第694話京都での新年会兼披露宴(5)

道彦は全員に頭を下げて話し出す。

「本日は、新年会に私たちの披露宴を兼ねていただいて、心より感謝申し上げます」

「ご存知の通り、僕は5歳の頃から、ずっと両親と一緒で、海外暮らし」

「最後は、パリだったのですが、大旦那からお話があり、僕だけ、日本に戻ってきました」

「そして、当初は大旦那の文化財団の事務、そして最近は、ご存知のカフェ・ルミエール文化講座の事務局として、働いております」

「スタッフとしては、京極家の華蓮さん、そして、僕の妻となってくれた亜美」

「晃様やマスターや清さんも、講師として、参加されているので、全く不安はなく、むしろ、思いっきり、いろんなことができる状態」

「そのうえ、史君も時々参加してくれて、楽しく仕事を行っています」


道彦のスピーチは、ほぼ情勢報告も兼ねて続いていく。


「一族の集まりだし、端的でいい、美辞麗句で飾っても仕方がない」

美智子は亜美を見ている。

「本当に、きれいなお嫁さんねえ、あの子大好きなの」

涼子も、頷く。

「すごい気働きをする、私も感心するほど」

晃はうれしそうな顔。

「接客名人の涼子さんに、それほど評価されるとはね」

史も、じっと亜美を見ている。

「姉貴より、よほど頼りになる、落ちついているし」

由紀は、ムッとしてポカリとしようと思ったけれど、さすが人が多すぎて恥ずかしい。

「絶対、後で」と思っている。

加奈子は、興味深そう。

「元、超一流企業のOLさんでしょ?経理もすごいって聞いた」

「教えて欲しいなあ、経理も」

ただ、愛華はもはや完全に居眠り状態、何も聞いていない。


道彦の「ご挨拶」が端的に終わり、亜美も立ち上がって全員の祝福を受ける。


史は、マスターをじっと見ている。

「確か、料理の前の乾杯の発声はマスターだよね」

涼子はニコニコしている。

「マスターは、案外上手なの、こういうの」

美智子も笑い出した。

「そうねえ、伝説だよね、ホテルの」


司会者からアナウンスがあった。

「それでは、長らくお待たせをいたしました」

「乾杯の御発声を、マスターに!」


それだけで、集まった一族は、ドッと湧いた。


マスターは、含み笑いをして、歩きだした。

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