がしているのかわからなかった。


「さっきから男のくせにぐちゃぐちゃ言いやがって」

メンバーたちは、萌美の顔を見た。


「ああ、そうだよ。私は国防省コンピュータ部門所属の小川萌美だよ」

そう言って、萌美はテーブルに足をかけた。


ーやばいやつだとは思っていたけど、思っていた以上にヤバいじゃねえか!

僕は、目の前が真っ暗になった。


「早く取り押さえろ!」

メンバーたちが萌美に襲いかかった。


しかし、おそいかかる男たちをあっという間に倒してしまった。


「おいおい、なめてもらったら困るぜ? 国防軍だってさっきから言ってるだろう」

そう言ってパンパンと手を払う萌美。


「私はね、あんたたちをやっつけにここに来たんじゃないんだ。

大五郎、もし私があんたを捕まえるつもりだったなら、盗聴器を仕掛けた時点で捕まえるだろう。証拠はがっちりつかんでいるんだから」

「た、たしかに」


ーたしかにそうだ。彼女は、資料の情報を盗んでいる。鉛筆会議のメンバーたちが全員も捕らえることも不可能ではない。


みんな、メンバーたちの顔を見た。誰もそのことに反論できないらしい。


「私だってさ、メンバーと出会ったら身元がバレるのわかってるんだ。君たちの敵ならば、なんのメリットもないさ」

ーおい、アイドル言葉はどこにいった…。


「私はね、君たちの力になりたいんだ。それでやって来たんだ。私の話を聞いてくれるかい?」

もう、メンバーたちは誰も反論をしなかった。


そのとき、ガチャっとドアが開く音がした。しずくさんだった。


「あなたがここに来てからずっと、僕は知りたかった。なんであなたが私のたちを脅してまでして、ここにいようとしたのか。ぜひ教えて欲しい」

「わかった。教える」


萌美は、自分が何者であるか、そしてこれまでの経緯について話し始めた。



萌美が所属する、国防軍コンピュータ部門は、主に2つの任務を行なっていた。

1つは、ジャーナリストがやマスコミが国に対して批判的な内容を書いたり、スキャンダルを書いたりしていないかというチェックだ。


これらの人々や機関は、情報を公開しようにも、12時間は保留されてしまう。半日の間に、コンピュータや人間の目でチェックを行うことになっているからだ。


逆にいうと、コンピュータ部門のメンバーたちは、国家のスキャンダルに日々触れることになる。収賄、談合などの汚職、売春、不倫、裏取引、ありとあらゆる国の暗部をひたすら隠蔽する。これがコンピュータ部門の重要な仕事の1つであるという。


「でも、こんなに政府の汚い部分を見続けたら、国をどうにかしたいという気持ちに普通ならないか」

メンバーの1人が、萌美さんに質問をした。


「そうね。みんな同じ思いになってると思う」

「だったら、コンピュータ部門がクーデターを起こしてくれたら、一番手っ取り早いじゃないか」

「それがね、そうも行かないの」


政府は、コンピュータ部門に勤務する人間を全て政府メンバーの3親等内の親族で固めているのだ。秘密を守るメリットがある一族で固める。なんとうまいやり方なのか。


さらに、自分が裏切れば、自分だけではなく、国家反逆罪で、親族皆殺し、そういう決まりになっているのだという。


「まあ、法律にはないから、正確にいうと暗殺されるってとこね」

「え、それじゃ萌美さんのことを僕たちが通報したら…」

「私と私の親族はみんな粛清されるわね」

「なんて恐ろしい国になってしまったんだ…」

僕は、クラクラとめまいがした。


「じゃあ、君は危険をおかしてまで僕たちに身分を明かそうとしたということなのか」

メンバーの1人が聞いた。


「だから、最初からそう言ってるじゃない」

「君は、捕まったら家族が殺される。それでもいいのか」

「いいのよ。もう私の家族なんてどうでもいいの」


萌美さんは、うつむいた。こんなに表情のない彼女を見たのは初めてだ。


「そんな覚悟をしているなら、僕たちは君を信じるしかない」

萌美は、正式に鉛筆会議のメンバーに加わることになった。


「あなたたちに、もう1つ話さなければいけないことがあるわ。さっきも言ったけれど、コンピュータ部門にはもう1つの任務があるの」


僕たちは、だまって彼女の話に耳を傾けた。

その話を聞いて、僕たちは自分たちが思っていた以上にかなり危険な状態にいたことを痛いほど気づかされることとなった。



























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