第736話史のマネージャー鷹司京子(6)

史、鷹司京子、華蓮、そして由紀は揃って、大旦那のお屋敷に入った。

大旦那はにこにこしている。

「3月から家族が増えるなあ、史に京子さんに加奈子まで」

奥様は、うれしそうな顔。

「ひっそりとしていたお屋敷が華やぎます」

京子は、大旦那と奥様に頭を下げた。

「こちらこそ、ありがたい人事異動、感謝しております」

「史君のマネージャーなら、やってみたいと思っておりましたので」

大旦那

「こっちの屋敷でも、史の洋館でもいいよ、仕事に都合がいいほうで」

奥様

「史が大学に行っている間は、書類の整理とか、交渉とかあるから、洋館のほうが仕事はしやすいかな」

京子

「そうですね、夜も一緒に帰ってくることが多いので」

「コンサートに出る、あるいは聴きに行った帰りでも、一緒です」


華蓮は、史に声をかけた。

「これで、スケジュール管理は心配ないね」


由紀は、複雑な顔で、他の人には聞こえないようにポツリ。

「なんか・・・史を取られたみたい・・・また、寂しくなった」


大旦那は京子に

「史は、時々体調を崩すから、それはしっかりと管理して欲しい」

京子は、しっかりと頷く。

「はい、演奏力につきましては、すごいものがあります」

「不安は、健康管理だけなので」


史は、少々「心配し過ぎ」と思っているけれど、この場では、なかなか口に出せない。

それより、うつむいて言葉が少ない由紀が心配になった。

そして由紀に声をかける。

「姉貴、部屋を見る?」

由紀は、すぐに頷く。

「うん、見たい」

できれば、史と二人きりで見たいと思うけれど、そうはいかない。


大旦那が立ち上がってしまった。

すると、奥様も立ち上がり、全員が立ちあがってしまう。


大旦那

「本棚とテーブルかな、京都の屋敷から職人を読んで作ってもらった」

史は、目がパッと輝く。

「本当にありがとうございます。」

深く頭を下げるけれど、大旦那はポンと史の肩を叩く。

「そんなお礼はいいよ、あっちに行って部屋を見て」


京子は、もう一言あるようだ。

「それと、史君の定例リサイタルを計画しているんです」

大旦那

「いいねえ、いつ始める?」

京子は史の顔を見て、

「三月の中旬にと」

奥様の目も輝いた。

「よし!私がタキシードを作る!」

華蓮は、大笑い。

「忙しくなりそう・・・」


史は、またうつむいてしまった由紀が心配。

じっと由紀を見ると、由紀は、ますます寂しげな顔。

「私・・・何したらいいの?」

「何かしてあげたいのに、まったく浮かばない」


そんな由紀に京子がピシャリ。

「由紀ちゃん、そんな顔をしては困るの」

「史君の栄えあるデヴューなの」

「お姉さんが、そんな顔していたら、史君が思いっきりできないでしょう」


由紀の背筋は、その言葉でピンと伸びている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る