第709話マスターのひとり言

カフェ・ルミエール夜の部も、いつも通りに終了。

美幸は、帰っていった。

「明日もよろしく」

マスターが声をかけると、美幸は

「はい!こちらこそ!」

満面の笑みを浮かべていた。


「うん、いい娘さんだ」

マスターは美幸に感心している。


カフェ・ルミエールのドアを閉めて、水割りを自分のために作った。

そして、いろいろと思う。


「この店も、おかげ様で大繁盛だ」

「昼間の部も経営的にも、店の内容的にも文句がつけられない」

「二階と三階の文化講座も順調、清の懐石料理店もほぼ計画決定、そろそろ工事がはじまる」

「楽団の演奏も、地域からもプロからも高い評価だ」


「みんな、協力して、うれしいなあ」

「大旦那は、もっとやれって言うし」

「晃さんも美智子さんも、全面協力」

「華蓮も道彦も亜美ちゃんもいい」

「喫茶部の洋子さんもすごいし、奈津美ちゃん、結衣ちゃん、彩ちゃんたちとのコミュニケーション力がいい、本当にスムーズに店が回っている」

「何より、全員が意欲的だ」


「由紀ちゃんと、史君も喧嘩ばかりしているけれど」

マスターはクスッと笑う。

「あの喧嘩も、子供の頃から何も変わっていない」

「可愛かったなあ、二人とも」

「あの二人が、行くたびに、なついてきて、笑ってくれたから」

「辛い修行とか、ホテルのストレスが和らいだ」

「あの二人の笑顔があったから、あの二人の笑顔を見たくて、頑張ったのかな」


水割りが二杯目になった。

「涼子が、俺のところに押しかけてきて」

「無理やりだった、でも、俺の女に下手な性格は、涼子じゃないとだめだ」

「上手に持ち上げることが何もできない」

「そういうのは、晃さんが上手だ、さすがに源氏学者だ」

「史君は・・・下手かもしれない」

「里奈ちゃんが彼女になってよかった」

「里奈ちゃんが彼女になってくれなかったら、あの女難は続いたかな」

「それも、史君の怪我が原因か・・・」

「時々、怪我をするし、風邪は子供の頃から、よく引いたなあ」


水割りが三杯目になった。

「この店も、このビルも、なかなか締められない」

「となると、京都の屋敷は・・・どうするかなあ」

「親父と母さんは、戻って来なくて寂しいのかな」

「隠居したら・・・それはいつだ?」

「涼子と住むかなあ・・・」

「祥子は、誰と?」

「・・・考えたくない・・・」


マスターは、ひとり言をやめた。

キッチンに入り、祥子のための、特製ミルクリゾットを作りはじめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る