第702話愛華と史(1)

愛華は新年会兼披露宴当日に、史に「告白」することは叶わなかった。

史は、由紀、加奈子、華蓮まで加わって、大旦那の孫の海外旅行計画で大盛り上がり、部屋にこもったままで、出て来る気配もない。

それに出てきたとしても、いきなり、そんな話に持って行くことは難しい。

由紀にも加奈子にも華蓮にも重々言われていること、「史君には里奈ちゃんという、両家が認めた立派なしっかりとした彼女がいるの、だから無理だと思う」、それがすごく重い。


「私なんて、目の前に史君がいても、舞い上がってしまって、普通に話もできん」

「私の気持ちは史君にあるけれど、史君の気持ちは、私には何もない」

「ただの遠縁の女の子だけ」

「大学受験も結局、都内の音大は失敗」

「結局、京都の女子大、ますます遠くなる」

「・・・どないしよ・・・」


打ちひしがれた状態で愛華は、自宅に戻った。

食欲もなく、部屋にこもる。


ベッドに寝ころび、天井を見て、考える。


「無理やろか・・・」

「縁がないのやろか・・・」

「・・・でも、告白してないのに」

「告白の段階にも、状態にもなっとらん」

「親しく話したこともない」

「・・・でも、好きなんや」

「史君の、少し笑った顔が可愛くて」

「子供の頃から好きやった」


部屋から出てこない愛華を心配して、父の雅仁と母の良子は心配でならない。

雅仁

「こればっかりは、本人同士の問題や」

良子

「本人同士も何も、愛華だけや、史君は愛華の気持ちなど、知らんし」

雅仁

「知ったところで、無理やろ」

良子

「奥様にも聞いたんやけど、史君の彼女は里奈さんが最適と」

「史君、時々神経質に悩むから、それを里奈さんが、全てサポート」

「里奈さんがいなかったら、今の史君はいないって」

雅仁

「仕方ないなあ、いい御縁かと思ったんやけど」

良子

「うーん・・・愛華も・・・いざっという時に、気が弱いんや」


愛華は、スマホを手に取った。

「とにかく連絡しないと、話が進まない」

「告白・・・できても、できなくても、史君に逢いたい」

「絶対、二人きりで逢いたい」

「由紀、加奈子、華蓮などオジャマ虫には、絶対知られたくない」


「史君、どうしても、お話したいことがあるの」

「二人きりになれる所で逢いたい」

愛華は、震える指で、史にメッセージを送った。



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