第695話京都での新年会兼披露宴(6)

マスターは、満面の笑みを浮かべて、乾杯の発声をはじめた。


「皆さま、あけましておめでとうございます」

「本日の素晴らしい祝宴に際しまして、そして、それ以上に、道彦君と亜美さんの素晴らしい幸せな将来を願って」

「皆さま、全員でお祝いしようではありませんか、全員で、道彦さんと亜美さんを応援しようではありませんか!」


「さあ!乾杯しましょう!」

「あけましておめでとうございます!」

「道彦君、亜美さん、末永くお幸せに!」


マスターは思いっきり息を吸い込み


「乾杯!」


素晴らしく、うららかな乾杯の発声。


宴席全体が、にぎやかな乾杯に包まれ、大拍手となった。




亜美は、また泣いてしまった。

「感激しちゃった」

道彦は、亜美の手を握る。

「さすがマスター、人をひきつける」


大旦那は、舌を巻いた。

「俺より上手だ」

奥様は、大旦那にチクり。

「あなたの、御演説が長かったから、ますます上手ねえ」

晃はニコニコ。

「マスターも、去年から、この新年会に出席したんだけれど、昔の明るい顔に戻った」

涼子が涙ぐみながら晃に頭を下げた。

「晃さんのお陰です、いろいろ周囲を説得してもらって」


晃は、笑って首を横に振る。

「僕の希望だったし、マスターは一族にとって、いなくてはならない人」

「文化講座まで考えれば、ますます重要度は高い」

「でも、そんなことより、マスターが好きなの」

「涼子さんに落ち着いて良かった」


涼子は、晃の言葉で顔をおおって泣き出してしまった。


その涼子の背中を、美智子がトントンとたたく。

「涼子さん、泣いてばかりいると、しょっぱい前菜になってしまいますよ」

「マスターと清さんの合作でしょ?」

「おそらく、とんでもない仕掛けをしてくるはず」


涼子は、泣き笑いで、美智子に応える。

「マスターがね、変なことを言っていてね」

「マスターが和食を調理して、清さんが洋食を調理」

「中華風は合作するとか」


史も、少し聞いている様子。

「マスターがね、食材に国境はないって言っていた」

「前菜は、正統ながらね、少し工夫を凝らすって」


由紀は、清の言葉を思い出した。

「清さんも、和の技術で、洋食を作るって言っていたよ」

「私には意味わからなかった」


晃は、また違う観点から一言。

「最近、360年ぶりに再建となった興福寺の中金堂も、アフリカの材木を使っているらしいね」

「そんな時代になったのかなあ」


加奈子の目がパっと輝いた。

「あ!前菜が来るみたい!」


加奈子の言葉通り、前菜が配り始められている。





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